7.漫画化
攻略対象者の問題が落ち着いて、私は八歳になった。
出版社の方も王妃教育も順調で、充実した毎日を過ごしている。
王妃教育は王宮で行われるので私はたくさんオズワルド様に会えるようになった。オズワルド様は毎回私の妃教育が終わると迎えに来てくれるのだ。そうして少しだけ二人でお茶を飲んで帰る。幸せな時間だ。
出版社の方だがちょっとした悩みがある。売り出される作品がマンネリ化してきた気がするのだ。
ここらでなんとか新しい風を吹き込みたい、そろそろ漫画についての相談をドロシーとハリーにするべきか迷っていた。
私はお茶会で、オズワルド様に相談する。
「実は出版社で新しいものを売り出したいと考えているのですが、受け入れられるか自信が無いのです」
オズワルド様は少し考えてこう言った。
「何事もやってみなければ分からないよ。失敗したっていいじゃないか。その時はまた考えればいい」
オズワルド様はいつも私の背中を押してくれる。この言葉で私は心を決めた。
私はドロシーとハリーに相談してみることにした。受け入れられなかったらと思うと怖いが、二人ならばきっと客観的な答えをくれるだろう。
私はドロシーとハリーに漫画を見せる。とても緊張した。
二人は目を輝かせて絶対に売れると言ってくれた。
「凄いです!私の作品がこんな風になるなんて!とても嬉しいです!」
ドロシーは大はしゃぎで漫画を読んでいる。嫌がられなくて良かった。
ハリーはこんな表現方法があるのかと感心しきっていた。売れすぎて大変なことになるのではと言っていたので、そんなはずないと笑い飛ばした。
そして私の描いた、ドロシーの小説のコミカライズ版が発売される事になったのである。
これがまた飛ぶように売れた。自分でもちょっと怖くなるくらい売れてしまったのだ。私はこれまでのドロシーの全作品を漫画化することに決めた。
少し下火になっていたドロシー&リコリス熱がまた燃え上がる。最早社会現象にまでなっていた。
私はここぞとばかりにファンの交流イベントやドロシーのサイン会を行い、熱狂的なファンを増やしていく。
リコリスのサイン会は無いのかとの問い合わせが多かったが、さすがに私は出られない。それがまた謎の天才画家という神秘性を高めて余計に人気になった気がする。
「お嬢様、漫画の流行が止まらないので、もう少し書けませんか?」
私はハリーさんにもっと漫画を描くよう要求された。しかし私はストーリーを考えるのは苦手である。仕方ないので出版社で売り出している本を漫画化しようとすると、ストップがかかった。
「リコリスはドロシーの作品しか描かないのが人気の要素でもあるんです。ですから描くのはオリジナルにしてください」
酷い無茶ぶりであった。
私は悩んで、乙女ゲームのストーリーをそのまま漫画化することにした。
『花の楽園』には逆ハーレム的なルートがあるので、それをストーリーはほとんどそのままに、人物設定だけ変えて漫画にしたのだ。
要は平民のヒロインが悪役令嬢のいじめに耐えながら頑張って、攻略対象者を癒しながら花姫に選ばれる話である。
私は王子の婚約者だから、花姫選考会の会場にも自由に出入りできる。背景資料も簡単に手に入れられるのである。
早速書いて売り出してみたら、これがまた売れに売れた。花姫という現実的な設定が良かったらしい。読んだ子達はみんな、自分に治癒能力が発現しないかと夢見ているそうだ。
私は調子に乗ってファンディスクの内容も漫画化した。糖度高めの後日譚だ。
女性陣に大ウケし、またとんでもなく売れた。ハリーさんもホクホク顔だ。
これが後々自分の首を絞めることになるとは、この時はまだ思っていなかったのである。
今日のお茶会には珍しく側近たちも揃っていた。攻略対象者勢揃いだ。
「メラニア、オリジナル漫画読んだよ、前のドロシーさんの作品を漫画化したのも凄かったけど、こっちも面白かったよ。」
オズワルド様が私の頭を撫でながら褒めてくれる。女性向けの漫画なのに読んでくれたんだな。とても嬉しい。
「僕も読んだよ、今までにない感じがして良かったと思う」
イライジャ様が言う。実は漫画の中ではイライジャ様の設定だけかなり変えてある。そのまま書いたらイライジャ様の秘密を公表するようなものだし、なによりみんなをモデルにしたことがバレる。そうなったら一巻の終わりだ。なぜ秘密を知っているのかという事になってしまう。
「ありがとうございます。女の子の夢を詰め込んだ作品にしましたの。内容は現実的なようでいてありえない内容ですけど、だからこそ面白いを目指しました。男性には受け入れ難いだろうと思ったのですが、読んでくださったんですね」
少女漫画なんて大体がご都合主義だ。でもだからこそ良いのだ。私はそれを力説する。
「なるほど、確かに現実にも有り得そうな空想というのは心惹かれますね。突然お金持ちになるとか、貴族に求婚されるとか」
デニス様は理解してくれたようだ。
「僕は主人公の女の子が魅力的だと思ったよ。他人のために頑張れるって素敵だよね」
レイフ様はヒロインが気に入ったらしい。実在しますよと言ってやりたい。花姫選考会の日を楽しみにしていて欲しい。
「作中には王子も出てきたけど、たとえ花姫だったとしても、王子が平民と結婚するのは有り得ないよね。むしろ結婚なんてしたら悲惨なことになると思うな」
オズワルド様の言葉は間違いなく本当だ。貴族は生まれた時から厳しい教育を受けるが、平民にはそれが無い。その上後ろ盾になる貴族も居ないのだ。辛い人生になるだろう。
歴代の花姫の中には平民も確かにいたが、王妃になったものは居ない。精々下級貴族と結婚するのが限界だ。というかそもそも平民が花姫に選ばれるのが少ないのだ。知識と教養も試される花姫選考会は、貴族の方が絶対有利になっている。よほど治癒の力が強くない限り、平民が花姫に選ばれることは無いのである。
「でも大勢の中から自分だけが選ばれるっていうのは確かに魅力的だね。誰もが一度は空想するものだろう」
オズワルド様がそう締めくくる。
「女の子はみんな一度は花姫になりたいと考えるものですから。それに歴代の花姫は王子様と結婚する方が多いでしょう?みんな貴族でしたけど、花姫なら王子様と結婚できるかもと思う女性は多いですわ」
夢見るだけは自由だ。きっと選考会に参加する人の中には玉の輿を夢見ている子も多いだろう。実際に下級貴族に嫁ぐ子なら過去に沢山いた。
「次の花姫選考会はどうなるんだろうね。やっぱりメラニア嬢が選ばれるかな」
残念ながら類まれなる力を持ったヒロインがいるのだ。私も頑張るつもりだが、勝てるかは分からない。
「どうでしょうか、案外精霊様の愛し子が現れるかもしれませんよ」
ジョシュア様が笑う。
「僕の目を治したメラニア嬢より優れた治癒魔法使いなんて居るのかな?居るならぜひお目にかかってみたいよ」
みんな違いないといった顔で笑っている。
ヒロインが登場したらみんなどんな顔をするだろうか。ちょっと楽しみである。
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