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1.北方樹海3日目


 夜が明けて3日目。

 この日は夏の終わりの樹海にしては珍しく、霧がなく朝からカラリとした日和だった。

 だがこの日から本当の樹海というものを知ることになる。


 ある程度人が歩き、獣道のような物が出来上がっていた今までと違って、人が全く入っていない樹海は、歩きづらいことこの上なかった。

 森が更に深くなると、さっきまで乾燥したように感じていた空気が、湿ってきたように感じる。その湿気と苔によって足元は滑りやすく、気を使って歩かなければならなかった。

 そんな中でも”森の手”たちと自分はある程度順調に歩けているのだが、騎士団の者たちは出発早々から遅れが出てきた。


「エドガーさん、大丈夫ですか」


 遅れを待っているところに1番最初に戻ってきエドガーに声をかける。


「私はこれまでも何回か樹海の奥に入る機会があったのでなんとか、問題は経験の少ない他の3人でしょう」


 エドガーは樹海の中を振り返るが、その目線の先、自分でもやっと見えるほどの距離に3人がいた。

 なんとか追いついてきた3人は、出発したばかりだというのに疲れた表情だ。


「頑張れ、これ以上先行の2人と離れないようにしないといけない」


 激励の言葉を掛けたが、3人ともキツイのだろう。いつもは元気な返事が帰ってくるフレディでさえ、静かに頷いていた。


「少し休憩したら行くぞ」


 先行しているラフとラナーの2人は、歩いた道の草を刈って行ってくれているため若干道がある。迷いそうなところには、木に傷を付けていて目印を書いていたり、布を巻きつけてくれていたりする。布が無くなったら、合流して布を回収していた本隊の2人が今度は前に行く形だ。

 これのおかげで迷いなく、そして早く進むことができている。その交代のペースは道がない今の現状ではここ2日より早い。


 サルキとラナー組が先行部隊に回ったのは昼が少し過ぎたあたりだっただろうか。

 遅れている騎士団の面々が追いついて出発したところ、すぐに先行部隊の2人の背中が見えた。


 交代するには早すぎるタイミングだ。

 となれば、何か障害となることが起きたのだ。前に進み横に並ぶとこちらに一瞥をくれて、そのまま二人は空中に向けて、鼻をヒクヒクと動かしている。


「どうした?」

「魔獣の匂いがします」


 流石に3日目になり樹海が深くなると魔獣も出てくるのか。


「距離は?」

「大体500フィートくらいか、もっと近いかも知れません」

「種類までわかるか?」

「予想になりますが、恐らく昆虫系統かと。場所的には小型でしょうが飛び回ってくる分厄介な相手です」


 正直、小型の昆虫系統なら恐るるに足りない。ただデカくて気色悪いだけで、それくらいなら故郷の森で小さい頃から倒してきた。


「わかった、倒して進もう」

「了解、先導します」


 決めていた手信号で陣形の指示を出した。

 飛ぶ相手ならアーチャーがやらなければならない。前方に2人の近接を置いて、その後ろにアーチャー、後列が残りの5人だ。

 縦列で進んでいた陣形が横に広がり、なるべく静かに進む。

 一応マジックアローも手にしておいた方がいいだろうと、口に咥えて、弓には普通の矢をつがえた。

 その様子を見て、横にいるアーチャーの2人は何か言いたげだが、声を出せないので何も聞いてこなかった。

 残り300フィートぐらいになったところで、パキパキと枝を折る音が聞こえた。それに、奥の方で木が揺れているのがわかる。

 だが、本当に小型か?小型で木が揺れるほどなのか?と一抹の不安を覚えた。自分の見てきた小型といえば大きくても人の胴体くらいの大きさだった。

 200フィートくらいまで近づいただろうか。先頭を進むサルキとラナーが腰を落として、静かに移動し始めた。それに倣って後続の自分たちも足音をなるべく立てないようにゆっくりと動く。時折、うごいているのが見えた、おそらく甲虫の類だろう。木々の隙間から時々羽を広げているのが見えた。

 100フィートでやっと木々の隙間から全体が見えたが、その姿に少しの動揺を覚えた。人の大きさほどあるそいつは明らかに小型ではなく中型だった。


 隊員たち全員がそれぞれに目配せを行っている。

 大体言いたい事は察することができる。「こいつは、小型じゃない」「なんでこんな所に中型が?」「どうする?」「倒せる?」「逃げるか?」

 目で静かに、だがハッキリとものを言う隊員たちの視線が自分に集まった。決断しなければならない。


 魔獣の姿をもう一度確認すると、奴は2つの小さな角と1本の立派な角を自慢するように掲げていた。見た目からするとトリポキシー(カブトムシ似の魔獣)の類いだろう。だとすれば逃げるのは悪手。コイツは攻撃性が強く、敵と見れば容赦なく自慢の角を使って攻撃してくる。


 戦うしかない。


 小型なら人間くらいの力しかないので、まだ被害なく倒せるだろう。だが中型となると、一気に話は変わってくる。

 一撃は重く、鋭い。騎士団の面々が背負っている盾では貫通する爪と角を持っている。

 そうなると犠牲が出るとは言わないまでも、怪我人は必ず出てくる。これからの任務の為に怪我人は絶対避けたい。


 打開策があるとすれば、追い払う事か。


 奴が持っている魔法は土のはず、地元の森にいた小型の場合は甲殻に守られていない場所を攻撃されると、土壁を出して逃げ出すか、土の中で籠る。

 その状況に追い込むには、致命傷に近い傷を与えなければならない。

 カールがいたらあの体躯と巨大な戦鎚で甲殻ごと、吹き飛ばしてくれそうなのにな。という無い物ねだりを頭から追い出したところで、結論が出た。


 仕方がない、マジックアローを使おう。


 無駄な弓を打つことは避けたい。3人の全ての矢が柔らかい部分に命中すれば、なんとかなるだろうがそんな事はまず無理だ。近接を持つ者たちの怪我を避けるにはそうするしかない。


 「任せろ」というジェスチャーを周りに示すと、驚きの表情と無茶は止めろという無言のジェスチャーが帰ってくるが、無視して前に進んだ。


 後ろからガサゴソと音が近づき、二人分の手が服を掴んで来た。


「何をするつもりですか?」

「無茶はやめてください」


 小声で叫ぶエドガーとフレディの動きを手で制して、「大丈夫だから」と一言だけ置いてまた前に進む。


 つがえていた矢を矢筒に戻して口に咥えていたマジックアローを手にとった。


 コイツならあいつの甲殻をどこからでも撃ち抜くことができるはずだ。魔獣にこれがどれほど効くのか、ちょうどいい実験にもなる。

 50フィートくらいまで近づいたところで、踏み込んだ場所からパキッと音が響いた。枝を折った音でこちらの存在を悟ったトリポキシーが、こちらをゆっくりと振り向き始める。


はじめまして。都津トツ 稜太郎リョウタロウと申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。


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