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18.ダンス

 いよいよ選考会も大詰めだ。次の審査はダンスである。

 現在残りは十六人、貴族が十人平民が六人という内訳だ。今回ばかりは貴族の方が圧倒的有利なので、どうなるか心配だ。

 パートナーだが、一応救済処置として平民の子達は事前にパートナーと練習ができる。貴族は即興だ。今回から始まった、民からの不満を出さないための処置だ。パートナーは選ばれた貴族の男性達が協力してくれることになっている。最初にくじ引きでパートナーを決めて、その後踊るのだ。

 

 今回は選考会の制服ではなくドレスだ。平民の子達にはそのための支度金が渡されている。私は折角なのでコーディネートも頑張って見た。ちょっと勇気をもらおうと思って、以前オズワルド様に貰ったオズワルド様カラーの黄色のドレスに青の装飾品だ。

 これで百人力である。

 

 私は例によって迎えに来てくれたオズワルド様達と馬車に乗る。今回側近たちはみんなダンスパートナーとして参加するらしい。オズワルド様は審査員なので踊らない。

「メラニア、今日は一際美しいね」

 オズワルド様がドレスを褒めてくれて、私のやる気は急上昇だ。

 

 会場に着くとそこは立食パーティーのような形式になっていた。貴族の舞踏会を再現した感じだ。開始まで時間があるからと、私は飲み物を取りに行く。テーブルから飲み物を取ったその時、誰かに後ろから押された。私はバランスを崩して飲み物を零してしまう。ドレスが染みになってしまった。

 そんな私に気づいたオズワルド様が駆け寄ってくる。

「メラニア、大丈夫かい?」

 私は後ろを振り向くと、そこには誰もいなかった。とりあえずオズワルド様に言葉を返す。

「私は大丈夫ですがドレスが……」

「王宮に君のドレスなら沢山あるだろう。ちょうどプレゼントしようと思っていた物があるからそれに着替えておいで」

 この精霊殿は王宮の隣にある。急いで行って着替えれば間に合うだろう。オズワルド様は私をエスコートして一旦王宮に戻ってくれた。

 それにしても、私を押したのは一体誰だったのだろう。

 

 オズワルド様がプレゼントしてくれたドレスに着替えて会場に戻ると、すぐ選考会が開始になった。ギリギリ間に合ってよかった。

 まずはくじ引きで一緒に踊る相手を決める。私の相手はイライジャ様になった。イライジャ様はダンスが得意だ、ラッキーである。

 その後一時間、平民の子達のための練習時間がある。私はここまで残った貴族令嬢たちと雑談して過ごした。その間にインタビューに答えたりしたらあっという間に時間が過ぎた。

 

 いよいよダンス審査の始まりである。最初は簡単な曲だった。それからどんどん難しくなっていく。

「曲の難易度高すぎない?」

 途中イライジャ様もそう言って笑っていた。そう言いつつ完璧に踊れるのがイライジャ様だ。この審査は踊れなくなったら脱落だ。次々踊れず抜ける子が出てくる。六人目が脱落した時、曲は最高難度になっていた。何十分踊っただろう、もう汗だくだ。

 脱落したのは貴族が二人、平民が四人だった。ついに最後の十人が決まった。貴族が八人平民が二人。丁度いい割合だろう。

 貴族有利の選考会でよく最後まで残ったと思う。エイミー様もその中にいた。流石ヒロイン。

 エイミー様のダンスの相手はデニス様だったから、恋に落ちたりしていないだろうか。

 

 ふとエイミー様を見ると顔色が悪かった。踊りすぎて具合が悪くなったのかもしれない。私はエイミー様に声をかけた。

「エイミー様、具合が悪いのでは無いですか?どこかで休憩なさっては?」

「……いいえ大丈夫です。まだインタビューがありますからそのあと休みます」

 体調が優れなくても頑張るのはヒロインらしい。私は無理をしないように言うとその場を後にした。

 

 次は最後のスピーチである。自分が社会貢献のためにやった事とその感想をスピーチするのだ。それで花姫が決まる。

 

 

 

 その三日後、ダンスの審査が放映された。街の賑わいも最高潮に達していた。

 またみんなで集まって映像を見る。自分が踊っている姿を見るのは不思議な感じだ。

「お相手がイライジャ様でラッキーでしたわ」

 私が言うとイライジャ様が微笑む。

「僕は誰だって綺麗に踊らせる自信があるけど、メラニア嬢は上手だからね、僕が飲まれないように頑張ったよ」

 

「みんなここまでできるとは思っていなかったからね、事前練習のあった平民の方がかえって不利になってしまったかもしれないね」

 確かに貴族令嬢二人の敗因は体力切れのようだった。平民の子達の中にも体力の続かなかった子がいた。あんなに長時間踊ることなど普段は無いからな。

 私も翌日は筋肉痛に悩まされたくらいだ。

「今回の選考会は改善点が多くあったね。まあ、初回だからしかたがないが……」

 デニス様とレイフ様が頭を悩ませている。

 十年後の選考会も彼らが指揮することになるのだ。今から課題を纏めておきたいのだろう。今回私は選考対象者だったので協力できなかったが、次からは参加した側にたって意見できるだろう。選考内容の変更もあるかもしれない。

「民たちも投票できるようになればもっと盛り上がるでしょうか」

「それはみんな平民の子に入れちゃわないかい?」

 私の言葉にジョシュア様が答える。

「そうではなくて、例えば芸術などは製作者を隠したまま民に投票してもらうのです」

 音楽も一旦音だけで投票してもらうことが可能かもしれない。

「なるほど、それなら盛り上がるかもね」

 民たちも自分たちで選んだ花姫だという思いが強くなるだろう。

 

「そういえば、今民たちの間ではメラニア嬢かエイミー嬢、どちらがリコリスかでもめてるらしいよ」

 やっぱりそうなってしまったか。でも私がリコリスなのは次の審査で判明するのだから大丈夫だろう。

 騒いでいるのもリコリスのファンだけだろうし。

「まあ、こちらとしては話題が増えるのは大歓迎だけど、メラニア嬢は気にしなさすぎだと思うよ」

 みんな苦笑している。だって心配しても仕方ないじゃないか。

 

 

 

 そのまま放映されている映像を見ていると、何故かドロシーへのインタビューが始まった。私は開いた口が塞がらなくなってしまった。

 みんな私の様子を見てくすくすと笑っている。

『私はリコリスが幼い頃から知っていますが、彼女は紛れもない天才です。オーナーは私を華々しくデビューさせるためにかなり頭を悩ませてくれていました。リコリスの絵を見せられた時、私の作品の為にここまでしてくれるのかと嬉しかったです。今では私はリコリスのことを無二の相棒だと思っています。リコリスも私の作品のファンだと言ってくれるので、私はリコリスの絵に見合う作品を書こうといつも必死でした。今の私があるのは全てリコリスのお陰なのです』

 泣きそうになってしまった。私の最推し作家が私を必要としてくれる、それがとても嬉しくて、同時に悲しくなった。リコリスとして絵を描ける機会はもう無いかもしれない。私はリコリスを殺そうとしているのだから。

『リコリスは最終審査まで残りました。彼女はそこで正体を明かすでしょう。私はそれがとても楽しみなんです。やっとみんなに私の相棒は凄いのだと自慢出来ますから。私はこれからもずっとリコリスが誰からも愛される存在であって欲しいと思います。たとえ本人がそれを否定したとしても……』

 私は感情の制御が出来なくなってしまった。涙が溢れて止まらない。オズワルド様が言った。

「ほら、言っただろう。周りが離してくれないって。王太子妃になったって、リコリスを続けても構わないんだ。僕もサポートするから」

 オズワルド様に縋って、私は泣いた。みんなの優しさが嬉しくて、涙が止まらない。私はリコリスを殺してしまいたくない。このままリコリスを続けたい。欲張ってもいいのだろうか。民は私を許してくれるだろうか。

 私は次のスピーチの内容を書き換えた。

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