10.風魔法の使い道
血と肉片の海を避けて、同じ道を今度は10人全員で敵陣へと向かっていく。
森の手の者達は敵陣が近く、血の臭いが濃いため人の気配が分からないと言っていたが、50~60人ほど倒したことで、残っている敵兵はいないようだ。陣地には人っ子一人の気配もなく、順調に必要な矢や食糧・武器等を奪いながら川へと着いた。
「コイツですか?」
「あぁ、これだ」
10人ほどが乗れそうな、帆の付いた筏が8艘あった。簡易的だが、木を繋ぎ合わせて船の体を成しているので、十分川を下る為の艀と言ってもいい。最近雨が降っていることが多かったが、多少川が濁っているくらいで増水もしていない。この簡易的な艀でも、普通に下っていくことが出来るだろう。
「これに乗るんですか!?」
いつになくフレディが嫌そうな顔をしている。初めて見たかもしれない心底嫌そうな表情に、こちらも思わず理由が気になった。
「どうした?なんかあるのか?」
「いや、あのー...俺、泳げないんですよ。これだとちょっと不安で」
「別に落ちなきゃいい話だろ?ほら、オールっぽいのもあるし、木の棒みたいなのもついてる」
嫌がるフレディを横目に見ながら、カンブリーが答える。
「いやぁ、でも」
「さっさと周りの荷物を積み込め、つべこべ言わずいくぞ」
今度は作業をしていたアントンが、面倒臭そうな顔で声をかけた。終始嫌そうな顔で手伝いを続けるフレディに、思わず笑ってしまうが、あっという間に積み込みが終わって出航だ。
「こんなに物はいらなかったんじゃないか?」
周りに置いてあった食料やら武器やらが、所狭しと積まれている。今は先を急いでいるので、それどころではないのだが、全員が必要な物を持ってきたら、なかなかの量になってしまった。座る場所も占領しているので荷物の上に腰を掛けたり、寝ることになりそうだ。
「まぁまぁ隊長、我々の報酬も兼ねてですよ!」
真面目そうなサルキがそう言ったものだから、周りの声もそれに同調する。別に王国の規範や法律では敵の物の鹵獲は合法で、奪い取った者に権利が与えられるので、丁度良い報酬かもしれない。
「まぁ、それもそうだな。それじゃあ行こう!」
泳げないフレディを真ん中に置いてやって、5人一組の交代で船は進んでいた。とはいっても流れがそこそこ早いこの支流では、オールを持つ4人はやることがなく、結局操舵するものだけが働くことになっている。
「フレディ、何で水が苦手なんだ?」
「昔、近くの池で溺れた事があって、それ以来水が怖いんです」
「あー、そういうの経験すると苦手になるらしいな」
「まぁ、ここら辺で生きる分には、泳げる必要ないんじゃないか?」
「今まで困ったことはないですね、強いて言うなら今がそうです」
「ハハッ、確かにな」
普段明るい表情の人間が深刻そうな顔をしていると、どこか可笑しく感じてしまう。ついつい笑ってしまったが、他の者たちも同じように感じているようで、表情に暫く振りの笑顔が垣間見れた。
「ん?なんだそれ」
フレディが椅子代わりに使っている、武器の箱に目が行った。
「これですか?えーと、武器が入ってる箱ですね。片手剣が入ってます」
股の間から器用に蓋を開けて覗き込んでいるフレディの姿はなかなか滑稽だが、聞きたかったのはそこではなかった。
「いや、この紋章みたいなやつ」
持ち手の所にある紋章を近づいて指さすと、周りに人が集まって覗き込んで来た。
「うーん、なんすかねこれ」
「どっかの貴族の紋章ですかね」
「エドガーさん、分かります?」
「ん?なんだ?」
艀を操っていたエドガーが、操舵をアントンに交代して確認しに来た。
「紋章に詳しいのか?」
「多少ですが。えーっと、これは...見覚えはあります」
エドガーはこめかみを押さえて、記憶を手繰り寄せるような難しい顔をしてしばらく悩んでいる。逆に見たらわかるのが凄い。魔法学校でも貴族の紋章を習ったが、流石に他の国の貴族までは習わなかった。
「あっ!コルテス家です。帝国伯爵家の」
そもそも他国の貴族の家名など、一平民の自分はほぼわからないのだが、聞いたことがない名前に他の者たちも反応が薄い。顔を見合わせて、互いに知ってるかの探り合いをしている。
「コルテス家?」
「えぇ、確か帝国北西部にある、ガリタニア湖の周辺一帯を支配する貴族です」
「そんな貴族がいるんだな」
「はい、ただ西の国と国境が近いはずなので、王国戦に顔を出したという話は聞いたことがないです。なので知らないのは仕方が無い事かと」
「それがなぜ、今更ここに」
「考えられるのは、散々兵力を減らした分の補充か、水軍を持っているはずなので、ここで応用するために呼ばれたかですね」
「川を下るだけだろう?何故わざわざ」
「コルテス家の水軍は特殊なんです。風魔導士を配置して、帆船の機動力を上げているらしいです。もし本当にコルテス家であるとすれば、予想より早くノルデン城下に到達します」
話を聞いていた全員が、艀の中央にそびえる帆布を見上げた。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




