8.立ち食い
風魔導士による防御魔法が復活するまでは、更に3日を要した。その間、朝晩問わず続く攻勢に疲弊を重ねる王国兵を鼓舞するように、騎士団長も城壁の上で戦闘指揮をし始めた。
風魔法の防御が復活してからは帝国の攻勢はしばらく小康状態だったが、もしまた風魔法の防御が無くなることがあれば、一方的に削られ続けるだろうということを、ここにいる王国兵すべてが知っていた。この籠城戦も、その状況が来るまでのいくらかの時間稼ぎでしかないことに、皆苛立ちを覚えている。
「リデルさん、交代の時間ですよ」
「ん?もうそんなに経ったか」
胸壁に身を預けて休憩していたところに、ウィルがやって来てあっさりと告げた。前線兵士と前線指揮官が交代する日だったようだ。毎日毎日同じことの繰り返しで、日にちが分からなくなっていた。
既に晩秋と言える期間は終わり、雪が降る上に寒さが初冬に入ったことを知らせている。王国最北の地であるカーマイン辺境伯領の冬は厳しくも美しいと聞いていたが、美しさを感じることが出来るほどの余裕は誰にもない。既にくるぶし程まで積もった雪を踏みしめながら、交代により第二城壁の門に吸い込まれていく者達の足取りは、雪が降っていなくても重いものだっただろう。
第二城壁内にある宿泊施設に吸い込まれていく兵士たちの後ろ姿を見送りながら、先に砦内に入っているであろう騎士団長の背を追った。
「悪いな。休みたいだろうに」
「いえ、護衛が仕事ですから」
砦の門の前で立ちながら食事をとっている騎士団長に対して出たのは、自分の中の本音と建前が入り混じった言葉だった。本当は休みたい心と、重要な話を耳にしたいという好奇心がせめぎ合ったものだ。
「ほら、リデルお前もなんも食ってないだろう。スープでも飲んでから入ろう」
「はい。頂きます」
「食べながら、話してくれていいんだが」
「ハフハフッ…はい」
「マジックアローは実際どれくらい使えるものだ?何か戦況を変えることが出来るか?」
「……難しい話ですね」
「質問を変えよう。そのマジックアローとやらの使い時はいつだと考えている?」
「帝国の指揮官が1000フィートの距離まで近づいた時、敵が直線に並んだ時……城門を破られたときでしょう」
「1000フィートだと?狙撃するのか」
1500フィートでも行けるような気はするが、必ず当たる自信はないので謙遜したうえで1000フィートだ。これはルーシーとの実験で既に出来る事は分かっている。
「はい、問題なく」
「トレビュシェットと同じ射程じゃないか」
「それが問題なのです。結局、帝国指揮官はトレビュシェットの射程まで入ってきません」
「そうだろな。後は城門を破られた時か」
「えぇ、丁度城門程度の広さの敵を一掃できます。ただ魔力をすべて使い果たすので一度きりになります」
「それで一掃できる数は?」
「100…か多くて200」
「だが城門を突破される頃には、こちらの戦力は残っていないと」
「はい」
マジックアローの使いどころは、どちらにせよ望みの薄い最後の抵抗の手段だった。では果たしてその状況になるまで、秘密の兵器として勿体ぶるべきなのかと言われればそれは分からない。敵の攻勢の途中で使用すれば間違いなく敵の勢いを止められるが、あくまで一時的な物だろう。連射できないことを知られれば、元の状況に逆戻りだ。
「ふむ、分かった。食べ終わったな?行くぞ」
慌てて残りのスープを飲み干し騎士団長の背中を追いかけたが、追いついたのは大ホールの前だった。そして何事もなく、これまでずっと騎士団長に随伴していたかのように入室すると、中にはしばらく振りに見る顔があった。
「ナッフート騎士団長、戻りました」
「ご苦労、戦況は聞いている。コルソ、森の手は?」
「北方樹海に変化はありませんでした。もういないとみていいでしょう」
「うむ、では…」
「はい、明日には”森の手”の全員がここに到着します」
「心強いな」
騎士団長の「何とかするさ。それが俺と貴族たちの仕事だ」という言葉は、嘘偽りのないものだった。自分がカレリア砦に到着した時に参加した会議の言葉にあった「カレリア砦に危機が迫った時」という場面が今なのだろう。森の手が北方樹海の警備を捨ててここに合流する様だ。
「ですが、聞き及んでいる限り焼け石に水では?」
「いや、そうでもない」
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




