17.芸術
料理の審査の三日後。お待ちかねの放映日だ。
今日も街は賑わっている。みんな誰が花姫になるか興味津々なのだ。
私たちは恒例のように集まって、放送を見ている。
「事件は綺麗に無かったことになっていますね」
そう、花姫選考会で起こった事件には箝口令が敷かれているのだ。
「当然だよ編集頑張ったんだからね!」
レイフ様の言葉にイライジャ様が返す。イライジャ様は実は放送の編集に関わっているのだ。とてもセンスがある編集をする。適材適所で本人も楽しんでいる。
「次回からは警備も厳しくなりますから、犯人は何も出来ないでしょう」
デニス様が疲れた顔をして言った。警備の増員をするのに軍部と色々あったらしい。大方事件の責任の擦り付け合いだろう。お疲れ様だ。
「メラニアのお菓子はすごいね。最初は何かの飾りかと思ったよ」
確かに芸術の審査と間違えていませんかと他の参加者に心配された。パッと見食べ物に見えないからね。
「どうせなら美しくしたいではありませんか」
そう笑うとオズワルド様が頭を撫でてくれる。
「美しくて可愛いねこのクッキー、最高だよ」
イライジャ様がべた褒めしている。さすがオトメン、可愛いものには目がない。私が作ってきたクッキーを一つ一つ眺めてはため息をついている。
「あの精霊様はチョコレートだっけ?凄いよね」
ジョシュア様がクッキーをバリバリ食べながら褒めてくれる。
「僕も今度挑戦してみたいな。作り方教えてくれる?」
オズワルド様とお菓子が作れるなんて最高である。もちろんと了承した。
「今のところ平民の中で最有力はエイミー様でしょうか?」
映像を見ながら考える。やはりエイミー様が頭一つ抜きん出ている気がする。さすがヒロイン、私も負けていられない。
「……そうだね。彼女は民にも人気なようだよ」
平民の期待の星といったところだろうか。頑張って最後まで残って欲しい。
さて、今日は芸術の審査の日である。花の精霊をテーマにした作品を提出するのだ。今回も嘘を見抜く水晶で本人の作品か審査される。
今回は私の本領発揮だ。全力で挑ませてもらう。私はカリア室長に作ってもらったエアブラシで数ヶ月かけて作品を描きあげた。何よりもリアルさを重視して描いた花の精霊は今にも動き出しそうだ。背景の花々にも力を入れた。
こればかりは誰にも負ける訳にはいかない。私のプライドがかかっている。
今回も私はオズワルド様の迎えで精霊殿に向かった。会場に入るまでオズワルド様は決して私の傍を離れない。会場に入った瞬間みんなの視線が私たちに集中した。
オズワルド様は私の指先に口付けをすると離れていった。顔が赤くなっているかもしれない。平常心平常心。
インタビュアーに声をかけられたので、一番の得意分野なので負けられないと答えた。
今回も水晶で確認したあと、一人一人作品のお披露目をする。絵画もあれば刺繍も、リースまであった。
そしてエイミー様の番になった時、会場がどよめいた。エイミー様の作品は絵画だったのだが、その画風がリコリスそっくりだったのだ。
もしかしてエイミー様もリコリスのファンなのだろうか。それとも流行りの画風を真似しただけか。私はソワソワした。
ファンなら是非お話してみたい。
ちなみに私は画風の真似自体には何も思っていない。絵描きはみんな真似事から始まるからだ。悪意がなければ問題ないと思う。私もよく色んな画風を真似て遊んでいた。絵の盗作というのはラインが難しいのだ。
そしていよいよ私の番になった。ドキドキしながらベールを剥がす。その瞬間、会場中が無音になった。水晶を持った審査員に問いかけられる。
「これは、写真では無いのですね」
「はい、勿論です」
水晶は濁らない。本当のことだということだ。
その瞬間、会場中の人間の拍手が鳴り響いた。私はホッとしてカーテシーを返す。
審査員の方々にはそのまま精霊殿に飾りたいと絶賛された。自分の得意なことを褒められるのは格別に嬉しい。頑張った甲斐があった。
審査中結果を待っていると、エイミー様が話しかけてきた。生ヒロインに感動してしまった。
「あの、もしかしてメラニア様はリコリスですか?」
私はハッとした。慌てて唇に人差し指を当てる。
「あ……すみません。私昔からファンなんです、『花の楽園』の時から」
なんとヒロインが私のファンらしい。私は嬉しくなって飛び跳ねそうになった。
「ありがとう、嬉しいわ。今度ぜひ感想を聞かせてちょうだい」
彼女の手をとって言うと、エイミー様は笑って、はいと言ってくれた。
ちょうどその直後結果発表になった。今回の脱落者は六名。貴族が二人、平民が四人だった。残りは十六人。次で最終審査に進む十人が決まるのである。
終わってすぐにインタビュアーに声をかけられた。エイミー様にお別れを言ってインタビューに答える。
「今回は私の一番の得意分野だったので、審査を通過できて嬉しく思います。今回の絵は私の一番の力作なのです。この作品のために新しい画材を特注で作ってもらいました。協力してくださった方々に感謝を、この場を借りて言わせてください」
この時私は有頂天で、何も気づいていなかったのである。
さて恒例の放送鑑賞の時間がやってきました。
今日も街は大賑わいだ。最近知ったのだが民の間で候補者たちの人気投票が行われているらしい。そちらの結果がどうなるのかも気になる。
「今回はメラニア嬢の圧勝という感じでしたね」
イライジャ様が何故か誇らしげにしている。
「それにしてもこのエイミー嬢の画風がリコリスに似すぎているのが気になるよ」
顔をしかめるレイフ様に私は答える。
「エイミー様は私のファンなのだそうですわ。花の楽園の時からのファンらしいので真似して練習していたのではないでしょうか。うちで絵師を公募していた時も、私を真似た画風が多かったですし」
「メラニア嬢は優しすぎるよ!ここは怒るべきところだと思うな」
レイフ様が憤慨している。私のためにそんなに怒ってくれるなら私それだけで嬉しい。
「まあ、今回のこれでリコリスイコールエイミーだと勘違いする民も多いでしょう」
デニス様も心配そうだ。そこまで気にすることじゃないと思うんだけどな。
「メラニア嬢が圧倒的な画力を見せつけたので、正体をバラしても変な騒ぎにはならないと思いますが、ちょっと気になりますね」
みんな心配し過ぎだと思う。確かに今巷ではリコリスが誰か当てようと賭け事まで行われているらしいが、少し混乱するだけだろう。
「メラニア嬢がリコリスの画風で勝負してたらどうなってたかな?どちらかが民にバッシングを受けてたかもね」
確かにそれはあるかもしれない。私は画風の真似は罪では無いと思っているが、そう思わない人も多いだろう。
「それにしてもメラニアの絵は凄いね。本当に写真みたいだ」
オズワルド様が話題を変えてくれた。今は色々言ってもしょうがないもんな。
「描くのがとても楽しかったですわ。花の精霊様はどれだけ美しいのか私は知りませんが、実際にお目にかかったらこんな感じかなと想像しながら描きましたの」
「うん、まさに精霊様といった感じだね。とても美しいよ」
オズワルド様が私の頭を撫でてくれる。頑張った甲斐があった。
この放映の後売り出されたドロシーの新刊の後書きに『料理といい絵画といい、やっぱりリコリスは最高の芸術家です。次も頑張って!』と書いてあって、リコリス残留に民は湧いた。
余談だが、料理の審査の後にアイシングクッキーを差し入れしたら、うちに作家さんたちがみんな新刊の後書きにクッキーの感想を書いてくれた。後書きを私信に使うなと注意した方がいいのだろうか。
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