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2.上陸


 水の上からの射撃は初めてだ。増水している分艀が揺れ、狙うのがなかなか難しい。

 狙い目は艀の上下の揺れが、沈み切った時だろう。艀の上下に合わせて呼吸を整えた。体が浮いた時に吸って、沈んだ時に吐き出す。


 こちらに手を振って、また談笑に戻った奴らの一番手前を狙う。


 300フィート、揺れる艀からはまだ遠い。200フィートだ。


 決意した距離が近づいてくる。


 揺れと呼吸を合わせて、吸って・吐いて・吸って・吐いて・今。


 引き絞られた弓から放たれた矢は、水面を疾走し、陸の上を流れるように進むと、敵の胴体に吸い込まれていった。

 呼吸を合わせながら2本目の矢を番えて放つが、慌てて散開し始めた男の腕に当たっただけだ。遠くから叫び声が聞こえる。

 あっちは誰から撃たれたのかわかっていない様で、「味方だー!」と口々に叫ぶ声が聞こえるが、残念ながら敵だ。


 その声を目掛けて他の2人のアーチャーも、矢を放ち始める。

 手近な物陰に隠れてこちらを伺っていた彼等は、やっと我々を敵だと認識したようで、矢の撃ち返しが帰ってきた。射撃や投石の為に顔を出したところを狙うが、そう上手くは行かない。ほぼ真横に近づくまでに倒せたのは3人程度だった。


「突っ込め!」


 自分の号令を合図に、船を操っていたサルキがゆっくりと方向転換し、進路を岸に取った。正面を向けた事で、船首に取り付けた盾に反撃の矢が当たり、鋭くも鈍い音が響く。

 河川港や河原へ乱雑に乗り付け、乗り上げている敵の艀に船体をぶつけながら前に進む我々の艀は、前は盾で見えずとも、足元から伝わる川底に擦った感覚で上陸した事が分かった。


「行くぞ!」


 短い号令でエドガーとアントンが鹵獲した大盾を体の前に構え、艀から飛び降りた。前に進む勇敢な水音を合図に、他の者たちも船を次々と飛び降り二人の後ろに続く。


 アーチャーはここでは端役だ、援護に徹する。


 時々船体の盾から顔を出し、前衛を狙う敵のアーチャーや、手近な石を拾って投げつけてくる敵兵に向かって矢を放つ。粗方アーチャーが片付いたところで、大楯を捨てて一気に前に出た7人は、人数有利を活かしてあっという間に、河川港を確保した。


 河川港には貿易に来ていたのであろう、亜人たちの屍が累々と積み上げられていた。おおよそ人の扱いではない。家畜でも、もう少しマシな弔われ方をする。

 ”人類の誇り”教徒が残した光景に、亜人の集まりである”森の手”の者達は苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。


「後で弔おう。今は最短で城内に行くぞ」

「了解」


 目の前の出来事から意識をそらそうとしているのは、周りも分かっているだろう。誰も何も言うことはなかった。

 エドガーとアントン、2人に先導されながら見る城内は、出発前とは似ても似つかない空気だ。あれだけ賑やかだった、市場の通りには人っ子1人おらず、所々焼け落ちた建物には、まだ火が燻っていたりした。

 時々現れる見回り兵に接敵しては矢を射かけ、時には切りかかり進んでいく。障壁になる様な大部隊には遭遇せず、2人もしくは5人組の部隊だった。略奪をしているわけではなく、見回りに徹しているという点で、しっかりと訓練されていることが分かる。それでも亜人に対してはあの扱いなのだから、人間というのは良く分からない。いや、寧ろよく訓練されているからなのかもしれない。

 内城壁に近づくにつれて街の惨状は酷くなり、市場の裏の通りを抜けて、工房が沢山あった場所では半分以上の建物が未だに火が燃え盛っていた。遠くから見えた黒煙は工房地域からのものだったのだ。


「もうすぐ、内城門です」


 アントンの言葉に、緊張が走る。そして願いも。

 哨戒ポイントからの急使によりノルデン城の対応が間に合って、内城門が突破されていない事を願うばかりだ。


 だが、その願いは無惨にも打ち砕かれた。


 どこからか出現した破城槌と破壊された城門、無数の敵味方の死体が入り乱れた惨状だった。

 おそらく騎士団の知り合いもいるのだろうが、エドガー、アントン、ウィルの3人は止まる事なく、城内に入っていく。唯一動揺しているフレディは、実戦の経験がないのかもしれない。さっきまで話していた奴が、物言わぬ肉塊になる瞬間は経験しないと踏み越えるのは難しい。


 無数に散らばる死体を避けながら、城内へと前進し続ける。

 城内に入ると時たまこだまする悲鳴や、怒声が敵の居場所を教えてくれる。その一つ一つを助けに向かう訳にはいかない。ここで感情に任せ、一々助けに回ってしまっては我々の身がもたない。最初に向かう場所は、カーマイン辺境伯の居室と大ホールだ。城内に侵入され、味方が生きているのならば、最後に集結出来るのが、城内最奥のその二か所になる。

 

 城内の狭い廊下には抵抗の跡が見える。背中に傷を負った味方の数が少なくなり、敵の死体の数も増えて来たのだ。逃げ惑うだけではなく戦ったのだろう。もしくは一方的にやられる様な者達は、倒されただけなのかもしれない。


 「頼む」と誰かの祈る声が聞こえた。


 それが何に対してか、は分からない。もしこの城内を完全制圧されていたら、自分達もこの場から逃れるのは至難の業だ。


 騎士団の開発室を通り過ぎる時に、思わず中を覗き込んで見てしまうが、リアの姿は見えなかった。味方と行動を共にできていたらいいのだが…


「隊長どうしました?」

「何でもない…進むぞ」

はじめまして。都津トツ 稜太郎リョウタロウと申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。

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