4.お見舞い
帰還するために、また2日かけて通った森を抜け、平原を1日駆けると本隊の陣地に着いた。
衆目が騎士団に注がれる中、整然と歩き本陣天幕前の広場に並び跪くと、天幕から軍の指揮官である第一王子が出て来た。
「王国近衛第三騎士団 只今戻りました」
やはり団長の声はどこでも太く響く。
「ご苦労であった。皆、頭を上げよ」
他の者たちと同様に自分も顔を上げると、第一王子が見えた。身長が高く体格がいい。見た事のある第三王子の顔の雰囲気が似ている。金髪碧眼の表情は自信と誇りに満ち溢れ、精悍な騎士そのものだった。
「報告致します」
周りに集まって来た者たちにも聞こえる様に、団長が一際大きくハッキリと発声する。
「ここから3日の距離にて帝国騎士団と会敵、威力偵察の為、交戦致しました」
ざわめきが広がっていくのも気にせず、団長はさらに続ける。
「我ら第三騎士団はこれを粉砕し、20余名と敵団長を打ち取りました。こちらが敵団長の剣であります」
報告を受け、待っていた周りの者たちは口々に歓声を上げた。
第一王子は団長が両手で掲げた剣を受け取ると、鞘を引き抜き確認して頷いている。そしてそれを天高く掲げると、更に大きな歓声に包まれた。
前哨戦の勝利に味方の士気が上がっているのを感じる。
「ご苦労!よく、我々の土地に踏み入って来た帝国に、王国の武威を見せつけてくれた!敵は今頃、王国の精兵に恐れをなしていることだろう!!」
「「「「オーーーッ!!!」」」」
自分達も野次馬も士気が上がって、口々に雄たけびを上げている。
「第三騎士団は、追って命あるまで待機。解散!」
団長が報告の為に本陣の天幕に入っていくのを見届けて、自分たちも野営準備の為にそれぞれの場所に向かった。
野営の準備が終わり、負傷者テントに顔を出すと一人寂しくマルセラが寝ていた。
「マルセラさん、元気そうじゃないですか」
「どこがだよ!お前も体を炎で焼かれて、骨を無理やり繋げられてみろ。死んだ方がマシだと思えるぞ」
マルセラの負傷が心配で見に来たが、冗談を言い合えるくらいは元気らしい。
「良いですねー、テント貸切ですか」
「平民の負傷者は俺以外いないからな、騎士様達は貴族用のテントだし」
「そういえば、第一王子見ましたよ!カッコよくて強そうでした」
「あー、そうか」
いつものような感じではない、何か含みがありそうな返事だ。
「なにか、あるんですか?」
そう問いかけるとマルセラは周囲を見渡し、顔を寄せるよう手招きした。
「アイツはな、確かに戦いは強いが良いやつではないぞ」
「アイツ呼ばわりはまずいんじゃ」
「俺の初陣はな、アイツの初陣と一緒だったんだ」
次期国王に対してアイツ呼ばわりは聞かれたら首が飛ぶ。まだ死にたくないので嗜めたつもりだが、それでもやめない。声のトーンを更に落とし、マルセラは語り始めた。
「あの時は、逃亡兵と野盗が合わさって王国南部で暴れ回ってるって話でその討伐だった。相手は300、こっちは500だった。南部を3〜4日位追い回して追い詰めたんだが、近くにあった村を人質取って立て籠ったんだよ。後から聞いたら200人くらいの村だったらしい。そしたらあの王子何したと思う?」
「その感じだと、構わず倒して犠牲が出たとか?」
「もっと酷い、完全に包囲した上で村に火を放って村人ごと焼いたんだ。結果として野盗も村人も誰一人、生きては出られなかった。そして何事もなかったかの様に、その晩討伐隊で酒盛りだ。ニコニコ笑顔で俺たちに労いの言葉をかけに来たよ。アイツは平民のことを人間と思っていないんだ!」
「抑えてください!聞かれちゃいますよ」
熱くなり、声が大きくなっているマルセラを落ち着かせた。
「じゃあ、第二王子の方が良いんですかね?平民にも分け隔てなく、優しいって話ですし」
「人柄の部分だとそうだな」
「じゃあ、人柄以外はダメなんですか?」
「今回俺たちはなんで戦争しに来たと思う?」
「そりゃあ、帝国が侵攻してきたからじゃないですか」
「いや、まぁそれはそうなんだが。城二つと、砦3つが帝国に取られてるだろ?」
「はい。噂だと郡令伯爵が防衛に失敗したらしいので、戦上手な第一王子と優秀な将軍達とで、これから防衛と奪還の戦争が始まると」
「よく考えてみろよ、国王が何もせず、おめおめと5つの拠点と領土を渡すと思うか?」
「いや、そんな事はないと思います」
今の国王は優れているらしいという事は平民の自分でも知っている。事実、王位を継承した時より、領土が1.5倍になっていると訓練騎士団で教わった。そして大国相手でも決して引かない、媚びない。そんな姿勢から国民から獅子王と呼ばれている。
「だろ?獅子王だぞ?聞くところによると、帝国の動きがあった時点で、王命があって第二王子とお付きの2人の爵が防衛に加勢したらしい」
「あー、確かにそんな話ありましたね。公然の秘密になってるやつ。その時近衛騎士団入ったばっかりだったんで、余裕がなくて忘れてました」
思い出したのが、第二王子付きの第六近衛騎士団がボロボロの状態で帰ってきて、どうやら第二王子が戦争で大負けしたという話だった。
「んでよ、その後第六のアーチャーの知り合いに話聞いたら、2人の爵の間を仲裁出来ない、戦争に必要な決断もできない、先延ばしにするで、ずるずる後退して最終的にこっぴどくやられたらしい」
この話は、確かに第五にいる同期から自分も聞いた話だった。もっと詳しいところも聞いていた。
「これじゃあ、どっちの王子もなって感じだな」
「それじゃあ第三王子とか」
「は、ないな『ないですねー』」
変なところで、声が揃ってしまった。
「王国の未来は暗いか」
そう言っているマルセラの顔は全く暗くないのが、面白くてどこか救われる。
「まぁ、どちらにしても自分達平民には、だれが王だとか関係ない話ですけどね」
「ふっ、そうだな」
その後も暫く冗談を言い合ったり、飯の話を話し込んでいると、弓兵隊長がテントに入ってきた。
「マルセラ、加減はどうだ」
「暫くは安静だそうです」
「そうか、養生しとけ。リデル、昼に団長から命令下達がある」
「わかりました」
「マルセラ、お前は後からリデルに聞け。では」
「お疲れ様です」
短い会話で弓兵隊長は出て行った。
マルセラが負傷したときに一緒に救助に向かった弓兵隊長ではなく、冷淡でどこか諦めが感じられるいつもの隊長に戻っていた。
「じゃあ、また後で来ますね」
「おう」
そう言い残し、ガラガラの負傷者テントを後にした。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。