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7.後送


「…デルさん……リデルさん!!」


 隣で自分を呼び立てるウィルの声が響くが、どこか反響するような、遠い場所から呼ばれているような感覚だった。ウィルに肩を掴まれ揺らされ、やっとのことで手放しかけた意識を戻すことが出来る。


「遅かったか……」

「何のこと言ってます?」

「俺が、俺がもう少し……」

「リデルさん!生きてますよ!」

「もう少し早ければ、生きてたかも……」

「いや、だから二人とも生きてます」

「生きて…ん?生きてんの?」

「二人とも傷は負いましたが、魔導医に治療を受けた後です。一応傷が深いので後送されます」

「動いてないよ?」

「治療の例に漏れず気絶しています」

「えぇ……」


 喜ぶより先に困惑と、ここまでの自責を返して欲しいという感情が湧き出てきた。その次に生きていて良かったという安堵、最後に心配だ。


「傷の具合は、そんなにひどいのか?」

「フレディが左腕と右足の深い切り傷、アントンが右目の負傷と体に複数の刺し傷です。二人とも療養が必要です」

「戦線にはいつ復帰できるんだ?」

「しばらくは無理でしょう、晩冬か春先とかになるかと」

「そこまでなのか」

「えぇ、重症です」


 ゆっくりと二つの布の山に近づくと、二人とも死体と見間違えそうなほど生気のない顔で横たわっていた。よっぽど治療が痛かったのだろう、気絶しているにもかかわらず表情は疲れて見え、アントンが治療された右目の傷跡も痛々しい。

 2人は大けがをしたが、我々は戦争をしているのだ。周りを見回してみると、次から次へと運び込まれる負傷兵に魔導医達が治療を施し続けているので、常に救護所は阿鼻叫喚と言ってもいい状況だった。ここで治療を受け泣き叫んでいる者達を見ていると可哀そうになって来るが、外の城壁の上で死んだ仲間よりはまだマシだろう。


「二人は後送か」

「えぇ、間もなく運び出す予定です。魔法防御がない分負傷者が増え続けているので、場所を空けなければなりません」

「子爵の屋敷だったな」

「そうです。アリザリンという村です。村と呼ぶには少し大きいですが」

「ウィルは大変だな」

「いえ、私の仕事は部隊の管理ですから」


 そこから少しウィルと戦況について話をした。今我々はじりじりと押されているが、自分達にとって一番の問題は、風魔法の防御がこちらだけない状況だという事だった。一方的に撃たれ続けているので、どうしても帝国兵を城壁の下まで張り付かせてしまう。明日になればまた魔導士が復活しているという保証もない。このまま被害が増え続けるのは明白だった。


「自分達下っ端がどれだけ考えたって変わらないか」

「えぇ、魔導士を増やすことはできません」

「持ち場に戻ることにするよ。ウィル、フレディとアントンをよろしく頼む」

「お任せください」


 ゆっくりと阿鼻叫喚の救護所を出て、矢を補充してから城壁へと向かって歩き始めた。今向かっている城壁の上も結局、阿鼻叫喚の嵐が吹き荒れているのだと思うと、なかなか足が重い。

 頭の上に盾を掲げながら進んでいくが、少しは攻勢が落ち着いているのか、矢の雨は中々降ってこなかった。それは城壁の上に登っても変わらず、偶に味方のアーチャーが胸壁から顔を出して敵を撃っているくらいだ。自分も確認しようと胸壁の上から顔を出して覗いてみるが、既に敵はある程度の距離を取った後で、敵の姿は小さくなっている。

 この状況から予想できることは、帝国は城壁の上の占領に失敗しかなり陣形も乱れたはずで、態勢の立て直しの為一時撤退したといった所か。

 現状また自分が必要とされるのは、また帝国軍が攻め寄せて来た時だろう。その時まで休憩することにして、報告の為に指揮所にいる騎士団長の元へ向かった。


「リデル、戻りました」

「ん、ご苦労だったな。帝国が城壁に乗ったらしいな」

「はい、厳しい状況でした」

「風魔導士がいないと厳しいな」

「こちら”だけ”いない状況が厳しいです。帝国のアーチャーに対して有効打が、第二城壁の投石機とトレビュシェットだけですから」

「第一城壁にあるバリスタは?」

「魔導士の防御魔法がないと、ただの的になってしまいます。その上城壁に張り付いてくる歩兵の撃退だったり、破城鎚への攻撃に使っています」

「そうか、分かった。魔導士がな…難しいんだ。長期戦になると援軍に頼ってきた面があるからな」

「マルコ・セルリアン子爵は連れてきていないんですか?」

「あぁ、もともとセルリアン子爵領には魔導士が居ない。全て北方大公の下にいる」

「その北方大公は、中央平原に向かってしまったと」

「そういうことだ」

「正直申し上げますとこの状況が続くのであれば、第一城壁は早晩陥落するかと」


 自分の言葉に騎士団長は頷き、少し考えるようなそぶりを見せている。敗北主義の様な事を口に出すのは憚られたが、前線で戦っていて感じた事実だった。いくら敵の方が被害が大きいと言えど、人数差が埋められないほどの大きな差を感じている。


「何とかするさ。それが俺と貴族たちの仕事だ」

はじめまして。都津トツ 稜太郎リョウタロウと申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。

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