15.音楽
今日は先日の力比べとマナー試験の放映日である。
街を覗いてみるとお祭りのようになっていた。色々な屋台も出ていて楽しそうだ。
私たちは前回と同じように王宮のモニターで放映を見る。
エイミー様の水晶が輝くシーンでレイフ様が感嘆の声を上げた。
「この子凄いね、花の精霊に愛されてるのかな」
私の水晶が光るシーンではジョシュア様が誇らしげにしていた。
「僕の目を治せたんだ、当然だよね」
オズワルド様も私を褒めてくれた。抱き寄せていた腰を少し引き寄せると頬に口付けを落とす。
「僕は素晴らしい婚約者を持てて幸せだ」
マナーの試験映像になると、貴族組に対する壮絶なダメ出しが始まる。ちょっと流石に可哀想だからやめてあげて欲しい。彼女たちはもう罰を受けたのだ。
映像の中にアンを見つけると、オズワルド様がこいつが例の子かと言う。なんだか声音が怖かったのだが気のせいだろう。
「メラニア嬢は流石ですね、テーブルのみんなが楽しそうだ」
デニス様にお褒めの言葉を頂いて私は機嫌が良くなった。
「私、最後の方は完全に彼女達の保護者気分でしたのよ」
イライジャ様がお腹を抱えて笑っている。
「確かに、落ち着いてるからこの中でも年上に見えますね」
前世の記憶もあるからな、やはり十四歳には見えないのだろう。最近背も伸びてきたしな。
「次は音楽……というか歌ですね。メラニア様の歌を聴いたことないんですが、大丈夫ですか?」
「実はそんなに得意ではなくて……でも沢山練習しましたわ!」
イライジャ様が心配そうにしているが、こればっかりはどうしようもない。やるしかないのだ。
「応援しているよメラニア」
オズワルト様に頭を撫でてもらう。次の試験もがんばろう。
選考会場の精霊殿に着くと、私は真っ直ぐに会場内に向かった。
この間のように絡まれるのは御免である。会場内に入ると既に何名かの人が到着していて、インタビューを受けていた。
私もインタビューに答えると会場を見回す。今日の試験は歌だ。花の精霊の好きな恋の歌を歌うのだ。私は正直に言って歌が苦手だった。しかし前世ではカラオケが好きでよくいっていた。下手でも楽しいのがカラオケである。
そのカラオケで私は気がついた。歌はソウルだ。魂を込めた歌なら下手でも響くのである。私は前世でやっていた歌唱法を試すことにした。それは歌詞を推しカプに当てはめる方法だ。この歌詞は推しの気持ちだと思うだけで歌に心が入る。この方法は大成功で先生に褒められた。
今回も私は精霊の歌の歌詞を推しカプに当てはめ済みだ。本番まで推しカプのことを思い浮かべて時間を潰そう。
そう思った時だった。一人の女の子が泣きながら私服で走ってきた。そして私の前に来ると言った。
「どうしてこんな酷いことができるんですか!」
私はずっと会場にいたがなんの事だろう。女の子はボロボロになった花姫候補者の制服を差し出した。
「まあ酷い」
私は率直な感想を言った。
「白々しい、メラニア様がやったんでしょう!」
女の子、確か名前はドーラだ。ドーラは泣きながら叫んだ。
「まさか!そんな事をする理由がありませんし、私は精霊殿に来てからはずっとこの部屋にいました」
「嘘です!私見たんです!私の部屋からメラニア様が走り去るのを!」
花姫候補生の中で平民の子は精霊殿に泊まり込んでいる。しかし私はその宿舎の場所を知らないし、彼女の部屋なんてなおさらだ。
「私はあなたがたの宿舎など行ったことはありません。場所すら知りません。誰かとお間違いでは?」
「確かにピンクの髪でした。そんな人メラニア様しか居ません」
「つまり顔は見ていないということですね」
そういうと、ドーラはさらに泣き出した。私はまた代表者に彼女の代わりの制服を持ってきてもらうように頼むと、ことの次第を説明した。代表者はため息をついて了承してくれた。
犯人のことは気になるが、選考会は行わなくてはならない。
着替えてきたドーラが戻ってきてから選考会は始まった。
名前を呼ばれた順に前に出て歌を歌う。今日も六人が脱落するはずだ。
私はトップバッターを飾ることになってしまった。緊張しながらステージに上がる。私が今から歌うのはせつない恋の歌だ。推しの顔を思い浮かべる。私は渾身の感情を込めて歌った。推しを思いすぎて思わず泣きそうになってしまった。
歌が終わると拍手が響き渡る。やった、やり切った。よくやった私。
ステージを降りるとドーラがじっと私を睨んでいた。
だから犯人は私じゃないんだってば。別のピンク髪をあたってください。
ドーラの番になると、彼女はステージに上がった。しかし、先程まで号泣していた彼女の声は散々だった。ドーラは歌の途中で泣き出してしまった。結局最後まで歌いきることは出来ずに退場となった。
可哀想に、犯人が早く見つかって欲しい。
結局今回は貴族二名、ドーラを含む平民四名が脱落となった。
選考会の放映日、恒例の映像チェックである。
今日も街は大盛り上がりだ。
私は映像チェックの前にドーラとの事を話した。
「誰かがメラニア嬢に罪を着せようとしたってことか」
みんな真剣な顔で考え込む。
「どうしてもメラニア嬢に退場して欲しい人がいるんだろうな」
「心配しないで僕たちに任せて、メラニア」
オズワルド様は私を抱き寄せると頭を撫でる。
「ドーラ様が可哀そうです。早く犯人が捕まって欲しいですわ」
「……そうだね、僕に任せて」
オズワルド様に任せるなら安心だ。私は心が少し軽くなった。
映像が始まると私の歌をみんな褒めてくれた。推しに感謝である。
エイミー様の番になると、みんな感嘆した。歌上手いなーさすがヒロイン。なんだかとても心が籠っているように感じる。誰かに恋をしているのだろうか。
そういえば、みんなヒロインにはもう会ったのかな?私は好奇心で聞いてみる。
みんな直接会ったことはないという。何故だ?
あ、映像放映のせいだ。精霊殿には見学制度があった。花姫選考会を見学できるのだ。しかし、映像放映のせいで見学制度はなくなった。
だから出会えないのか……。ごめん、ヒロイン。
私はちょっと原作をねじ曲げ過ぎたかもしれない。
その直後に発売されたドロシーの新刊にまたメッセージが書いてあった。
『リコリスの歌に涙が止まらなくなりました。やっぱり漫画をかける人は心が豊かなのですね。次も頑張ってほしいです』だそうだ。
ドロシーさん新刊出すの早くないですか?もうこのメッセージのために新刊だしてない?気のせいかな。面白がってるよね?
街はリコリス残留の報にまたザワついた。
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