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騎士団のアーチャー  作者: 都津 稜太郎
1.王国近衛騎士団
3/100

2.威力偵察


「全体停止!斉射20!用意!」


 足を止めて、矢をつがえる。相手の駆け足はまだ止まらない。弓の性能は王国と帝国でそう変わらないはず。同じ距離で撃ち合いにならないというのは、これも練度の差なのだろう。


「斉射構えー!」

 

 じりじりと前進してくる敵を視界の隅にとらえたまま、引き絞り、待つ。

 

 まだか、まだなのか?敵の目の前でなければ短い時間に感じるであろうが、今は永遠のように感じる。

 

「てっ!!」


 放たれた12本の矢は、弧を描いて帝国兵に向かって飛んでいく。たった12本の矢といえど、練度に裏打ちされた王国の弓矢は命中コースだ。

 確信を持って目で追っていた矢が、敵に到達する前に突風に吹かれたかの如く下に落ちた。実戦では初めて見るが、敵の風魔導士の防壁だということは分かっている、動揺はない。


「2射目!構えー!」


 隊長が矢の着弾地点を確認した後、そこからは矢継ぎ早に斉射が始まった。

 こちらが5斉射を放った頃、敵の隊列も停止し斉射が始まる。


 敵の放った矢が空に舞い、そして落ちてくる。アーチャーをやっている以上、目は良い方だ。こちらに向かって来る矢玉を思わず見てしまう。

 こちらの風防壁は大丈夫なのだろうか。大丈夫だということは分かっているが、それでも一抹の不安がよぎり視線を列中央に向けると、風魔導士がおもむろに杖を掲げた。杖の先についている拳大の魔石がわずかにきらめき、上空から叩きつける風が鎧の下の服を揺らす。敵の矢はこちらと同様に、相手に届くことは無かった。


 これが魔導士を抱える騎士団同士の弓の撃ち合い方だった。民兵や一般兵ならば魔導士がいないか少ないので、こうはならない。


 無駄な矢の応酬が20回終わる頃、おおよそ300フィート(約90m)の距離にいる敵弓兵の戦列を帝国の重装歩兵が追い越し、一歩一歩こちらに進んでくる。


「直射に変え!目標敵歩兵。号令あるまで放て!」


 弓兵隊長の指示が飛ぶ。

 敵歩兵に風の防壁は無い。だが、シールドを眼前に掲げて一糸乱れぬ行進をする重装歩兵に対して普通の弓矢はほぼ無力に等しい。

 風防壁発動の合間を縫い、射撃を行う。200フィートの距離になりやっと精度と威力が出た。隠れていない部分のプレートを撃ち抜いた敵歩兵が倒れる。敵の精鋭はその穴をすぐに埋めて、前進することをやめない。100フィートの距離になった頃、また隊長の指示が飛ぶ。


「射撃やめ!全速後退!!」


 やっとか!敵歩兵の戦列の威圧感に耐えかねそうになった時、後退の号令がかかる。

 あとは、本陣まで全力疾走するだけだ。


 走り出すと、矢筒の中で残った矢がカラカラと音を立てている。本陣まで半分の距離の所で振り向き後ろを確認すると、敵が大分小さくなった様に見えた。敵もこちらの弓兵部隊の撤退を確認して、前進しながら対騎兵の陣形を組み始めている。だがそれは、練度の低い弓兵によってなかなか進まない。


「王国近衛第三騎士団ー!騎兵隊!突撃隊形!」


 戦場を揺らす声の元を見ると、こちらの騎兵達が団長を先頭に鏃の様な形に整列している。


「粉砕するぞ!突撃!突撃!突撃!」


 王国近衛騎士団特有の”三号令”と共に、目の前の重装騎兵達が鬨の声を上げこちらに向かってくる。

 圧倒的な迫力、そして威圧感。味方であって心から良かったと思える。自分達の間を騎馬が勢い良く駆けていく。この時大事なのは、恐れずまっすぐ進むこと。変な動きをすれば騎馬に跳ね飛ばされる。


「どけぇ!!」


 蹄が地面を蹴る凄まじい音の中に、怒声が混じる。

 騎兵隊の最後列が通過し数瞬の後、激しい衝突音が後ろから聞こえた。

 思わず後ろを振り返ると王国騎兵が帝国歩兵の隊列を文字通り粉砕していた。通常取るはずの対騎兵陣形である方陣も、練度の低い弓兵の遅れによって閉じることが出来ず組めていなかった。

 そのまま敵を貫通した騎兵は左右、正面と三手に別れた。左右の部隊は弓兵と歩兵の背面を突いて、散々に刈り取っている。

 

 ふと戦場を見渡すと、右翼側を大きくまわり込み、自分達を狙う敵騎兵の存在に気付いた。

 こちらの騎兵もそれに気付いているのだろう、正面に向かっていた部隊が旋回し、あっという間に敵騎兵の後背に噛み付くと敵の足が止まった。大体同じ装備であるはずだが、こちらの騎兵の脚は敵より速く、鋭い。

 騎兵たちの見事な連携と速さに、思わず戦場に似つかわしくない、美しいという感想を抱いた。

 振り返りながらゆっくりと走っていたが、それは周りも一緒だった。

 

 そこで、はたと気付く。自分と左隣との間隔が不自然に空いている。自分の左隣はマルセラだった。敵味方入り乱れる前線の手前側に視線を移すとひとつ草原に黒い影がある。

 ゆっくりと走っていたことによって落ち着いていた心臓が、警鐘の様に早く強く脈打ち始める。


「戻れ!!リデル!」


 弓兵隊長の声は聞こえていたが、気がついた時には黒い影に向かって走り出していた。


はじめまして。都津トツ 稜太郎リョウタロウと申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。


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