1.帰還
艀の船底が時々、増水したレイトリバーに叩きつけられ、大きな音を出している。会話するにも大変な状況だった。
「敵はもうノルデン城に到達していると思うか?」
「エドガーさんの話も加味すると、丁度今頃かもう着いている頃でしょう」
なんとか、撃退するとまでは言わないまでも、籠城できていることを祈るしかない。いきなりの奇襲でも、辺境伯や団長、ユーリ隊長が生きていれば何とか守ってくれているだろうという安心感がある。ふとリアの顔が頭に浮かんだ。
彼女は大丈夫だろうか。ナントカ開発室も城内にあるのだ、敵の奇襲から逃れられてればいいが…
焦る心を何とか抑え込む。どう頑張っても、これ以上早くノルデン城に到着する術はないのだ。
「俺たちはいつぐらいに着く?」
「昼前といったところですね、この調子だともう少し早いかもしれません」
「俺たちの到着までノルデン城はもつと思うか?」
「わかりませんが、辺境伯領の方々ならきっと何とかしてくれています」
これまでに通過した、川沿いの哨戒ポイントには人がいなかった。敵を発見した伝令が、走って十分な時間が取れていることを祈るしかない。
周囲が明るくなってきたのは、太陽が昇っているからだけではない。樹海の木々が徐々に密度が減って、明るさが増している。もうすぐ樹海を抜ける合図だった。
横にひたすら鬱蒼と茂っていた草木が、徐々に開け正面には平原が見えてきた。暫くぶりの開けた視界と、吹き抜ける風に爽快感を感じる。
だが、もうどこで敵に遭遇してもおかしくない。完全に樹海を抜けたところで、全員を起こした。
「全員起きろ!もうすぐノルデン城だ!」
「戦闘準備、団旗を下せ」
帆に括り付けられた団旗が下ろされて、静かに準備が始まる。船首には船内を隠すように盾が増やされ、船腹には大量の盾が吊り下げられた。
下手したらここから300人の相手をしなければならない。矢筒には出来る限りの矢を詰め直して腰に下げ、天幕から奪って来た背負う矢筒にも矢を詰め込んだ。かなりの重さになってしまったが、これで100本近く持ち運べる。
フレディは艀にしがみついたまま準備していて、矢筒はひとつで、片手剣を持っている。問題はカンブリーだった。ショートボウの矢が無いので補充しょうがないらしい。ロングボウも背負っているが、小柄な分扱いづらそうだ。
「カンブリー、その本数で大丈夫か?」
「撃ち切ったら、後はコイツで行きます」
小さい体に似合わない、背中の両手剣を嬉しそうに指さしている。
カンブリーはかなり器用な方だ。何とかなるだろう。
その後ろで騎士団の男たちは、背中に2本目の剣を背負っている。
「邪魔じゃないのか?」
背中を指さして言うと、首をすくめて返答が帰ってきた。
「剣は3人切ったらなまくらになって5人切ったら只の鉄の棒になってしまうんです」
「2本あれば暫くは何とかなりますよ。もし足りなくなったら、あとは転がってるやつで戦います」
今までの人生で、1人も切れた事のない自分には無縁の話ではあったが、歴戦の3人が言うのであればそうなのだろう。
「隊長こそ、その数の矢は重いんじゃ?」
「いざという時は捨てるさ」
身軽さは確かに欲しいが、10人で相手するには遠距離で削らなければ勝ち目のない数だ。幸い前衛は心強いし、たくさん持っているに越したことはないだろう。
レイトリバーから見える途中の集落が、襲撃を受けた様子はない。至って平和な空気な分、皆心の中で実は自分たちの勘違いだったのではないか、という気がしてくる。
だが、そんな期待を打ち破るように次第に近づくノルデン城の方向には、幾つかの黒煙が立ち昇っていた。
「マジかよ」
ポツリと誰かが呟き「間に合わなかったか」そんな不安が心の中を満たしていく。
「やれる事をやるしかない。この中で城内の道に詳しいのは誰だ?」
「私とアントンでしょう」
「では、エドガーとアントンが先導してくれ、森の手が続いてアーチャー、最後がウィルだ」
隊列が決まり、狭い艀の中で順番の入れ替えが始まる。上陸援護の為に3人のアーチャーは、船首の盾の裏に隠れる。
ノルデン城が近づいてきた。
「姿勢を低く、待ち伏せに備えろ」
河川港にはまだ敵兵がいるだろう。自分達が倒した本来到着する筈の部隊の為に、河川港を確保しているはずだ。
ノルデン城の北側にある雑木林を抜けると、外城壁と水門が見えて来た。水門は閉じておらず、そこに本来居るはずの衛兵の姿が見えない。
開け放たれたままの水門越しに、立ち昇る黒煙が見える。間違っていて欲しかったが、遠くから確認できた黒煙はノルデン城下のもので間違いなかった。
河川港は水門を抜け、林と第三訓練所の先にある。
林を抜け、第三訓練所の堤防を通過した所からすぐに視界に入った河川港には、10人程度の集団が立っていて、こちらの姿を確認すると手を振って来た。服装は間違いなく、自分達が樹海で倒した奴らと一緒だ。
「敵だ。俺が撃ったらフレディとカンブリーは射撃を」
確かな闘志と共に頷き返した2人を確認し、矢を番えた。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




