10.カレリア砦防衛会議
「リデル、何用か?」
他の者達が退室し、辺境伯と騎士団長のみが残った空間で、こちらの意図を推しはかろうとする2人の視線を浴びた。2人から探るような目で見られても出てくるものは一つだ。
「あの~、私の配置はどこへ?」
「ん?あぁ、そうだったな」
調査隊は先ほど解散を言い渡された。調査隊の隊長でもなければ、現状所属しているところもない自分は、この状況では何をすればいいか、どこに居ればいいか分からない。
「うーむ、戦時に教官の仕事はない上に、その手ではいきなり前線に出ることはできんだろう」
辺境伯が指さす先には、包帯が巻かれた自分の右手があった。
「騎士団長に付け。ナッフート、いいか?」
「承知しました」
「そう言う事だ。リデル弓兵教官には、騎士団長付を命ずる」
あっさりと決まってしまったような気もするが、仕方がない。
部屋を出ていく騎士団長について外に出ると、どこへ向かうか分からないこの状況が、ふとカーマイン辺境伯領に来た時を思い出させた。
「今回は良くやったな」
騎士団長が自分をほめた言葉で、目の前に浮かんでいた記憶から意識が戻った。
「えっ、あっはい。ありがとうございます」
「叙爵は無理だろうが、この活躍ならば何らかの褒賞があるだろうな。これからも期待しているぞ」
「はい」
自分に爵位が付くなど縁遠すぎて、叙爵など一つも考えたことがなかった。
ただ、どうも自分には向いていない気がするのだ。近衛にいた時に接した貴族は、ロクな奴はいなかった。こっちに来てから少しその印象は変わったものの、ルーシーに聞いた話では、この辺境の地でさえ貴族というのは、面倒臭いしきたりに縛られている。それなら森の中を駆け回っている方が自分には向いていそうなのだ。
「当面は私の護衛として動いて貰おう」
今日は何かと考えに耽ってしまう日の様だ、またもや騎士団長の声に少し驚いてしまう。
この筋骨隆々の団長に護衛が必要かと言われれば違う気がするが、盾になる事くらいはできるだろう。そんななか違う趣旨の言葉も出てくる。
「後はユーリ隊長の代わりに技術と戦術の指導を行うくらいか」
「お待ち下さい、護衛は出来ます。弓の撃ち方くらいなら教えることもできます。ですが、戦術は無理です。一つも知りません」
自分は平民出身な上、近衛でも新人だった。貴族か部隊長になる者でなければ、一生平団員だ。戦術など教えてもらう機会はない。
自分の慌て様を見て、団長も自分が平民出身だと言うことを思い出して、考え直したようだった。
「そうか、そうしたら弓兵戦術のことは、帰ったらユーリ隊長に聞くといい。あいつも俺たちが帰る頃には元気になってるだろう」
「はい」
北方樹海の調査に続いて、またもや無理難題が降りかかってくるのは避けられたようで、ほっと胸を撫で下ろした。
「私について回れ、しばらくはそれでいい」
その言葉通りだった。防衛について王国で右に出るものはいないと言われるカーマイン辺境伯軍は、敵の攻城兵器を破壊し、城壁に取り付いた兵士を撃退し続けた。その戦闘は三日三晩続きお互いの兵士をすり減らしながら迎えた5日目。
「敵は我々に援軍が来ることを知らないのか?」
冬の気配が色濃くなった寒風が、体を打ちつける。ひと足早い冬の到来に、着ているマントの裾がはためいて、バタバタと音を立てていた。
「そんなことは無いと思いますが……奴ら、随分と悠長な持久戦を仕掛けて来ていますね」
我々がいる第二城壁の上からはこちら側にへこんだ第一城壁がよく見える。その奥には狭い山間の通路に人とテントが満ち満ちているが、敵はお互いの射程ギリギリを使って、遠距離武器を放ってくるだけだった。
矢は風魔導師により、お互いの敵に届くことはなく、バリスタや投石器が主たる攻撃手段だった。それも敵側は第二城壁の上にある投石器の狙いによって、有効射程で発射する前に破壊されるか、退却を余儀なくされていた。
「こちらとしても、長期戦になる分には良いでしょう」
横の階段から前線の第一城壁で指揮を取る子爵が登って来た。これで数日前の会議にいた人が揃った。今回はそれぞれの後ろに1人か2人護衛がいるために、第二城壁の塔の上は少し狭く暖かい。
「ご苦労、子爵。そっちの様子はどうだ?」
「ジリジリと人が削られています。相手の被害も大きい筈ですが、母数が違いますので」
「そうだな、最初の3日間で敵の破城鎚は片付けたが、数で押されるとどうもな。援軍が到着すれば。と言ったところか」
「えぇ。もうそろそろ先遣隊が到着する頃ですか?」
「そうだ。今朝早馬が来た、昼過ぎに侯爵殿の先遣隊が到着する」
「まったく敵は何をしたいのだか…」
この城壁上での会合は、先遣隊の到着を待つためだったらしい。そこから暫くお偉いさん方は人の配置の調整や、援軍の配分などについて話し合っていた。
「「「「「オォー」」」」」
谷を吹き抜ける東風に乗って、辺境伯領側の出入り口から歓声が届いた。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




