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7.カレリア砦


「リデルさんは、何のご用でこちらへ?」


 気まずい静寂の時間を破ったのは、顔を上げたルーシーだった。彼女との突然の遭遇と、重たい内容の会話していたことで、すっかり目的を忘れていた。蝋燭の光が目立たなくなるほどに窓から差し込み始めた陽光が、自分が集合時間に遅刻している事を知らせている。


「マジックアローをまた、お借りしようかと思って来ました」


 彼女は納得したように頷き、無言で椅子から立ち上がった。そのまま奥の机のそばに歩み寄ると、いくつか置かれた矢束を無視して、机の中から鍵を取り出した。その鍵は隣の棚の下段の物だったらしい。

 さらにその中の鍵付きの箱を開けると、見慣れた二つの球がついた矢を取り出した。随分厳重に保管していたようだった。

 一人で探していたら間違いなく、見つけることが出来ずにノルデン城を出発することになってただろう。ここでルーシーと会えたことに感謝だ。


「これが、今出せるマジックアローの全てです」


 ルーシーはそう言うと、両手の上に乗せた2本の矢をこちらに差し出した。手の平に乗せられた2本の矢をゆっくり取り上げると、いつまでも慣れない、普通の矢とは少し違うバランスと重さが、自分がマジックアローだという事を伝えて来る。


「ありがとうございます。大事に使わせてもらいます」


 まだ彼女は静かに頷くだけだ。


「この2本分の代金も私の給金から引かれますか」

「ふふ、それは勿論」


 ルーシーを元気付けたくて少し冗談を飛ばしてみると、暫く振りに彼女の口角が上がってくれた。


「帰って来たら少し交渉させて下さい。このままだと、しばらくタダ働きなので」

「仕方がないですね、分かりました」

「よろしくお願いします。では」

「ご無事で」


 ルーシーにかけられた言葉を噛みしめ励まされながら、遅刻していることもお構いなしに、ゆっくりと集合場所に向かう。調査に出発した時と同じ城門だが、破壊された城門と周囲の風景が、出発した時をだいぶ前のように感じさせる。


「おはよう、遅れて申し訳ない」


 既に調査隊の9人は全員揃っていた。


「いえいえ、どちらに行かれてたんです?」

「コイツを補充しに行ってた」


 矢筒から二つの矢を引き抜き見せた。朝日に照らされた二つの丸石が綺麗に光を反射している。


「あぁ、例の凄いやつですか」

「そうだ。これが必要になるだろしな」

「でも、手の方は大丈夫なんです?」


 エドガーが指さす先には、自分の右手があった。巻かれた包帯には血が滲んでいる。


「分からんが、5日あれば戦えるようになるとは思う」

「5日ですか、その怪我ではもっとかかりそうですが」

「分からんが…多分な。それにどこか怪我しているのは皆同じだ」

「それもそうです!」


 全員がどこかかしらに包帯を巻いていて、装備の隙間から白い布がちらちらと見えている。それが私たちが北方樹海で生き抜いた証左だった。


「よし、出発しよう」


 調査に出た時の馬は、結局ウィルの村に置いたままだ。仕方なく厩舎で新しい馬を借りた。

 辺境伯領を西に横断する道から、北方樹海の方角に逸れて馬を預けている村に続く道をひた走った。こちらに来てから何回も使っている道は慣れたもので、障害もなくあっという間に前回宿泊に使った村に着いた。


「ウィル!頼めるか」

「りょーかいです。隊長」


 前回と変わらない村の正門と、前回と変わった隊員達の態度が少し誇らしくも感じる。少なくとも前回ここに来たときよりも、隊長然としているだろう。

 ウィルと衛兵が話をして順当に門が開き中に入ることができた。ここで一泊したのち、前回預けた馬を回収して乗り換える予定だ。


 だが村に入った時に少しの違和感に襲われたが、違和感の正体に気が付くのには長い時間はかからなかった。戦争中だというのに村の様子が全く変わりないのだ。

 おそらく兵士として前線に向かっているのか、男の姿は少ないがそれでも前線の村にしては雰囲気が落ち着いている。普通は浮き足立ち、暗くなったり逃げ出したりしそうな雰囲気を感じるのだが、この村は違った。


 感じたことを夕食時に質問として隊員たちに投げかけてみると、そこに違和感を感じるのが特殊だという反応をされ、それぞれのテキトーな返答が帰って来る。

 曰く、「慣れている」「信頼している」「今まで突破されていない」のが理由らしい。

 幾度か押し寄せて来た敵も、数によって押し切る事はできず結局撤退していて、今回もそうなるだろうという見立てだそうだ。

 ただ今回はノルデン城に侵入された分、いつもより不安な空気が漂っているらしいが、自分から見ると一つもそんなことはない。と言えるくらいだった。普通領主の城が燃えたとなれば、出ていける者達はどこかに行くものだ。


「辺境伯領では、どこでもこんな感じなのか?」

「えぇ、ラスティラヴァ辺境伯への…いやカーマイン辺境伯家への信頼によるものですかね」


 そこまでの信頼を得る辺境伯軍の防衛とは一体どういうものなのか。弓兵の練度を見た時はそこらの一般軍と変わらなかった気がするが…いずれにせよ明日には到着する砦で見ることができる。


 馬を取りに行くための寄り道からノルデン城と砦を結ぶ道に出ると、まばらな間隔で負傷者を後方へと送る馬車とすれ違う。エドガー曰くカレリア砦で防衛戦が起きた時は、半日程下がった所にある子爵の屋敷がある村に後送されるらしい。補給物資等の集積拠点も同じだそうだ。


 3刻ほどゆっくりと馬を走らせると、次第に近づく砦の存在を遠目に立ち上る煙が知らせ、次に血と煙の匂いが、そして最後には響き渡る怒号と喧騒が迎えてくれる。


「リデル弓兵教官以下10名ですね。よぉこそ!帝国の屍薫る、カレリア砦へ!」

はじめまして。都津トツ 稜太郎リョウタロウと申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。


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