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転生悪役令嬢は同人活動がしたい  作者: はにか えむ


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19/21

19.最終審査

  花姫選考会最終日。私は緊張の中にいた。

 ウロウロと部屋の中を歩き回り、落ち着かない。

 スピーチの内容を頭の中で反芻する。大丈夫だ、きっとやれる。

 

 私はまた家まで迎えに来てくれたオズワルド様達と馬車に乗って会場に移動した。

 会場に到着すると、みなスピーチの原稿片手に唸っていた。

 最終審査に残ったのは十名だ。それぞれから気迫を感じる。

 今日この場で、花姫が決まるのだ。私はそれぞれの参加者を回って挨拶だけすると、原稿を読むのに没頭した。今日ばかりはインタビュアーも話しかけてこない。

 スピーチする時、目の前には嘘を見抜く水晶が置かれる。これで参加者が嘘を言えないようにするのだ。この事は事前に参加者に告知されている。

 スピーチ中に水晶が曇ったら一発アウトだ。絶対に嘘にならないように細心の注意を払うべきなのである。

 

 そして選考会が始まった。くじ引きの結果、私は最後から二番目だ。

 私はじっと他の人のスピーチを聞く。

 スピーチの内容は様々だった。自分がこれまでやって来たこと、これからやりたい事。自分の特技など色々だ。

 そしてとうとう自分の番がやってきた。

 私は登壇するとスピーチを始める。まずは自分のやってきた慈善活動について話す。それが一区切りすると、私は語り出した。

「私は五歳の頃出版社のオーナーになりました。理由は娯楽小説を普及させたかったからです。最初は民のためではなく、自分が楽しみたいためでした。ですが、娯楽小説が浸透するにつれ私はもっと沢山の人に物語を楽しんで貰いたいと思うようになりました。そして、人生を変えるような出会いをしたのです。彼女の書く小説は素晴らしく、私はより多くの人に彼女の作品を読んでもらいたくなりました。そして彼女の小説を大々的に売り出すため『リコリス』として絵を書き始めたのです」

 ここまで言うと、会場がどよめいた。ついに正体をバラしてしまった。私は続けて話し出す。

「私は将来王太子妃になります。ですから今日ここで自分がリコリスであることを公表したら、絵描きを引退するつもりでした。ですが、私はリコリスを殺してしまいたくありません。どうか皆さんにお許しいただきたいのです。私がリコリスである続けることを。王太子妃となり、いずれ王妃になったとしても、私は大好きな絵を描くことを諦めたくないのです。この場を借りて宣言させてください。私メラニア・ローズはこれからも、ずっとリコリスの名を捨てません。私にどんな肩書きが増えたとしても、どうかこれまで通り、リコリスを応援してください。……私からは以上です」

 私は一礼して階段を降りた。言いたいことは言った。寧ろ選考会のスピーチなのに私事だらけだ。でも後悔はない。私は今までの人生で得たものを、何一つ捨てたくはないのだ。それが茨の道だったとしても。

 

 

 

 次の子のスピーチが終わって、最後のスピーチだ。

 最後はエイミー様だった。民から一番期待されているから大変だろうが、頑張って欲しい。

 

「私はこの治癒の力を使って皆を癒せるように努力してきました。一人でも多くの人を救いたい、それが私の願いです」

 そう言った瞬間、水晶が黒く濁った。みんな息を呑む。エイミー様も動揺しているようだった。最後までスピーチが終わると、階段を降りてくる。その表情は無だった。誰も彼女に声をかけることが出来なかった。

 

 

 

 審査中、私たちは誰も一言も話さなかった。みんなこれまで血のにじむような努力をしてきたのだ。花姫になるために。今は和やかに談笑することなどできるはずは無い。

 

 扉が開いて、審査員の方々が入ってくる。今回は国王陛下もいらっしゃる。この後陛下の口から花姫が発表されるのだ。私たちは息を殺してその時を待つ。

 

「今回花姫に選ばれたのは……メラニア・ローズ!彼女がこれまで積み上げてきた功績は大きい。各審査でも彼女の才は抜きん出ていた。花姫に相応しいのはメラニア・ローズをおいて他に無いであろう」

 私はゆっくりとカーテシーをする。

 念願の花姫になれたのだ。嬉しくてどうにかなりそうなのを必死に押し殺す。


 登壇して当代花姫の前に立つと、花姫から花冠を受け取る。

 涙が溢れそうになった。

 壇上から下を見下ろすと、泣いている子が多かった。彼女達の分も花姫として立派に勤めを果たさなければならない。

 その後は国王陛下がお話をして、選考会は終わった。

 

 

 

 その日の夜、オズワルド様と側近のみんなが私のためにお祝いをしてくれた。まだ一般には花姫は公表されていないため、こっそりお祝いだ。

 私は肩の荷も下り清々しい気分で料理を食べていた。

「やっぱりずっと緊張していたんだね」

 私の弾けっぷりにみんな笑う。選考期間中は常に胃が重たい気がしていたのだ。お腹いっぱい何かを食べたい気分だった。

「何はともあれおめでとう。メラニアは最高の婚約者だよ」

 オズワルド様に褒められて私はとても幸せだ。


「今回の選考会が放映されたら大騒ぎになるだろうね」

 ジョシュア様が笑って言う。

「メラニア嬢には明日にでも長いインタビューに答えてもらいたいんだけど、いいかな?」

 イライジャ様は放映の最後に私との対談を入れたいらしい。確かに、今回はインタビューが無いからおかしいと思っていた。最初から選ばれた人にだけインタビューするつもりだったのか。

「世間の反応が楽しみだな。予想はメラニア嬢とエイミー嬢が人気だったらしいけど」

「それはどこの情報ですか?」

「最終審査前にやった街頭インタビュー」

 そんな事までやってたのか、凄いな。イライジャ様はもう映像作りのプロだと思う。

「貴族だからとかじゃなく、メラニア嬢が純粋に凄すぎるって意見も多かったんだよ」

 それはとてもいいことだ。努力が認められるのは嬉しい。

「メラニア嬢の蕾ももう少ししたら決まる予定だし、パレードが楽しみだね」

 蕾とは花姫の補佐役のことだ。花姫になれなかった候補者の中から四人ほど選ばれる。そして花姫が決まるとパレードで民衆に知らせるのが伝統だ。今回は放映で事前に情報が流れるが、パレードだけは継続して行われる。

「蕾はやはりエイミー様になるのでしょうか?」

 私がそう言うと、その場が凍りついた。

「エイミー嬢は蕾にはなれないよ」

 オズワルド様が気遣わしげに言う。

「だって投獄されたから」

 

 その瞬間、本当に時が止まったような気がした。

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