20.エンディング
エイミー様が投獄されたとはどういう事なのか、私はみんなに詰め寄った。
オズワルド様が気の毒そうな顔をする。
「まだ正式に罪状は決まってないけどね。選考会での一連の事件は彼女の仕業だったんだ」
私は言葉がなかった。イライジャ様がモニターに何かを繋ぐ。そこに映し出された映像には、ピンクのカツラを脱ぎ去るエイミー様が映っていた。
「仕掛けていた隠しカメラの映像だよ」
訳が分からなかった。どうして隠しカメラなんて仕込んでいたのか。
「一番最初、マナーの時に濡れ衣を着せられそうになっただろう?だからその次からずっとあちこちにカメラを仕掛けていたんだ」
最初から知っていたのなら、ずっと知っていて黙っていたことになる。なぜそんな……。その時思い当たってしまった。選考会を台無しにしないためだ。
「彼女は民から人気が高かった、聖女と呼ばれるくらいにはね。しかも審査で不合格にすることも出来そうにないくらいには優秀だった。だからずっと警告で済ませていたんだよ。」
オズワルド様はため息をついた。
「メラニアには選考会に集中して欲しかったから言えなかったんだ」
私は今までのエイミー様のことを思い出す。そんな素振りは少しも見せなかった。むしろファンだと言ってくれた。どうしてこんな事を……
「そんなに花姫になりたかったの?」
私の言葉にみんな首を傾げる。
「わからない、彼女は声を失ったから」
声を失ったとはどういう事だろう。
「花の精霊の思し召しだ、選考会が終わった途端、突然声が出なくなったらしい」
「選考会で不正をすると罰せられる。散々言われてきただろうに……彼女は信じていなかったんだね」
私がゲームの設定を曲げてしまったから、エイミー様が悪役令嬢になってしまったのかもしれない。みんなを幸せにすると言っておいて、エイミー様のことは何も考えていなかった。ヒロインだから勝手に幸せになれると思っていたのだ。
私はオズワルド様に頼み込んだ。
「精霊様が罰を与えたのなら、彼女はもう罰を受けました。どうか罪を軽くしてあげてください」
「……被害者の君が言うなら、修道院行きくらいには出来るかもしれない。でもそれ以上は無理だ」
私は涙が止まらなかった。
「メラニア、君がなぜそんなに彼女を庇うのか分からないけど、その道を選んだのは彼女自身だ。君は何も悪くない」
そうなのだろうか?本当に?私が未来をねじ曲げたから、彼女の幸せを奪ってしまったのでは無いのだろうか。
「何か思うところがあるのなら精霊様に祈るといい、君は花姫になったのだから、精霊も君の言葉を聞き届けてくれるだろう」
私はもうどうにもならない事を悟ってしまった。せめて精霊様に祈ろう。彼女の声を返してもらえるように。
結局エイミー様は修道院送りとなった。動機に関しては一言、花姫になりたかったからとしか答えなかったらしい。
エイミー様が修道院に送られる日は、最後の審査の放映日だった。
スピーチ中のエイミー様の水晶が濁った所は、綺麗に切り取られていた。聖女と言われるのも分かる。そんなスピーチだった。
私は祈った。エイミー様が幸せになれますようにと。
その結果、驚くことが起こった。エイミー様宛に他国の王子から求婚状が届いたのだ。
真実を知る国の上層部は頭を悩ませた。相手は大国の第六王子だ。断れない。かといって本当の事を話す訳にもいかない。しかもエイミー様は声が出ないのだ。
私はきっと精霊様がくれたチャンスだと思い、罪人であることを隠してエイミー様を輿入れさせる事を提案した。
きっと幸せになってくれるだろう。
私はオズワルド様の腕の中で上機嫌だった。
「エイミー嬢が罰を受けなくて良くなって、本当に嬉しそうだね」
オズワルド様がため息をつく。
「エイミー嬢の何が君を引きつけるのか分からないけど、僕は頭が痛いよ。エイミー嬢には釘を刺したけど、いつ彼女が罪人だとバレるか分からないのだから」
「それでも私は、精霊様が願いを叶えてくれたのだと信じています。そんな気がするんです」
そっかと、オズワルド様が笑った。
「彼女は声が出ない。今は花姫選考会からきた精神的なものという事になっているけど、いずれ疑われるかもしれない」
「きっと彼女はこれ以上国を裏切りませんわ。だってもしそんな人間なら精霊様がもっと重い罰を与えていたはずです」
私は、エイミー様を愛してくれる方が現れて良かったと思う。花姫になる事だけが人生では無いのだ。
「君がそう言うなら、何もかも大丈夫な気がしてくるよ」
その後、私たちは花姫お披露目のパレードに参加した。同時にエイミー嬢の求婚劇が発表されて街はお祭り騒ぎだ。平民から他国の王子妃になんてなかなかないシンデレラストーリーだ。私はリコリスとして、彼女の事を漫画にすることにした。
発売されるとその本は売れに売れ、民たちはエイミー様の努力を褒めたたえた。
エイミー嬢は自分がここまで民に愛されていることを知らなかったのだろうか。もう話をする機会が無いから分からない。
結局彼女が何をしたかったのか、何を思っていたのかは謎のままだ。
パレードも終わって花姫として毎日祈りを捧げることになった。私は今度こそ、みんなの幸せを祈っている。
リコリスとして絵を描きながら、王太子妃として公務を行いながら、私は花姫として祈るのだ。今度はきっと取りこぼしの無いように。
そして春の気配が感じられる頃、私とオズワルド様は結婚式を挙げた。
この日をどれだけ夢見ただろう。私は我儘で、手にしたものを何一つ捨てられなかったが、オズワルド様は全て受けいれてくれる。
私は悪役令嬢だったはずだが、オズワルド様のおかげで幸せになれたのだ。これからは二人で支えあって幸せになる番だ。
私はお祝いに来てくれたみんなに感謝しながら、これからも歩んでいく。
オズワルド様が私のベールを上げる。誓いの口付けをすると涙が零れてきた。そんな私を、オズワルド様は優しげな笑みで見つめていた。
ああ、この世界に転生できて良かった。
私は心からそう思った。
ブックマークや評価をして下さると励みになります。
お気に召しましたらよろしくお願いします!




