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8.思想操作

 九歳になった頃、私はドロシーにどうしてもお願いしたいことがあって、出版社を訪れていた。

「ドロシーどうしても書いて欲しい作品があるの……」

 私はモジモジと指を動かしながらドロシーを伺う。

「なんですか?お嬢様の頼みならなんだって書きますよ」

 その言葉に勇気を貰って、私は言い放つ。

「『オトメン』をテーマにした作品を書いて欲しいの!」

「オトメンですか?」

 ドロシーは困惑している。当然だ、この世界には存在しない言葉なのだから。

「オトメンはね、女の子が好きそうなものが好きな男の人のことよ」

 

 私はドロシーにオトメンについて詳しく説明する。女の子になりたいわけじゃない、でも可愛いものや甘いものが大好きで、女の子が好む物語を好きになったりする。そんなメンズの事だ。

 説明するとドロシーはさらに困惑した顔をした。私はさらに捲したてる。

「世の中これは女の領分、これは男の領分って決まってることが多すぎると思わない?例えば刺繍は男はやらないとか。私はその風潮を世間から無くしたいの。価値観の多様さを現代社会に訴えたいのよ!」

 それを聞いたドロシーはハッとした顔をして、頷いた。

「確かに、世の中男女で分けられることが多すぎます。男はズボン、女はスカートと言った具合に。決められたそれを少しでも逸脱すると社会から爪弾きにされますよね。それはあまりに不憫です。お嬢様は小説の力で社会に訴えたいと、そう思っておいでなのですね。感服しました。きっとオトメンをテーマにした傑作を書いてみせます!」

 ドロシーは何やら感動しているが、やる気になってくれたのなら良かった。私はドロシーの手を取ると言った。

「わかってくれて嬉しいわ!キーワードは『好きなものを好きだと言ったっていいじゃない!』よ。よろしく頼むわね」

「おまかせください!」

 ドロシーが決意に満ちた顔で頷いた。

 

 さて、私がどうしてこんなことを言い始めたのか説明しよう。端的に言うとイライジャ様のためだ。

 そう、彼は生粋のオトメンなのである。

 私は悩んだ。彼を救うにはどうすればいいか。彼は可愛いものが大好きで、こっそり刺繍をしたり裁縫をしたりしている。腕前はプロ並みなのだ。そして実は甘いものも大好きで流行りのカフェにも行ってみたいと思っている。だが、家族は彼の趣味を表に出すことを許さなかった。外交官の家系なのに頭が固いのである。

 ゲームではヒロインがその趣味を理解してくれて話し相手になってくれる。流行りのカフェにも一緒に行ってくれるのだ。

 正直に言って私にはどうしようも無い。せいぜいお茶会で可愛らしいケーキを勧めるくらいしか出来なかった。

 しかし私は考えた。彼が生きやすくなるために、世間の認識の方を変えてしまえばいいのではと。オトメンが流行れば彼はもう少し自由に生きられるのではないかと。そう思ってしまったのだ。

 

 私は色々構想を練っている様子のドロシーに原稿を差し出す。実は今日お願いするにあたり、サンプルとして一冊分漫画を書いてきたのだ。

 ストーリーはこうである。可愛いものと女装が大好きな男の子が、親に反対されながらも自分の道を貫き、性別を偽ってデザイナーとして大成功する。しかし性別詐称がバレ非難させるも、デザイナーとして好きを貫いて生きてゆくという話だ。はっきり言って私にとってはありふれたストーリーとしか思えないが、この世界では違う。

 漫画を読んだドロシーが感動して涙を流していた。

「これはすぐにでも出版するべきです!困難に立ち向かいながらも好きを貫く、健気な主人公を応援したくなります。オトメン、いけますよこれ!流行ります!」

 ドロシーは早速私も書きますと言って帰って行った。

 

 

 

 その三日後だった、ボロボロになったドロシーに新刊の原稿を差し出されたのは。彼女はよほどオトメンに感銘を受けたらしい。

 原稿は素晴らしかった。彼女が得意とする繊細な心理描写が、テーマとマッチして感動で涙が止まらなかった。流石うちの看板作家。書いたことの無いテーマでもこれほどのものを作り出せるのは、彼女しかいないだろう。神作家である。

 

 私たちは即座に小説と漫画を売り出す準備をした。急いで小説の挿絵を書いて、看板を作った。看板の絵は女装男子、すなわち男の娘である。イライジャ様は女装が好きな訳では無いと思うが、まあいいだろう。

 

 発売直後、作品は売れに売れた。オトメンは社会現象となり、街では女装男子がチラホラ見かけられるようになった。

 ちょっと想像してた方向とは別の方向に行ってしまった気がしないでも無いが、まあいいだろう。

 街では価値観の多様性を訴え声を上げる人も増えた。予期せぬ形で男性の格好をした女性も増えることになる。スカートが嫌いな女性って多かったんだな。服飾業界はすぐに対応し、かっこいいパンツスタイルの女性服や、可愛らしいデザインの男性服などが増えた。

 おかしいぞ?オトメンを広めるだけのつもりが、服飾分野に革命を起こしてしまった。

 

 私はブティックと協力して、漫画内で主人公が着ていたデザインの服を公式発売した。売れすぎて制作が間に合わないくらいだった。

 

 

 

 私が忙しすぎたために、暫くぶりのオズワルド様たちとのお茶会である。王妃教育のためにオズワルド様とは会っていたのだが、ほかのメンバーとは久しぶりだ。

 そこではなんとイライジャ様が漫画の主人公が着ていた服を着ていた。スカートではなくパンツスタイルのものであるが、フリルとレースがたっぷり使われた可愛らしい物だった。童顔のイライジャ様にはよく似合っている。

「折角のメラニア嬢とのお茶会ですから、これを着てみました。似合いますか?」

 はにかむ様に笑うイライジャ様を私は大絶賛した。

 

「メラニア嬢、僕は感動したんです。好きなものを好きだと言って何が悪いのかという主人公の言葉に。僕は刺繍が好きです。父には誰にも言ってはいけないと言われたけど、やっぱり好きなんです。メラニア嬢のお陰で隠す必要が無くなりました。どうかこれを受け取ってもらえませんか?」

 私はイライジャ様を無事救うことが出来たようだ。イライジャ様から差し出された箱を受け取る。蓋を開けて、私は思わず絶句してしまった。

 中に入っていたのは確かに刺繍だ、刺繍なのだが、クオリティがおかしい。みんなも覗き込んで絶句している。

 中に入っていたのは、刺繍で作られた私とオズワルド様の肖像画だったのだ。

「今殿下にも同じものをと用意しているのですが、取り急ぎメラニア様に。僕の最高傑作です」

 そう言ったイライジャ様の笑顔は晴れやかだった。みんなでイライジャ様を褒め称える。これだけの腕前があれば、社会に公表しても文句のあるやつなんて居ないんじゃなかろうか。


 

 

「凄いな、イライジャにこんな特技があるなんて。僕も何かに挑戦してみたくなるな」

オズワルド様が言う。私は料理などどうでしょうと勧めた。

「料理か、ちょっと興味はあったんだ。お菓子を作れたらいいなと思っていた」

 なんと前から興味があったらしい。でも王子だからと諦めていたようだ。

「お菓子作り僕もやってみたいです。楽しそうですよね」

「僕も興味があります」

 イライジャ様とレイフ様が声を上げる。

「なんなら皆で挑戦してみないか?今の世間の風潮なら咎められはしないだろう」

「名目は庶民の生活体験でいいのでは無いでしょうか?私も準備は手伝いますよ」

 ジョシュア様とデニス様が助け舟を出してくれる。

 こうして私たちのお菓子作り体験は開催が決まったのだった。ちなみに講師は私である。花姫選考会で料理の項目があるので、私も一通り料理が作れるのだ。

 みんなで料理を作れるのが楽しみだ。

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