9.起死回生の策
「いや、そうでもない、一応考えが有る。ここにいる方々に提案が」
「ベゴニア子爵はいないが……構わん、言ってみたまえ。ヴェンツェル・ナッフート騎士団長」
「では、申し上げます。”森の手”はこのカレリア砦の防衛に加えません。別で動いてもらいます」
「ほう、続けろ」
「簡潔に申し上げます。森の手と騎士団から選抜した者達で帝国の後背面を叩き、敵の指揮官若しくは貴族を殺害します」
一瞬、大ホールが水を打ったように静かになった。居並ぶ者達は様々な格好で思案に入っていて、可能かどうかを計算している様だ。そして騎士団長が沈黙を破り、引き続き説明をはじめた。
「皆さんの考えていることは分かります。冬の樹海は無理、冬の山越えは無理、敵の後背面には必ず警備が付いている、到達したとしても帰還できない」
「分かっているならば、何故説明し始めたのだ騎士団長」
厳しい表情のオスカリ・バーミリオン男爵が叱責するような口調で喋りはじめると、それに同調するように森の手の団長であるコルソが頷いている。森の手としても、王国中の童話や寓話に語られる冬の樹海とアイボリー山脈に、わざわざ死にに行くような真似をしたくないはずだ。
「それに、カレリア砦が現状の戦力で、奇襲部隊が回り込むための時間は稼げないと思うぞ。何日かかる?無事に到着したとして30~40日は見ておいた方が良い。その日数までここが持たないのは、前線指揮官の一人である君が一番わかっている筈だ」
ゆっくりと諭す口調の辺境伯と意見を異にする人間はいないだろう。自分や他の護衛も騎士団長の口から出た作戦は、荒唐無稽なものだと疑っている。だが、騎士団長は余程自信があるのだろうか、その空気に臆することなく、貴族達に対しても視線を外すことなく真っ直ぐな目をしている。
「勝算はあります。今考えうる問題をひとつずつ話していきましょう」
「ふむ」
「冬の北方樹海そしてアイボリー山脈越えは、現地人を案内人として活用いたします」
「北方樹海の住人は、決して友好的に知っている道を語ることはないぞ。それが自分達の身を守るからな」
「もちろん、重々承知しています。ですが我々には一人だけ候補がいます」
「……エルフの子供」
「はいその通りにございます。既に呼び出しておりますが、到着は明日明後日になる予定です」
「早いな……だが、エルフは排他的だぞ。協力してくれるとは思えん」
「エルフが排他的なのは、自分の村を守る為です。彼女は帝国に自身の村を焼かれ同胞を殺されており、帝国に恨みがあります」
「その感情を利用するのか。気が引けるが、我々は一人のエルフの心情に配慮する余裕のないところまで来ているな」
「それにもう一つ協力できる要素があり、心配ないかと。これで我々は冬の北方樹海とアイボリー山脈の地図を手に入れたことになります」
エルフの子供、そして彼女という言葉から導かれるのは、自分が初めて北方樹海に入った時に保護した子供の事だった。これまで彼女は沢山の悲しい経験をしたはずだが、それさえも利用して何とか戦況を有利に傾けようとする騎士団長の策には嫌悪感を覚えた。だが、そんな自分の心情など関係なく議論は進んでいく。
「わかった、次は敵の後背面の警備の話か?」
「はい。我々は雪が降り始め冬に入った今、北方樹海から敵が来る可能性は限りなく低いと考えていますね?それは敵も同様でしょう。以前リデルの調査隊が鹵獲したコルテス家の鎧を活用し、敵領内の城塞を全て避けるコースを取れば、敵の後背面まで到着できるものと考えています」
「コルテス家の鎧とは……紳士協定に違反することになるな」
「紳士を気取ることが出来るのは、優勢側の特権です。今我々にはありません。それに、帝国領では普段見慣れない者達の行き来が激しいでしょうし、十分隠匿できます」
「後背面の突き方については宜しい。では次に帰還方法を話してくれ」
「コルテス家の鎧を纏っていて、指揮官を暗殺できたとしたら前線は大混乱でしょう。悠々とカレリア砦まで歩いてもらいましょう」
「ん?待て待て。森の手も同行するのだろう?獣人が帝国の鎧を着ているのを近くで見られれば、即死だぞ」
「包囲陣まで到達できればヘルムを被っていても不審ではないです」
「無茶だな。どうせ明日までエルフの子は来ないのだろう、そこは少し詰め直せ」
「分かりました」
残るは最大の問題である、カレリア砦が持つかどうかの議論が始まる。例え全ての事が完璧に、上手く進んだとしても、それまでカレリア砦が残っていなければまったくもって意味の無い事なのだ。さっきまで前線にいた自分が感じる限り、この砦は持って20日、下手すると15日とかで崩壊しそうな危うい雰囲気があった。
「どうやってカレリア砦を維持するつもりだ?」
「少し、帝国に脅しを掛けてやりましょう、そこで時間を稼ぎます」
「脅し?」
「えぇ、こいつです。少し危うい賭けになるかもですが」
そう言うと騎士団長の指は真っ直ぐ自分をさし、それと同時にこの場にいる全員の視線が集まった。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




