3.戦闘の終わり
「マルセラさん!」
名前を呼びながら滑り込むと、マルセラは呻き声を上げながらこちらを見ている。
「リデル、、、草に足を取られてよ、コケたら突撃に巻き込まれちまったわ。ハハッ」
いつもの様に、本人はニヤついた笑みを浮かべたつもりなのだろう。だがこちらには、痛みのあまり引き攣った表情にしか見えなかった。
右手は真っ赤に染まり、右足の膝から下があらぬ方向へ向いている。素人目でも分かるほど重傷で、これでは動けない。
「大丈夫ですから!戻りますよ!」
声を掛けながら自分より体格がいいマルセラを何とか運ぼうとするが、二進も三進も行かない。
「2人で抱えるぞ」
いつの間にか傍には弓兵隊長が来ていた。堅物で、何に関しても諦めがちな隊長だが部下を見捨てなかったらしい、多分自分の後をすぐに追いかけて来てくれていたのだろう。
「はい!」
土魔導士が構築した土壁の裏が野戦病院になっている。そこを目指し、マルセラを2人でかかえて一気に本陣まで走った。
「魔導医!魔導医!負傷者だ!」
本陣近くまで到着すると土壁の裏からひょこりと魔導医達が顔を出し、マルセラを荷車の上に乗せるよう促された。
「あとは任せてくれ」
そう言うと3人の魔導士は、マルセラの口に乱暴に布を突っ込みながら自分達を追い出す。マルセラは口に布を突っ込まれながら、こちらに「ん~~~」と言いながら何かを訴えてくるが、任せるしかないのでそのまま出ていった。
「隊長、すいません。助かりました。」
色々な意味を込めた謝罪と感謝をする。
「平民のよしみだ、次やったら軍規違・・『ゔおぉぉぉぉぉーーーー』」
獣でもいるのかと思う様な声が、荷馬車から聞こえてくる。
「治療中だよ。水魔導士が傷をきれいにして、血が出ているところを火炎魔導士が焼くんだ。もうそろそろ気絶して静かになる・・・ ほらな」
確かにマルセラの声が止んだ。「いや、ほらなじゃ無いでしょ」という言葉が出そうになるのを。やっとのことで押し留める。静かになりすぎて死んでしまったのではないかと、心配になるほどだ。
「すいません、治療ってものを知らなくて」
「戦場にいたら否が応でもこれから見ることになるさ、矢を補充して整列しとけ」
体に付いたマルセラの血をぬぐい、矢を補給して弓兵隊列に戻ると今の戦況が目に入った。
敵歩兵は弓兵を守りながらゆっくりと本陣に後退している、流石に厚みのある対騎兵の陣形が完成した所にはこちらの騎兵隊も突っ込まない。軽くちょっかいをかけているだけだ。だが、陣形が完成するまでに結構な歩兵と弓兵が削られたのだろう、目に見えて数が減っている。
敵の騎兵は戦場からいなくなっていた。我らが騎士団が刈り取ったのか、はたまた逃げたのか。帝国の騎士団長は騎兵と行動を共にする。どちらにせよ騎兵の姿が見えない時点でこちらの勝利だった。
帝国の重装歩兵と弓兵が後退しきった頃に戻ってきた騎兵達は、目が血走り殺気だっていて自分の血か敵の血なのか分からないほど赤黒く汚れていた。
「弓兵隊、戦場から仲間を連れ帰って来い」
騎士団長が目をギョロリとさせながら命令する。殺気がすごい。多分今一言でも口答えしたら、数瞬後には頭と胴体はさようならしているだろう。
帝国軍の姿が完全に森へ消えたのちに戦場に入った、味方を弔うことが出来るのは勝者の権利だ。
今回犠牲になった者は5人だった。他に2人戦場に倒れていたが、息があったので魔導医の元へと運ぶ。運んだそばから絶叫が聞こえて来るが気にしないことにした。
亡くなった5人を土魔導師が作った穴に入れると、騎士たちが丁重に埋葬の準備を始めた。遺髪と遺品を取り、包んでいる。穴を埋めそれぞれの剣を突き立てた後に、全員で整列して祈りを捧げた。
帝国では遺体は燃やして弔う、戦闘に負けたら戦場に放置される。そのどちらも自分は嫌だなと思いながら装備をまとめた。今回の戦闘で5頭の馬が潰れた、負傷者は馬車に乗っているので2頭が余る。その馬たちを引っ張る準備を終え、騎士団は帰途についた。
本隊と合流する道中は、いつも無駄話をするマルセラが馬車に乗っていたので静かなものだった。考え事をする時間も沢山ある。
そんな中で思ったのが、騎士団におけるアーチャー(弓兵)の評価があながち間違っていないという事だった。一般兵と違い騎士団は基本的に、敵味方共魔導士を抱えている。つまり風魔導士がいる為にお互いの矢は届くことは無いのだ。
いてもいなくても変わらないが、敵にいるから抱えなければならない。さらに弓兵隊長の言葉通り、アーチャーは平民が大多数を占める。貴族から騎士団に入団するのは嫡男ではないが、それでも剣術や馬術の教育を受けている。よほど才能がないか疎まれていないと、貴族からアーチャーになることはない。同じ騎士団の中といえど、騎兵と弓兵ではそもそも身分に差があり過ぎるのだ。
そんな状況では、騎士団において謗りをうけるのは仕方の無いとも言えた。もう騎士団を辞めたくなってきたが、給金が良く生活の為に辞められない。
「ハァー」
大きなため息がでる。
あの時魔法学校に入っていなければと言う後悔が、頭の中をぐるぐる回り続けた。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。