13.花姫選考会
いよいよ今日は花姫選考会の一日目である。今会場である精霊殿には百二十人程の若い治癒魔法使いが集まっている。ちなみに選考会に参加できるのは十三歳から二十五歳までだ。十年ごとの開催なので人によっては二回参加出来る人もいるが、ほとんど一回の参加で終わる。私も年齢的には二回参加できるが、みっともないと思われるのでしないだろう。
今日の試験はシンプルに学力だ。これで殆どか振るい落とされる。合格者は四十人ほどだろうか。最初の関門が、実は一番難しいのだ。そのかわり、純粋な実力のみで決まるのはこの試験だけだ。これを突破出来れば、努力を買われて就職先には困らない。
このテスト、私は満点を取らなくてはならないと妃教育の先生から言われている。未来の王太子妃が間違っていい問題なんて出ないからだ。お陰でとても緊張していた。
ステージに現花姫が現れる。彼女は優雅にカーテシーをすると開催の挨拶を始めた。ちなみに彼女は伯爵令嬢だ。
彼女の参加した選考会には公爵令嬢もいたが、それを破って花姫になった才女である。
ちなみにこの選考会だけは皆絶対に不正をしない、なぜなら守護精霊の怒りに触れた前例があるからだ。一般には知られていないが、不正に選ばれた令嬢と、それに加担したものは『若さ』を奪われた。選考会は最も優れた人間を選ばなければならないのだ。
現花姫様も挨拶の最後は、不正をすると花の精霊様の怒りに触れると締めくくった。日頃祈りの間で花の精霊様と対峙している花姫様の言葉は真に迫っていた。彼女は花の精霊様のお力を誰よりよくご存知なのだろう。
そのあとは会場を移動し、学力テストが行われる部屋へ向かう。前世の学校を思い出した。試験前はこんなふうに緊張していたっけな。
警備のため貴族と平民別れた部屋で行われるが、内容は一緒である。貴族部屋には二十人ほどの女性がいた。十五人ほど知らない顔が居るのは下級貴族の子だからだろう。私はまず顔見知りの五人に挨拶した。内訳は侯爵令嬢が一人、伯爵令嬢が四人である。貴族の集まりでたまに会う間柄だ。
その後、下級貴族の子達がまとめて挨拶に来た。彼女たちを牽引しているのは子爵令嬢の女の子だ、彼女が一番序列が高いのだろう。初めての場でそれを察して下の子達を統率できるのはなかなかの手腕である。
しばらくすると、試験官と思しき人が部屋に入ってきた。とうとう試験開始である。
私たちは席につき、問題を解き始める。最初はとっても簡単だった。しかし進めば進むほど難しくなってゆく。私は見直しの時間も考えて急いで問題を解いた。解き終わると時間ギリギリまで丹念に見直した。この試験結果は公示されるので絶対に失敗は許されない。
終了のベルが鳴ると、係員が回収しに来る。結果発表は明後日だ。だ。
ちなみに今回の試験のダイジェストが放映されるのは五日後の予定である。今回は筆記試験で絵的に面白くないので、インタビューや選考会の説明をする回になる。そして今回は候補生たちが実際に解いた試験問題が一般にも公表されるのだ。今回の試験がどれだけ難しいものか分かるだろう。
部屋を出ようとした時、インタビュアーに声をかけられた。私は優雅にそれに応じる。今回の試験の感想を聞かれたので、思っていたよりも骨のある問題ばかりで驚いたと言っておいた。時間内に全問解くことは出来たがケアレスミスがないか心配だとも。実に無難な感想しか言えなかった。もう少し奇を衒った方が良かっただろうか。
この時私は知らなかったのだ、数学の問題に学者ですら苦戦する問題が含まれていたことを。いつの間にか私の受けた妃教育が、通常のレベルより遥か上の物に変えられていたことを。本当に知らなかったのである。
いよいよ結果発表の日がやってきた。私たちはまた精霊殿に集まった。一先ず大々的に発表されるのは合格者の四十人だけで、その他は後に紙で結果を渡されるらしい。
会場にはモニターが設置されていた。ここに名前と順位と点数が表示されるのだ。これは私のアイディアだった。
試験の最高点は五百点満点である。まずは四十位から発表だ。
会場内は悲喜こもごもだった。驚いたのは四十位の点数が三百点ちょっとだった事だ。もっと高いと思っていた。三十位くらいになると貴族が混じってくる。ここまで行くと自分の失格を悟って泣いている子も多くいた。
私は一位にならなければならない。上位の発表が近づく度緊張が大きくなる。その時だった。
「十一位、エイミー・リリー」
私は思わずその姿を探してしまった。この名前はヒロインだ。間違いない。私は見つけてしまった。
亜麻色の髪にブラウンの瞳、一見凡庸な容姿に見えるがよく見ると愛嬌があって可愛い、そんなデフォルトのヒロインがそこに居た。
私は感動した。本当にヒロインが現れるとは。頑張って花姫を目指して欲しい。私も簡単に負ける気は無いけれど。
そしてあわよくばオズワルド様以外の攻略対象者とくっついてくれればいいと思う。花姫選考会で上位となれば、伯爵家ならギリギリ養子に入れるだろう。王族であるジョシュア様以外なら結婚も夢じゃないと思う。頑張れヒロイン。
「一位 メラニア・ローズ」
危ない、ヒロインに夢中になっていたら発表を聞き逃すところだった。私は慌ててカーテシーをする。モニターを見ると点数は五百点満点だった。やったぜ。とりあえず肩の荷を下ろすことが出来てホッとした
。
帰り際、またインタビューされたので、妃教育の先生に『王太子妃なら満点をとって当然、むしろそれがスタートラインだ』と言われて頑張ったと答えておいた。
その二日後、私はオズワルド様とその側近たちと一緒にモニターを見ていた。そう、とうとう花姫選考会の様子が上映されるのである。
街の巨大モニターの前にも人が沢山集まってきていてお祭り騒ぎだ。遠方から来た人もいるらしい。ちなみに今日は街頭インタビューも予定されている。民の生の声が聞けるのだ。
オズワルド様は優雅に椅子に腰かけて私の肩を抱いている。
「メラニア、満点合格おめでとう。改めてお祝いするよ」
テーブルの上にはオズワルド様の作ったお菓子が所狭しと並んでいる。私の好きな物ばかりで嬉しい。さすがオズワルド様だ。
満面の笑みでお菓子を食べる私の髪を撫でながら、オズワルド様は楽しそうだ。
「このモニター上映は本当にいいものだね、とてもワクワクするよ、結果は知っているのにね」
そうなのだ、編集が上手いのか見ていてワクワクハラハラするのである。自分のインタビューシーンはちょっと照れたが、他は見ていてとても楽しかった。
「上位十人はやっぱり貴族になったね」
「でも十一位は平民の子だよ」
ジョシュア様がため息をついて言う。
「優秀な子がいてくれてよかったよ、そうでないと貴族だけずるいってなっちゃうからね」
その通りだ。一人でも多くの平民が上に上がってくれることで、不正はないと証明出来る。今回の合格者の半分は平民なので問題ないだろう。いや、そもそも貴族は最初から二十人しか居ないのだが、観客はそれを知らないから問題ないのである。
映像が終わると、デニス様が選考会の問題を見て絶句していて、何事かと思い目を合わせたら微笑まれた。
「問題があまりに難しくて驚いたんですよ」
そう優しく言われた。確かに平民の子達には難しすぎる問題もあったな。
他のメンバーも問題を見て息を飲んでいた。
何故かオズワルド様に頭を撫でられる。みんなどうしたのだろうか。
余談だが、そのすぐ後に発売されたドロシーの小説のあとがきに『リコリス選考会初戦突破おめでとう!オーナー全問正解凄すぎます!』と書かれていたことで、また世間がザワついた。
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