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3.北方樹海4日目


 夏の終わりの樹海にしては珍しく、霧が出ていない朝だった。

 ユーリ隊長曰く、北方樹海周辺の朝霧が少なくなりはじめたら”秋の季節”というのが、ここら一帯の常識らしいという事を、出発前の雑談で教えて貰った。

 朝霧が出ていないだけで、体に纏わり付く湿気がなく気持ちの良い寝起きになる。


 中盤の見張り役だった者たちが目を覚まし、眠そうな目をこすっているのを横目に、朝飯を食べて支度をする。4日目は相手に遭遇する確率が上がるということが全員がわかっている。いつも何かしらの会話があるものだが、緊張感が漂う空間の中で静かに準備が進んでいった。

 今日遭遇するとは限らないが、それでも油断できない緊張感が消えることはなかった。普段気にならない弓の張りや矢の状態、果ては短剣の切れ味まで気になってしまって、一つ一つ確認していくとそれなりに時間が掛った。

 それは他の者達も同様で、手つきや動きから硬さが伝わってくる。特にフレディなんかは顔まで強張っている。

 このままではいい動きが出来なさそうだ。出発する前に発破を掛けなければいけないかもしれない。


「みんな聞いてくれ」


 注目がこちらに集まる。


「俺たちの目的は、あくまで敵を見つけるという一点だが、それでもここで見つけられなかったら、目的がわからなかったら、カーマイン辺境伯領にとってまずい事なのは変わらない」


 全員の表情は真剣そのものだ。自分の慣れない演説に、笑うことなく頷いている。


「俺たちにこの領地の運命がかかっていると思ってやろう」

「「「「おう!」」」」


 緊張しかなかった眼差しに、気合いがみなぎる。これで何とか、いつも通りくらいに動いてくれそうだ。


 出発してからは、草をかき分ける音にさえいつもより気を遣って、なるべく大きな音を出さないようにしている。それは部隊の全員が一緒で、歩みが慎重な分、今まで遅れ気味になっていた騎士団の面々も、遅れずについてきている。

 ひたすら歩き続けて、どれくらいの時間が経過したか分からないが、だんだんと周囲が暗くなってきたのでおそらく夕方が近いのだろう。慎重に動いているので、肉体的な疲れは少ないが、周囲に常に気を張り続けているのは、精神的に疲れる。


 本隊の先頭を歩いていたラフの背中が急に迫った。彼らは姿勢を真っ直ぐにして、耳を前に向けている。


「もうすぐ川です」


 自分には全く気配さえ分からない。だが”地形を見れば有りそうだな”という、猟師一家として森に入ってきた感覚で分かる。

 日が傾き始め、よく見えない足元に目をやる回数が増えてきたところで、耳に水が流れる音が入ってきた。それは騎士団の面々も一緒のようだ、振り返ると疲労の中に緊張が垣間見える。


 ゆっくりと音の源に近づいていくと、身を隠せる茂みの境目にサルキとカンブリーが立ち膝で、こちらを待っていた。


「この川か?」

「はい。これが目標としていた支流です」


 その川に目を移してみるが、その姿は想像と違っていた。

 支流と聞いていたので、小川のようなものを想像していたが、幅は狭い所でも100フィートはあり、所々水深も深いのがわかる色合いをしていた。そして周囲はひらけているので、樹海の中にいたような暗さは感じない。


「支流という割には大きいな」

「途中の哨戒ポイントにあったような小川が、数多く流れ込んでいますから」

「周辺に他の人間が居そうな気配はあるか?」


 先行していた2人の方向を向いて問うてみると2人ともかぶりを振っている。


「そうか。もうすぐ日が暮れる。完全に沈む前に上流側の探索をできるだけしてしまおう。」


 先行隊が、器用に河原の石を踏み、ステップするように離れていく。だが分かれて探索が始まってすぐ、またもや立ち止まった後ろ姿にぶつかった。


「今度はどうした?」

「足跡です。しかもかなり多い」


 しゃがみ込んだサルキが河原の一部砂になっている部分を指さしている。

 流石に樹海の中より明るいといえど、既に夕暮れだ。よく見えず近づいてみてみると、かなりの数の足跡が南に向かっているのがわかった。


「1.2.3.4〜」

「多いな50以上ありそうな気がするぞ」

「歩きやすいのはこの砂の部分なのでまとまって歩いたとしたらこれぐらいで50人の足跡でしょうか」

「うーん、何とも言えないな。足跡が乾燥していないと言う事は最近のものだろう。下流に向かっているな」

「そうですね。これで索敵の範囲は狭める事ができるでしょう」

「もうじき日が暮れる。一旦ここら辺で野営をしよう。明日は下流側に向かって行くぞ」


 ノルデン城を出発して5日、樹海に入って4日やっと敵の痕跡を見つけることが出来た。いや”やっと”ではないのかもしれない、目的地について直ぐなのだから幸運なのだろう。とりあえず、任務を最低限はこなすことが出来そうで、表情には出さず心の中で少し安堵した。


 暗くなってしまったのも相まって、野営地の場所決めにはかなり手間取った。河原の様子を監視でき、かつコチラがバレない場所の選定の難易度が高かったのだ。


「これは河原の近くに野営するのは無理だな」

「はい」

「少し遠いところに野営することにして、河原の人数を増やそう」

「わかりました、人数配分は?」

「4人だ」


 人数を増やすことで、睡眠時間が減ってしまうが致し方ない。それより問題だったのは、今回の夜飯は火を使えない。煙を出したく無いからだ。夏の季節の終わりで冷え込む夜にはなかなか堪えた。

はじめまして。都津トツ 稜太郎リョウタロウと申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。

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