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2.任命


「自分ですか?」


 唐突な指名に声が裏返り、素っ頓狂な声を上げてしまった。ここまであまりに自分の出番がなく、このまま会議が終わるものと油断していたのだ。更に言えば、平民が爵位持ちの言葉を聞き返すなどもってのほかなのだが、聞き返さずにはいられなかった。

 辺境伯もいたってまじめな表情だった、叱責せず続けてくれる。


「そうだ、今回の騒動でいい働きをしてくれた。それに森の中での動きが、騎士団の中で別格に上手いと聞いている。教官として来てくれた君には申し訳ないが、この辺境の地は常に人手が足りない。功績を積む機会だと思ってくれ」


 自分は教官だと思ってこのカーマイン辺境伯領に来ていない。むしろ王都の近衛騎士団から追い出されたと思っている、これはまたとないチャンスだ。逃す手はない。


「承知いたしました。謹んでお受けいたします」

「カーマイン辺境伯!少しお待ち下さい」


 獣人の男が明らかに不満げな表情を浮かべ、辺境伯を見つめている。


「コルソ、言いたい事はわかる」

「北方樹海は、我々"森の手"が庭としてきた場所です。その調査を王都のシティーボーイに任せるのですか?」


 前にフレディに聞いたところでは、”森の手”は各所砦との伝令役と、騎士団が踏み込みづらい樹海の中を警備しているとのことだった。

 正直、コルソと呼ばれた獣人の言い方にはムッときたが、自分達の縄張りを荒らされ、軽んじられたと感じているのだろう。不満を漏らすのにも納得はいく。


「騎士団と合同でというのは構いませんが、せめて隊長は私の部下から出して頂きたい」


 力のこもった言葉だった。獣人が強く話したり怒りを表すと普通の人間は野生を感じ、気圧されてしまうが、辺境伯は視線をそらさずに話し始めた。


「森の手には別の仕事がある。それが3つ目だ」


 そのあとの言葉が辺境伯から出てくるまで間が空き、少し落ち着いたコルソが浮かしていた腰を椅子に下ろした。


「森の手はその集団が見つかった場合、騎士団と協力し討伐してもらいたい。あとは、既存の全て哨戒ポイントの巡回を1日一回行って欲しい。そして、今より深い2日の距離にある第2哨戒ポイントを、第1哨戒ポイントと同数、選定し巡回してくれ」


 またコルソが抗議しようと腰を浮かせる。更に今度は頭上の耳が後ろ向きに倒れ、毛が逆立ち、獣人の本気の怒りが伝わってくる。


『そんな大量の仕事を我々だ「だけだと人手が足りないと思う。必要になった分の人員を雇い、増員してもらって構わない」


 怒りで声が大きくなっていたコルソの言葉を、手で制しながら冷静な声色の辺境伯が引き継いだ。


「アレだ、名前は忘れたが今領内に、30人規模の傭兵団が来てるだろ」

「魔獣狩りに来ている"狼猫の足"の事でしょうか」

「そう、それだ。向こうが良いと言うのであればまとめて雇ってもいいぞ」


 コルソはゆっくりと椅子に腰を落とすと、思案に耽り始めた。どうやら必要な人数や集めるための日数を計算しているらしい。


「分かりました、50名ほど追加で集めますが宜しいですか?」

「必要なのであれば構わんぞ」

「では、15日ほどあれば集められると思います。とりあえず期間はひと季節とする予定です。」


 辺境伯が頷き返している、許可されたようだ。


「これで、今回の議題は終わりだ。あ、いやエルフの件があった。どうするのか決めたのか?騎士団長」

「しばらく、騎士団の女子隊預かりにしようかと考えています」


 知らなかったが、ノルデン騎士団には女子隊なるものがあるらしい。今まで一度もお目にかかったことが無いという事は、残念ながらその中にアーチャーはいないのだろう。若干の落胆を覚えた。


「それでいいと、そのエルフの子は言っているのか?」

「えぇ、今の所は。エルフは家族を殺されたそうです。村も焼かれて、村民は皆殺しにされたようです。なので帰る所も無いと言っていました。捕えられていた他のエルフは別のところの者たちだと」

「それは…災難だったな。分かった、エルフの件は任せよう」


 今まで、騎士団の女子がどうだとか浮かれていた自分が恥ずかしい。女の子だったらしいあのエルフは、こちらが保護するまで大変な目にあっていた。

 前に彼女と話した時の、暗い表情と雰囲気になるのも納得だ。


「婚姻相手以外との純潔を重んじるエルフにとって、他種族との交わりを禁忌とする"人間の誇り"教徒に捕えられたのは、まだマシだったかもしれませんね。自死を選ばなくても良いので」


 獣人という、人間以外の種族であるコルソは思う所があるのだろう。沈痛な面持ちで呟き、腕を組んで視線を落としている。


「エルフは我々より数倍長く生きる。これから先の孤独とどちらがマシなのか、我々には分からない」


 騎士団長も暗い表情だった。


「彼女の生きる道は、我々の決めるところではない。よっぽどでなければ、騎士団長、彼女の自由にさせてやりなさい」


 辺境伯の言葉に騎士団長は、一礼をして承諾の意を伝えた。

 その姿をみて、辺境伯がこの会議をまとめに入る。


「先の大陸中央の侵攻で大敗を喫した帝国が、北方樹海からの侵攻で逆転をを狙う可能性は十分にある、注意しておこう。それではこれで話し合いを終わる。解散」



はじめまして。都津トツ 稜太郎リョウタロウと申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。



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