6.救護所
基本を忘れるところだった。
そもそもマジックアローを使わなくても、魔力を込めるだけでそこそこの威力になるじゃないか。
ただ普通の矢に魔力を込めると、とにかく魔力の消費量が多い。魔力総量の半分込めてやっと、マジックアローに10分の1の魔力を込めた時以下の威力だ。だがこの状況で四の五の言ってられない。マジックアローを使わずに敵を倒すことが出来るのであれば、使わない手はないのだ。
マルセラが言っていたことを一つ一つ思い出す。また、あの得意気な顔まで浮かんできた。
重心を意識して、姿勢を整え、弦に指をかける。
弓を持ち上げ、矢に魔力を込め始める。
弓を引く時に鏃に向かって流すイメージに変えて、引き切る。
十分に魔力を込める事が出来ている筈だが、やはりマジックアローとは感覚が違う。入れたそばから流れ出る穴の開いた水筒の様だ。
今回の狙いは、敵の梯子。もうそろそろ三本目も掛かった頃だろう。その三本をまとめて吹き飛ばす。
やっと少しは魔力が溜まったような気がする。
重心を崩さないように立ち上がり、胸壁から顔を出した。予想通り、城壁に掛かった3本の梯子には、攻め入る順番を、今か今かと待ち侘びる帝国兵の集団がいる。
魔法の放出は、逆刺部から螺旋状に流すイメージ。
そして放つ。
放たれた矢は空気を切り裂く音と共に進み、敵の梯子を手前から破砕していく。
3本の梯子に身を預けていた帝国兵は途中で砕けた梯子によって、城壁に叩きつけられ地面に落ち苦しみ悶えていた。
追加で登って来る敵が居なくなった城壁上では、戦況が動き始めている。ある程度の数の帝国兵に登られてはいたものの、孤立無援の状況では左右からの王国歩兵に挟まれ、ただすり潰されるのを待つだけの状況だ。短時間で敵の城壁上の拠点をつぶせるのは、ここに敵のまとまった弓兵部隊が到着していなかったからだ。帝国の動きが遅くて良かった。
城壁の上で行われていた攻防が落ち着いた安心感からか、少し胸壁に身を預けて休憩したくなる。だが、他の場所の戦闘はまだ継続したままで……
フレディとアントンは?
城壁の上の戦闘が終結し、補充兵を連れたウィルはまた頭上に盾を掲げながら、負傷兵を連れ出している。再び降り始めた矢の雨から逃れるように、胸壁を頼りに元の持ち場へと歩き始めた王国兵の中に二人の姿はない。
「おーーい!ウィル!」
ウィルはこちらの声に反応はなく、そのまま味方に指示を出し続けている。自分が近づいて行った方が早い。
手近にあった松明を手に取り、ゆっくりと胸壁の側を味方と譲り合いながら進んでいくと、城壁上に足の踏み場がないほどの帝国兵の死体が広がっている。そこに混ざって時折、王国の鎧を纏った兵士の死体もある。
その一つ一つの顔に光を当ててみるが、フレディとアントンの顔は見えない。ここに居ないのは、無事か負傷して後送された後のどちらかだろうという楽観と、一度同じ隊として、部下として接した者が死んでいるかもしれないという恐怖感は、心に焦りを与えて鼓動を早くしていた。
「いない……」
見える範囲の王国兵の死体は確認したはずだった、取り敢えず城壁上に彼らの亡骸はない。一つの安心材料を得たことで、まだまだ続く戦闘の声が色々な場所から聞こえて来ていることに気づいた。そしていつの間にか、指示を出していたウィルと負傷者を運んでいた者達は姿を消している。
敵の攻勢が続く戦場で一人二人の事を気にしてはいけないのだろうが、自分にはどうしても気になり、急いで城壁を駆け下りて救護所に向かう事にした。
救護所の中は魔導医達が駆け回り手当てをしていて、それに伴って断末魔が行く先々で上がっている。その中で紙を片手に何やら作業をしているウィルを見つけた。
「ウィル!ここにいたか」
「隊ちょ…リデルさん、ご無事でしたか」
「もちろんだ」
「敵の梯子砕いたのは、リデルさんですよね?」
「あぁ、危なかったな」
「助かりました…正直陥落するかと」
「そうだな。ここにフレディとアントンは運ばれてないか?」
「いますよ…そこに」
そう言ってウィルが指さす先には、布が掛けられた二つの動かない人の大きさと同じ山があった。
少し落ち着いていた心臓が敵襲の鐘を打つように早くなり、どうしようもない絶望感と吐き気に襲われる。自分がもう少し早く気づけていれば、マジックアローを躊躇せず使っていれば、自分に敵を圧倒できる剣技を持っていれば、と沢山の後悔と立っていられない程の無力感に苛まれた。
「リデルさん……」
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




