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4.タッグを組んで

 今日はオズワルド様とのお茶会の日だ。朝から楽しみ過ぎて早起きしてしまった。

 久しぶりのお茶会だから、話したいことが沢山あった。特に話したいのはドロシーの事だ。今はドロシーの本をどう売り出したらいいかとても悩んでいる。なにか世間の注目を一身に集めるような売り方は無いだろうか。オズワルド様なら何かヒントをくれるかもしれない。

 

 何を話そうか考えながら、馬車に乗って王宮に行くと、オズワルド様が出迎えてくれた。嬉しくて思いっきり飛びつくと、難なく受け止めてくれた。

「やあ、メラニア。実は今日は紹介したい人がいるんだ」

 オズワルド様に言葉に顔を上げると、後ろに誰かいた。

「彼らは僕の側近に選ばれた人達だよ。メラニアもよく会うことになると思うから覚えておいてね」

 そこにいたのは全員攻略対象者だった。

 

 まずは先日救ったレイフ・ジャスミン様。

 彼は私と目が合うと久しぶりと笑顔で挨拶してくれた。

 

 次はデニス・ベルガモット様。ベルガモット侯爵家の嫡男で現在十一歳。長く青い髪を一つに括っている、メガネの似合う利発な少年だ。

 彼のルートはとても悲しい。まだ悲劇が降りかかるまで二年の猶予があるが、いつ奴らが動き出すか分からないため安心できない。

 

 次はイライジャ・クレマチス様。クレマチス伯爵家の嫡男で現在十三歳。赤い髪を肩口で切りそろえた、童顔で真面目そうな少年である。

 彼のルートはなんというか……うん、形容しがたいが、彼は深い悩みを抱えているのだ。私はそれも何とかしてあげられたらいいなと思っている。出来るかは分からないが。

 

 ゲームではもう一人、オズワルド様の側近になることが出来なかった攻略対象者がいる。彼のルートはヒロインでなければどうしようもない。私にできることは何もないのである。それがとても悲しい。

 

 

 

 全員と挨拶すると、親睦も兼ねてみんなでお茶会をすることになった。通されたオズワルド様の私室には、私が書いたオズワルド様の絵が掛けられていた。

「メラニア嬢がこれを描いたと聞きました。凄いですね!」

 レイフ様がそう言うと、口々に褒められる。なんだかむず痒くなった。

 

「あのハリー出版のオーナーもメラニア嬢だと聞いています。うちの妹と歳も変わらないのに大違いですね」

 イライジャ様が紅茶に口をつけて、溜息をつきながら言う。恐らく妹さんと私を比べているのだろうが、本物の幼女と私を比べるのは可哀想だからやめてあげて欲しい。私は前世の知識を持っているのだから、賢くて当たり前だ。

「ハリー出版!家にも沢山あるよ。母がハマってるんだ」

 ハリー出版は平民向けの本が多い。貴族も読んでくれていると知って嬉しかった。

「そうなのですね、お会いすることがあれば感想を伺いたいですわ」

 デニス様のお屋敷に行くことがあれば、何が好きか聞いてみよう。貴族の顧客は貴重だ。

「うちの父も僕も読んでますよ。他国の人に興味を持たれることが多いので、新作は必ず取り寄せています」

 イライジャ様の家は代々外交官の家系だ。だから流行には人一倍敏感である。自国の流行を知らないと他国の人に笑われるからね。

「他国の方にも知られるようになったのですね。今度翻訳版を売り出してみようかしら」

 私が言うと、イライジャ様はどこの国が興味を示していたか教えてくれた。売り出す際は宣伝するので是非教えて欲しいとお願いされた。こちらとしても宣伝してくれる人がいるのは嬉しい。

 イライジャ様は外交官の家系の人らしく、とても話題豊富で楽しかった。

 デニス様は博識で、口数は少ないが、分からないことは丁寧に教えてくれた。二人ともとても話しやすくていい人たちだった。さすが攻略対象である。

 

「そういえば、相談したいことがあると言ってなかったかな?」

 話も落ち着いた頃、オズワルド様が切り出した。

「実は……今売り出したい天才作家が居るのですが、どう売り出せば世間の注目を集められるか考えているのです。何かいいアイディアは無いでしょうか?」

「天才作家?そんなにすごい作品なのかい?」

 私は自信を持って頷く。

「はい!彼女は十年、いえ百年に一度の逸材ですわ!その才を私のせいで腐らせてしまう訳にはいかないのです」

 そういうと皆頭を悩ませ考えてくれた。

 

 しばらく色々なアイディアを出してもらったが、どれもピンと来ない。諦めかけたその時、オズワルド様が言った。

「メラニアが看板を書いてみたらどうだい?きっと目を引くよ」

 私はハッとした。そうだ私には絵があるじゃないか。

 それに一般の印刷は活版印刷だが、この世界には魔法を使った魔道具によって行われる印刷もある。魔道具本体が高価すぎて貴族間でしか使われないが、それなら絵を印刷することも可能なのだ。私はどうしてそれを忘れていたのか。

 私はオズワルド様の手を取った。

「オズワルド様!ありがとうございます!最高の案が浮かびましたわ!」

 喜びのあまり掴んだ手をぶんぶん降ると、オズワルド様はよかったねと笑ってくれた。やっぱり困った時はオズワルド様に相談するのが一番だ。

 

 みんなは何を思いついたのかと聞いてきたが、私は出来上がるまで秘密だと話さなかった。みんなの驚く顔が楽しみである。

 

 

 

 私は家に帰ると早速印刷の魔道具を大量発注した。一般の出版社には厳しいだろうが、飛ぶ鳥を落とす勢いのハリー出版からしたら、ちょっと懐が痛む程度である。

 そして私は絵を描き始めた。そう、小説の表紙絵と挿絵である。私は初の挿絵付き小説としてドロシーの作品を売り出そうと考えたのだ。もちろん、オズワルド様の案の通り看板も書くつもりだ。これから忙しくなるぞ。

 

 ドロシーとハリーにこの案を伝えると、二人は目を剥いていた。

 私が書いた絵をドロシーに見せると、彼女は大喜びで絶対に売れると断言していた。気に入って貰えたようで良かった。

 ハリーは忙しくなりそうだと嬉しそうだった。

 

 私は自分の名前は出さず、謎のイラストレーター『リコリス』としてドロシーの小説の挿絵を担当することになった。

 

 そして、本の発売と同時に挿絵担当の画家も公募する。

 発売と同時に本は飛ぶように売れ、挿絵担当の募集にもかなりの人数が殺到した。

 ドロシーと謎のイラストレーターリコリスは一躍時の人となった。

 

 

「すごいよメラニア!このリコリスって君だよね?それにこの小説も素晴らしいよ!君が天才だと言ったのも解る」

 なんとオズワルド様達が家にお祝いに来てくれたのだ。みんなは口々に小説と挿絵を褒め称える。

「忙しいのはわかっていたんだけどね、どうしてもお祝いを言いたくて来てしまったんだ。本当にすごいよメラニア。おめでとう!」

 オズワルド様に褒められるだけで、私の疲れは吹き飛んだ。今ならなんでも出来る気がする。私の頭を撫でてくれるオズワルド様の手が心地いい。

 私はこれからもドロシー専属のイラストレーターとして活動する元気をもらった。

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