11.帆走
「それは…結構まずいな」
全員の視線が集まった。不安を煽るような言葉を隊長たる自分が口にしてしまったことを反省する。
今まで少しの余裕を感じていたのは、森の手の二つの哨戒ポイントがレイトリバーにあるからだ。普通の艀が向かうのであれば、ノルデン城に先に伝令することができ、戦闘準備をする時間が確保できる。だが森の手の伝令と時間差なく、領内に不意打ちで敵が出現したとなると、戦闘準備が出来ず、一気にノルデン城が陥落する可能性がある。
燃え上がるノルデン城が目に浮かんだのは、自分だけではないだろう。
「せめて、差を少しでも開かないようにしたいですね」
「風魔導士か」
ウィルとカンブリーが発した言葉に、自分に注目が集まった。
「ん?なんだ?」
「リデル隊長、風魔導士じゃ」
無意識に15覚醒の自分を、風魔導士だと思っていなかった。不意を突かれて慌てて否定する。
「いや待て!俺は確かに風魔法は使えるが、そよ風程度しか出せない15覚醒だ。7覚醒の風魔導士には遠く及ばん」
「でもさっき、敵を一掃してたじゃないですか」
「それは秘訣があったからだ」
「その秘訣使えません?」
フレディに指摘されてハッとした。確かにマジックアローについている増幅石があれば、大魔導師並の力が出せるとルーシーが話していた。もしかしたら15覚醒の自分でも、普通の風魔導士くらいの力ならば出せるかもしれない。
立てかけていた矢筒を手繰り寄せて、マジックアローを手に取った。全員の注目が集まる中、魔力を込めてみるが…何も起こらない。
周りの表情が落胆に変わり、自分も自分の不甲斐なさに落胆した。力なく下ろした手に握られている、増幅石を見つめることしかできない。だが、それで先程の事を思い出した。
「そう言えば、さっきの奴らに魔力をほぼ使い切ったわ」
「えぇ!じゃあ早く魔力回復して下さいよ!」
「いや、それは流石に無理だ。1日経つか、せめて、寝て体を休めないと」
「じゃあ早く寝て下さい!」
フレディが言うが早いか、周りの者達も協力して、略奪した物資を端に寄せ、その中からブランケットが取り出されると、横になるスペースがあっという間にできた。
「今すぐ!寝てください!」
そう言われても簡単に寝られるものではないのだが、乱暴に寝かしつけられた。隊長の威厳などあったものではない扱いだ。
簡単に寝られないだろうという思いとは裏腹に、連日の疲れが溜まった魔力切れの身体は、心地よい川の流れる音によって簡単に眠りへと誘った。
「おはようございます。隊長」
目を開けた自分に誰かが挨拶してくれている。艀の揺れは随分と少なくなり、水音も小さい。目が覚めたばかりだから、というのは関係ないようだ。体を起こして周りを見ると薄暗く、夕焼けが空を赤く染め、自分達の松明の光だけが暗く、深い樹海の中で煌々と輝いていた。
今が日暮れ時ということは、1~2刻しか経っていない。
「そんなに寝れなかったか」
「いえ、半日以上寝てましたよ」
静かにオールを漕ぎながら、クレスが答えた。
「ん?じゃあこれは夕暮れじゃないのか」
「朝焼けですね」
「すまん」
指揮もオールを漕ぐことも、ここまで全て隊員たちに任せっきりだ。近衛騎士団にいた、部下たちに仕事を任せっきりで嫌われていた隊長の事を思い出し、危機感が湧いてくる。
「魔力の回復が最優先ですから、それにレイトリバーについさっき出ました。ここからが隊長の出番です」
「もうレイトリバーまで来たのか」
艀の揺れの小ささも、響く水音の小ささも、名前通り流れがゆっくりとしているレイトリバーに出たからだった。
となれば、増幅石を使った帆走を始めなければならない。まずは魔力が回復したことで、本当にできるかどうか確かめることにする。
足元に置いていた矢筒からマジックアローを取り出して、魔力をこめてみるが何も起こらない。休憩して回復しているはずだし、魔力は十分なはずだ。苦戦している様子に周りから不安げな視線を感じる。
増幅した魔力を放出できていないのか?
今度は矢を射撃する時のような手順で、魔力をこめて放出してみると、十分な風を感じる。
「いけるぞ」
「「「おぉ!」」」
狭い艀の中に笑顔が広がった。立ち上がったウィルとフレディが帆布を下ろしてくれたので、踏ん張るためにその前に座り込んだ。
慎重に魔力を込めていく。10分の1でも射撃するとかなりの威力になるので、感覚だと50分の1くらいになるように調整し、魔力の放出を始めた。
だが、少しも速度が上がった気配はなく、レイトリバーの流れにそって進んでいる。
「うーん、早くなったか?」
「いえ…全く」
風魔法を出して、帆に風を当てているのは同じ筈だ。何が原因か分からなかった。このままだと、ノルデン城の到着はかなり遅れてしまう。周りの表情を見ても、一人を除いて全員思い悩んでいる。
「フレディ、なにか案があるのか?」
「えーっと、この姿勢だと、隊長が逆方向に踏ん張ってませんか?」
「確かに…そうだな!」
「なので普通に帆を畳んで、前で踏ん張ればいいんじゃないですかね?」
「やってみよう!」
確かにフレディの言う通り、全力で反対方向に踏ん張っていた。今度は座る位置を変え、船首で踏ん張ってみると、かなりの速度が出てきた。
「いい感じです隊長!」
船首で矢を持った手を前に出している様はなんとも滑稽だが、上手くいっているようだ。先程の姿勢より、マジックアローを普通に使うより、感覚だと魔力の消費は少ないが、それでも長くは持たない。
「この感じだと多分5刻もすれば出せなくなる」
「それでも十分です。大分速度が上がってますよ!」
順調に航走を始めた艀の様子を確認して、その後はひたすら無駄な魔力を出さないように集中した。一定の量を出し続ける作業は、暑い時に鎧の中を冷やすので慣れている。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




