8.合流
短い旅を終えた自分達を出迎えたのは、黒髪長髪を後ろで結った無精髭の男だった。
「私は、第四門責任者のルーカスと申します。ノルデン第二騎士団の団長をしています」
「あ、はい。初めまして」
「疑問な顔ですねー」
「騎士団の団長なのに、何故1番領地側の門なのか?」という疑問が顔に出てしまっていたらしい。それに気を悪くした様子もなく説明が始まった。
「騎士団の団長は、ノルデン騎士団でも王国の伝統に則って、騎兵が務めるんですがね。如何せん防衛戦の時に、騎兵は衛兵するか歩兵するかの選択しかないんですよ」
自分が所属していた近衛に限らず”騎士団”という軍団は、基本的に防衛戦に参加することはなかった。それは”騎士”という文字の通り、戦場で馬に騎乗して機動力を発揮することが主目的だからだ。
同時に騎士という騎兵という事に誇りを持っている騎士団員は、馬を降りてそこいらの一般兵と同じ行動をさせられる事を不名誉としている。自分はその不名誉を、騎士団長の口から語らせていた。
「すいません!失礼しました」
「良いんですよ!リデル弓兵教官は、圧倒的な弓の腕前を持っているとか。心強い限りです」
圧倒的な弓の腕前を披露した覚えはないのだが、噂が随分と一人歩きしているようだ。今は右手を怪我し、弓を引けない体の自分に過度な期待をしてもらっては困る。
「そんな事はないのですが...…ところで我々はどこに行けば?」
「おおっと。そうでした、辺境伯がお呼びです。おーい、イゼー」
イゼーと呼ばれた若い男が、奥の方から走り寄ってルーカスと少し言葉を交わしている。
「初めましてリデル弓兵教官。このアイゼンデがご案内します」
「よろしくお願いします」
金属鎧が擦れる甲高い音を響かせながら、スタスタと迷いなく歩くアイゼンデの後ろを着いていくと、坂道を登った先にまたもや門が現れた。急峻な山の中腹に建てられたその門の中は、まるで小さいノルデン城だった。
小さいノルデン城と言えど、中は簡素な作りで前線の砦だという事が分かる。飾り気のない廊下を少し歩き、ホールと言うには少し小さく、部屋というには大きい一室に通された。
その中ではカーマイン辺境伯を中心として、大きい机を囲むように座る男たちがいた。全員が完璧に磨き上げられた金属鎧を身に纏い、見るからに身分が高そうな格好をしている。
「リデル弓兵教官をお連れしました」
静かで固い雰囲気だ。恐らく形式ばった仕草をしたほうが良いだろう。
「リデル並びに調査隊9名。只今カレリア砦に到着いたしました」
「リデル、ご苦労だった。それに調査隊の皆もご苦労。これで調査隊は解散だ。それぞれの部隊に復帰せよ。リデル、君はここに残れ」
背後に視線を投げ、一人一人の顔をみて労った辺境伯が、自分達に伝えた。日数にすれば10日ほどだったが、常に気を張り続けていた分1月程にも感じる。隊長なんてものも未経験で、何もかもが難しかった。全員に少なくとも一回は助けられたような気がしないでもない。
10日前まで名前も顔も知らない者が大半だった筈なのに、今まで隊員として動いてくれていた者達が部屋から出て行き、騎士団や森の手に戻って行くことになるのがとても寂しく感じた。
最後に部屋を出たフレディが閉じた扉の音が静かな部屋の中をこだまし、この場に残っているのは自分以外爵位を持っているか、それなりの立場の者達だろう。以前であればユーリ隊長の影に隠れて目立たない事を願っていたが、不思議と物怖じしていない自分がいた。
「マクナイト男爵の様子はどうだ」
辺境伯から自分への問いかけだった。辺境伯が出発した後の様子を聞かれているのだろう。
「芳しくありませんでした。ここ数日が山場だそうです」
「そうか、まぁマクナイト男爵は強い男だ。回復を祈るしかないな」
辺境伯が心配そうな顔で呟いた言葉に、周囲も頷いている。少しの沈黙の後、最初に言葉を発したのはナッフート騎士団長だった。
「辺境伯。リデルから樹海の報告してもらいましょう」
「そうだったな。リデル、頼む」
「はい。遭遇したのは5日目、本流から...」
起こったことを追って説明していった。敵の部隊との遭遇場所、キャンプの規模と人数、持ち込んでいた物資量。コルテス家というエドガーの見立て。
「...そしてホール前の敵を一掃し帰還しました。以上で報告は終わりです」
顎に手を当てて一つ一つの報告を、かみ砕くように頷いていた辺境伯が首を大きく縦に振った。
「ご苦労だった。エドガーの見立ては間違っていないだろう、あれはコルテス家の家紋だった」
「となると、我々の正面に見える敵は帝国北西部の者たちだと見るのが妥当でしょうか」
「そうなるな。帝国は西部諸国との不可侵がある内に勝負を決めに来たのだろう」
「勝負を挑む先が、我らが鉄壁のカーマイン辺境伯領とは……奴ら過去の話を聞いてこなかったのでしょうか?」
「それを聞いた上での…ノルデン城に対する襲撃だろう。あの襲撃が決まれば勝負はすでに決していた」
「では襲撃を撃退した以上、いつも通り援軍が来るまで耐え切るのみでしょうか」
「そうなります、既に急使を送っているのであと5〜6日で侯爵軍が、15日程で北方大公軍の先発隊が到着するでしょう」
あっという間に流れて行く話についていけてない自分がいる。もっと勉強すべきだったのか、それともここにいるべき人間では無いので理解できないのか、もしくは両方か。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




