6.森の中の夕食
「遅かったですね、心配しましたよ」
先行していたサルキとラナーが出迎えた。もうすでに夕飯の準備をしてくれていたようで、スープのいい匂いが漂ってきた。
「これを狩ってたら、遅れましてね」
そう言ってフレディに持たせた獲物たちと、今はエドガーが背負っているワイルドボアを指さす。
「これは、また随分デカいものを」
待っていた2人が、ノルデン城にいてもあまり出ることのない獲物に、喜んでいるのが表情から伝わってくる。
「今日の夜飯から食べたいんだが、どこかにコイツを解体できるところはないか?」
「すぐそこに小川があります、そこで血抜きして解体しましょう。おい、クレスとラフ、手伝ってこい」
サルキが二人に指示を出すと、クレスとラフがうれしそうな表情を浮かべて獲物を眺めている。
「じゃあ、解体できるところに案内してくれ」
二人と自分とエドガーも合わせて4人で、獲物たちを100フィート程離れた小川に連れて行き、血抜きと解体を始めた。
最初、エドガーは「隊長はやらなくていいです」と断ってきたが、猟師一家で育った自分が小さい頃から仕込まれていたことだ、やらない選択肢は頭の中になかった。
「まあ、任せろ」
その言葉に、他の三人は明らかに疑うような、怪訝な顔をしている。
これは数少ない自分の得意分野だ。これが隊長としての威厳を示すものとは思わないが、手際のいいところを見せてやろうと、先に血抜きの終わっていた小動物から解体していく。
解体している間、全員が真剣で喋らない。川のせせらぎに混じって骨や肉を断つ音、皮をはぐ音だけが響く怖い空間となっていた。
「よし」
近衛騎士団にいた時の野営で捌いた時以来だが、4人の中だと自分が1番早く、そして綺麗に捌けた。自分の解体の腕に満足して、ついつい肉を眺めていると、隣で解体していた”森の手”の二人が感心した表情で見ている。
「凄いですねー」
「だろ?猟師の家で生まれたんだ」
全てを教えてくれた父親に感謝しながら、胸を張って答えた。
「そうだったんですね、王都のおぼっちゃんって聞いてたんで驚きました」
そう言ったクレスがハッと口を塞いだ。
隣にいたラフもばつの悪そうな顔をしている。森の手の中で言っていたあだ名を、本人に伝えてしまったので焦っているのだろう。
「出身はそうだけど王都の中じゃない、東に2日行った所にある森の近くの村さ」
そう言って笑いかけると、2人は申し訳なさそうな顔をしていた。
「こっちのデカブツもやろうか」
4人でやるとワイルドボアの解体も時間がそこまでかからない。あっという間に解体が終わり、血だらけになった腕と、服を川で洗いながら夜飯についての会話になった。
「流石にこの量は食いきれなさそうだな」
松明に照らされた山のように積みあがった肉を、指さしながら言うと他の三人も頷いている。
「そうですねー、10人いると言っても、この量だと半分食べれれば上等でしょう」
「まぁ、とりあえず持っていこう。腹を空かせて子供たちが待っているぞ」
「そうですね!」
解体してできた大量の肉を、持ってきた鍋の中に突っ込み、余った分は抱えて持っていくと、焚き火に照らされた全員の表情が明るくなるのが分かった。
「さぁ、どう食べようか」
あまりの量の多さに、周りの者たちに問いかけてみる。この量は普段の食事より豪勢になりそうだ。
「うーん、取り敢えず小動物の肉はぶつ切りでスープでいいんじゃないですかね?」
エドガーが言ったことに、みんなうんうんと納得しているようだ。その反応を見て、ラナーが鍋から肉を入れ始めた。
「ワイルドボアはみんなで焼きましょう!」
フレディが言うと、賛成の声がちらほらと上がる。手の込んだ料理が出来るわけもないので、それでいいだろう。
「じゃあそれぞれで取って焼いてくれ、ただここで塩は使いすぎないように!」
王国の中で最も海から遠い場所であるカーマイン辺境伯領では、塩は貴重品だ。
なんせ王都の塩の値段から比べると倍はする。そうなると遠出の時に持ち運べる量も、もちろん半分になってしまうのだ。
だがそんな注意も、普段食べている物より豪華な食事の前には無駄だった。食事を始めると、味付けにそこそこな量の塩を使っている。自分も最初は節約していたが、いつの間にか欲に負け、焼いた肉にしっかりと塩を付けてしまっている。
全員の調味料の使いっぷりを見ていたサルキが、唐突に立ち上がり穴ぐらの中に消えた。少しして出てきた彼の手には、石のような物が握られている。
その石のようなものを騎士団の面々は不思議そうな顔で見ており、一方森の手の面々は嬉しそうな顔をしている。
「なんですか?それ」
「岩塩だよ、岩塩!」
不思議そうな顔をしたフレディの質問に、サルキが嬉々として答えた。
岩塩がなぜこんなところに?カーマイン辺境伯領で取れるなんて聞いたことがなかった。
「どこで手に入れたんですか?」
フレディが騎士団の気持ちを代弁して質問した。
「俺らは森で過ごすことが多いから、肉を手に入れやすくてな。こいつは前に、『肉に味が欲しい』『保存したい』ってことでお隣さんまで買い出しに行ってきたんだよ」
岩塩鉱床をもつ隣と言ったら東側の山向こうにあるローデシアン侯爵領まで行かないと行けないはずだ。ずいぶん遠いところまで買い出しに行っている。
「長旅になるからな、こいつは皆んなで使おう」
「「お~!」」
全員から歓声が上がり、また食事に戻った。塩の味が濃くなるだけで、随分と食べやすさが変わるものだった。塩をふんだんに使いながら、あっという間に食事が終わってしまった。
ほぼ全員が、持ってきた塩の半分以上を今日だけで使ってしまったが、そこに岩塩を削って入れてもらうことで出発ぐらいの量に戻った。
「いやぁ、こんな森の中に塩があるとは。ありがとう、おいしい食事が出来たよ」
短い感謝の言葉にサルキは、片手を振って答える。
「これからが長いですから」
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




