4.北方樹海
前回は7刻程かかった遭遇地点までは、馬を走らせると半分ほどの時間で到着した。樹海の行動は馬を使わないので、馬の疲労を気にせず使う事ができたお陰だった。
「ブフゥー、ブルルル」
馬たちの息も荒いが、それはずっと乗り続けてきた自分も一緒だった。「ハァーハァー」とそれぞれが荒い息をしている。
「それじゃあ10日後にここで、それ以前に帰った場合は村に向かいます」
馬を何日も放置しておくわけにはいかないので、村の男衆5人に同行してもらっている。5人の男たちは頷き、「幸運を」と短い返事が返ってきた。
無事に戻ってこれれば、この男たちが10日後に同じ場所に馬を持ってきてくれている筈だ。
荒くなっている自分の息を整えながら、荷物を下ろし背負った。背負う荷物は最小限になるように、早朝にエドガーと協力して整理している。
「みんな準備できたか?先行は誰にする?」
「最初は、ラフとラナーが行きます。あとの3人は前2人、後ろ1人で隊列を挟みます」
「了解、それじゃあ北方樹海に入ろう」
準備が出来た者から、男衆に乗って来た馬を預けて樹海に向かっていく。
先行する者たちはもう樹海に入っている。騎士団と森の手の3人は、最後に来たフレディを加えて、樹海の前で縦列隊形を組み、それぞれが一歩目を踏み出した。
自分の一歩目は、カーマイン辺境伯や団長、弓兵隊長の期待に応えたいという気持ちで気合が入り、とても軽く感じた。
森に入って100歩も歩いていないだろう場所で、「パキッパキキッ」と地面の枝を踏み居る音、「ガサガサ」と草を分ける音、自分と隊員達のみの息遣いが聞こえる世界になった。
振り返ってみると、後ろの街道にいた村の男衆たちが既に見えなくなっている。
ここから頼れるのは自分と、9人の仲間だけだった。その隊員たちの命を預かるという事を自覚し、重圧が体を重くした分、気持ちを入れ直すため少し地面を強く踏みつけた。
時間が経過して樹海に深く入っていくと、木々はさらに生い茂り背の高い草は少なくなり、苔や低い背丈の草が増えてくる。多分に水を含んだ空気が身体にまとわりつき、余計に暑く感じるがそれでも日光が樹木に遮られている分、幾分かましだった。
「歩き辛い上になんか暗いっすね」
真後ろにいたフレディが、パタパタと顔を仰ぎながら話しかけてきた。
「あぁ、森の中は外よりも暗くなるのが早いんだ。陽が傾けば高い樹木と葉に遮られ、光が入ってこなくなるからな」
体感では7刻も歩いていないはず。外の世界では夕暮れ一歩手前の時間でも、樹海の中は夕暮れ過ぎの暗さになっている。半日も歩いていないのにこの森の深さは、流石北方樹海といった所だろう。
「もうすぐ第1哨戒ポイントです」
自分の前を歩くサルキが、後ろを歩く面々に告げた。騎士団の者たちも遅れることなくついてきている。ユーリ隊長の人選は素晴らしいものだった。
そしてそこから半刻もしない内に、焚火が見えて第1哨戒ポイントに到着した。見慣れない樹海の風景に騎士団員たちは辺りを見回している。その様子を見てサルキが騎士団員に案内を始めてくれた。
「ここが、ポイントの宿泊地点です、その川の下流側がトイレになります」
サルキが指差した先には、穴ぐらの様な物への小さな入り口がある。少し離れた所には幅が10フィートもないような小川が流れていて、水にも苦労しなさそうだ。
「こっちが、食事を取る場所」
途中で先行の役目を交代していたクレスとカンブリーはもう到着しており、そこで火を起こす準備をしていた。
「案内はこんなところです。荷物を中へ」と促すサルキを先頭に、腰を屈めて穴ぐらに入ると、中は縦長なスペースがあった。10人全員は厳しそうだが、詰めれば8人くらいは宿泊できそうな広さだ。
「全員は入れなさそうだな」
「仕方ないです、5人くらいを想定し掘りましたから。それに我々森の手が交代で2人ずつ見張りに立ちます、なんとかなるでしょう」
それでは森の手におんぶに抱っこ。まるで案内人とお客様で、ひとつの部隊として役割分担ができていない。その体制を続けて行けば、不平不満が溜まることは火を見るより明らかだ。
「監視は騎士団も入れて10人で回そう」
「騎士団は魔獣や動物の匂いを1000フィート先から、嗅ぎ分けることができますか?我々の安全のためです」
正論を言われても、引き下がるわけにはいかなかった。不要な火種は起こさないべきなのだ。
「では、森の手と騎士団1人ずつを出してペアで見張りに立たせるのは?」
サルキは不満そうな顔で渋々という表情だ。
「分かりました、ではペアでいきましょう」
妥協点が出来たことでこの話が終わり、夕食時となった。ただ夕食といってもノルデン城の食堂で食べるような物ではない。
出発する前にカバンに詰め込んだ保存が効くカチカチのパンにチーズと少しの塩、途中で森の手達が食べれる野菜をとっていたのでそれをスープにしたものだ。
スープにパンをひたして食べると、カチカチのパンが何とか食べやすい硬さまで戻ってくれる。まだ、水場の近くであるためにスープがあるのが救いだった。
火を囲み、夕食を食べながら、見張の順番とペアについて話し合った。
まだ皆が起きている一番手は若手同士で組ませる、ラフとフレディだ。自分は朝イチで、サルキと組むことになった。
食事が終わり穴ぐらに入った男たちは、木の葉や草で作ったベッドがわりの床に、所狭しと並んで寝始める。見張りで起きなければならないので、ここでいかに睡眠を取るかが大事だ。
他の者のイビキに睡眠の邪魔されないようにすぐに目を瞑ると、樹海を歩いた疲れか、慣れない隊長という精神面の疲れからか、あっという間に意識が離れていくのが分かった。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




