11.パウラ
エルフの少女。名前を”パウラ”というらしい彼女は、カレリア砦の者達の注目の的だ。自分の後ろに隠れるように歩く彼女に全ての視線が集まり、自分が透明な人間かのような感覚に陥る。自分の2歩前を歩いている騎士団長の姿さえも、周りの兵士たちの目には入っていないだろう。
そもそもエルフを見る事自体が珍しいのだが、それがこのカレリア砦という前線かつ戦時だと猶更で、誰の目から見ても美しく映るであろう彼女の容姿は、大きな外套と深く被ったフードから時々見えるだけでも兵士たちの印象に残るものだったに違いない。
兵舎で体を休めている所を騎士団長に無理矢理連れだされ、第四門でお出迎えをした彼女は一言も喋ることはなく、なぜ自分が連れ出されたのかいささか謎だ。だが、周りの者達に会話を聞かれることなく、騎士団長にお伺いをする絶好の好機であった。これを利用しない手はない。
「騎士団長、お話が」
「ん?なんだ」
「部隊の人選についてなのですが」
「ん?任せると言っただろう」
「カールを部隊に入れたいのです」
「カールって、あのカールか?普段辺境伯の護衛をしている」
「はい」
「うーむ。多分大丈夫だが、辺境伯に聞いてみない事には分からないな」
「はい、あとは騎士団長が薦める人はいますか?」
「あぁ~そうだな……エドガーは連れていけ」
「私もエドガーは最初に選ぼうと思っていました」
「ハハッ、そうか。では私から言う事はないな」
騎士団長から普段より柔らかい雰囲気が出ているのは、後ろにエルフの少女がいるからかもしれない。かと言って特別少女を気に掛けている様子もなく、淡々と道を歩き大ホールへと向かう。エルフの少女がカレリア砦に到着したことによる招集だ。
大ホールの中の空気はいつも以上に威圧的で重たい。前線は第二騎士団団長のルーカスが担当した為、騎士団の団長副団長が全員揃っており、全ての爵位持ちと森の手の団長副団長という、カレリア砦の”偉い”人物たちが勢ぞろいしていた。
「騎士団長、その子が例のエルフの子供か」
「左様でございます」
「エルフの子よ……私はここより遥か東の森より来た、獣人族のコルソだ。君にいくつか聞きたい事がある」
今までに見たことが無いほどやさしい表情の、コルソをその場にいる全員が驚いたように見ている。自分も今まで怒っている表情しか見たことなかったが、それは他の者達も同じようだった。ただ、あまりに迫力の有るその顔面に張り付いた精一杯の優しい笑みは、気の弱い人が見たら気絶してしまいそうな見た目をしている。パウラは怯えたような表情はしていないが、返事は「……コクン」と音が聞こえそうな頷きのみだ。
「うむ。では、君はどこの出身なのだ?冬の北方樹海を、アイボリー山脈を超える方法を知っているか?無事に「落ち着いてくださいコルソ団長。一度に質問しすぎですよ」
あまりの圧力に、パウラは自分の後ろに隠れて押し黙ってしまった。そして彼女が背伸びをして自分の耳元に口を寄せると、ほのかに自分の鼻腔をくすぐる森の香りが漂ってきた。前回感じたような、湿った土や薬草の香りではなくリラックスできるような香りだ。
「あの野蛮な見た目の獣人に通訳して。分かってるって」
意識してしまい硬直している自分を意に介す様子もなく、通訳の仕事を頼まれた。正確には我々は大陸語を使っているので必要ないものなのだが、耳元に吹く生暖かい風がそんなことを気にする余裕を生まない。
「わ、分かっているそうです」
「「「おぉー」」」「希望が出て来たな」「素晴らしい」「コルソ!怖がられているぞ!」
「えぇい、この顔は生まれつきだ!」
「それで、無事に行けるルートは?」
「教えない。それは我々の秘密『教えない、それは我々の秘密』だそうです」
「では、どうやって向かうのだ?」
「一緒に付いていく『そしてこの風魔法の使い手のみに共有する』」
「……だが、子供が行くには」
「『関係ない、じゃないと教えない』」
「待て、それでは部下の命に責任を持てないではないか!保証もないのに25人の命を預けることはできない」
「まぁコルソ、いつもの怖い顔に戻っているぞ。エルフの子よ、私はここの領主だ。私から聞きたいことは一つ、その風魔法使いの男はリデルというのだが、そいつを殺そうと思っているか?」
怒りのコルソを窘めた男とは思えないほどの怖い質問が、彼女に投げかけられた。その質問に間髪入れずに返答を返す。
「『勿論思っていない』」
「ならいい、この話はこれで仕舞いだ。君を信頼しよう」
「『それは良かった』」
「次の話だ。丁度皆揃っている所だし、部隊の人員の話を通しておいた方が良いだろう。リデル決まっているか?」
「はい。森の手からは前の調査隊で一緒だった5名が欲しいです。他はコルソ団長にお任せいたします。騎士団からはエドガー、ウィルそれにカールを」
「コルソ何かあるか?」
「……いや、ない。私が決めるより、その5人に決めさせる」
「森の手は大丈夫、騎士団は?」
「こちらも問題なく、人員はエドガーが選抜します。辺境伯、カールは宜しいので?」
「あぁ、別に襲撃が有って以来、流れで騎士団から護衛に入ってもらっているだけだからな」
「ふむ、では問題ないな。次の議題に移ろう」
つつがなく進む会議に置いて行かれないように必死に頭を回しているのだが、意識はずっと同じ距離感にいるパウラに持っていかれ、会議が終わった時には話の内容を半分も覚えていなかった。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




