9.一掃
「どけぇ!!」
怒声にびっくりした味方が、慌てて避けるのを見ながら息を整え続ける。
落ち着いた。
息を短く吐き、魔力をこめながら弓を引き絞る。
距離は200フィートもない、中央を走って来る先頭に狙いを定めた。
「風よ」
馬車に弾き飛ばされたのかと思うほどの衝撃が全身を打ち、後ろに回転する視界は数える事ができないほど回った。
襲い掛かってきた全身の骨が砕けたのかと思う程の痛みに、呼吸が荒くなり、ただ曇天の空を見上げることしかできなかった。残った敵が居たら味方が倒してくれていることを祈るしかない。
しばらく仰向けに寝転がっていると、エドガーが視界の下から顔を出した。
「大丈夫ですか!?」
心配そうな表情を浮かべるエドガーに、頷き返すことしかできない。
次第に人が集まって来て、全方向に9つの顔がある。口々に怪我はあるのかと聞いてきたり、怪我の様子を触って確認してくるが、特にないのかもうただ覗き込むだけだ。
どれくらいの時間地面に横たわっていたかは分からないが、次第に痛みが治り、手伝われながらゆっくりと身体を起こした。
二重に見えていた視界の焦点が合ってくると、惨状が目に入る。
先程まで敵の居た場所は、血の海と人だったと思しき”モノ”が転がっている。50近くいたと思われる人間は、誰1人として生き残っていなかったようだ。
「ひでぇなこりゃ」
自分がしたことの筈なのに、あまりに自分の力の範疇を逸脱していて、どこか他人事に感じてしまった。
「何したんですか?」
「あぁ、虫の魔獣に放った特製の矢に、魔力を...」
こめ過ぎた。
ほぼ全部の魔力をこめた気がする。確かめてみようと、いつもの涼むための風魔法を使ってみるが、10分の1もない程だ。ほぼ全魔力を使ってしまった。だから、こんなに吹き飛ばされたのか。
「やり過ぎたな」
「えっ?いや、私達は助かりましたよ、"隊長"」
「これで帰れますね"隊長"」
今まで頑として隊長と呼ばなかった者たちが、口を揃えて隊長と呼んでくれている事実に、嬉しさよりも、良かったという安心の方が先に来た。
ニタニタ笑っているのは薄気味悪いので、口角が上がりそうになるのを必死に抑えながら、勤めて隊長然として話す事にした。
「これで、ここにいた全員を倒したと思うか?」
それぞれ悩んでいる中、ラナーが口を開いた。
「思いません、匂いの濃さや足跡から言って、300近い人数がいそうです」
「同意します。私も第三騎士団の偵察騎兵をしていますが、このテントの持ち主が帝国だと仮定するならば、テントの数から推察するとラナーの言うとおり300〜350人規模だと思います」
「だとすれば」
「どこに消えたかですね」
フレディが継いだ言葉に相槌を打ちながら、記憶を探ってみた。
樹海を大部隊が移動した痕跡は特になかった。いきなり300人規模の部隊が消えるなんてことはあり得ない上に、軍隊に天幕が必要なくなることもない。
「「「筏」」」
自分とサルキ、ウィルの声が重なった。
たった今倒したコイツらの話を、盗み聞きした時に言っていた筏が、川に係留してあった。そしてこれで最後とも言っていた。あの筏で移動するのであれば天幕は必要なくなるだろう。ここに置いて行ったのも納得できる。
「まずいかもな」
「はい、かなり」
目の前の支流は、本流であるレイトリバーへと流れて行く。レイトリバーはそのまま南下して、カーマイン辺境伯領の中央を通り、中央山脈の右側に沿いながら流れて、南の海へと流れ込む。
つまりこの川を使えば王国領のどこへでも出現出来るわけだが、可能性が高いのが一番近いカーマイン辺境伯領だろう。上陸するのに適した河川港まで完備されている。
河川港から2〜300人規模の部隊が上陸することがあれば、ノルデン城と騎士団は大混乱に陥る事になるだろう。
「今から真っ直ぐノルデン城に戻るとすれば、どれくらいかかる?」
「騎士団の方々の遅れを気にせず、我々だけで走れば3日と少しかと」
ラフが言う事は理解できる。今日までの樹海の歩き方、遅れを見ていれば完全に、我々騎士団は足手纏いだ。伝令係も兼務する彼らにとって、長距離を走り続けることは得意分野でもある。
「この支流から川を下って、ノルデン城まではどれくらいだ?」
「うーん。そうですね」
森の手も騎士団も何とも言えない顔をしている。これまで試したり、計算したことはないのだろう。
「恐らく、恐らくですが2日ないし3日位かと思われます」
サルキが発した言葉に、周囲も何とも言えない顔だ。
「それだとこちらの伝令は間に合わないな」
今は肉片となって散らばっている者達の話では、もう敵の先発隊は出発した後だ。半日の差が開いていると言っていい。
「先着は不可能だとしても、出来るだけ最短で全員で戻ろう。もう一度この拠点を探索するぞ。こいつらが乗る予定だった筏があるはずだ」
最後に川を見た時にはまだあった。あの筏を我々が使うことが出来れば、追い抜かすとは言わないまでも、大差ない時間に到着できるはずだ。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




