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12.選考会の準備

 十四歳になった。私は出版社の仕事の傍ら、花姫選考会の映像装置の開発やその内容について、オズワルド様とカリア室長と相談しながら進めていた。もうほとんど完成して、設置も完了してしまっている。テストも兼ねて、映像で花姫選考会を放送することを表明する動画を放映すると、民は湧き上がった。毎日指折り数えて楽しみにしている。

 放映させるのは全五都市だ。これ以上は予算と交渉の関係で増やせなかった。

 

 これに沸きたったのは民ばかりでは無い。平民の花姫候補生たちもだ。

 平民の花姫候補生たちは、治癒の力が発覚した時から五年間と、花姫選考会直前の二ヶ月だけ神殿で無償で教育を受けることが出来る。それこそテストの内容となるものは全てだ。

 治癒の力の発現があまりにも遅いと弾かれてしまうことはあるが、大体が十代で発現するのでみんな教育を受けることになる。

 時々辞退する人もいるが、そうすると花姫選考会には出られない。

 

 今平民の花姫候補生たちは、恥をかかないように必死である。そりゃそうだ、失敗したら国単位で放送されるのだ。必死にもなる。

 そして逆に、素敵な男性に見初められることを夢見ている子もいる。漫画版花の楽園のせいである。すこし神殿に行った時に候補生の子達の話を聞いたが微笑ましかった。

 

 

 

 そんな充実した日々を過ごしていた時、ハリーに呼び出された。

「花姫をテーマにした作品を描いてくれないでしょうか?」

 なんでも、過去の花姫作品の売上が急上昇しているらしい。流行りなので多くの作家に花姫作品を描かせているようだ。その中でもリコリスの新作を望む声は多いようで、嘆願書が届いているとか。

「分かりました、描きましょう」

 幸い花姫シリーズはあと一作残っている。『花の黎明だ』

 ポンコツヒロインが、面の皮の厚い最強悪役令嬢に打ち勝つ物語である。ある意味ではこれが一番ドラマ性がある作品だ。

 私は頑張った。具体的には悪役令嬢の天使顔と悪魔顔の描きわけを頑張った。悪魔顔を頑張りすぎてちょっとホラー風味になったかもしれない。

 

 

 

 私には一つ考えていることがあった。それはリコリスの正体についてだ。いつかどこかでリコリスの正体を公表しなければならない、それが読者に対する誠意だと思っている。

 私は王太子妃になるのだから、いつまでも執筆活動をしている訳にはいかないのだ。どこかキリのいいところで正体を公表して引退しようと思っている。

 それが花姫選考会だ。選考会には社会貢献の審査がある。これまでどのように社会に貢献してきたか発表するのだ。国の審査が入るので嘘をつくのは不可能だ。私はここでリコリスのことを公表しようと思っている。

 

 私は本のあとがきにこう書いた。

『私も今回の花姫選考会に参加させて頂きます。社会貢献の審査まで残ることが出来ましたら、正体を公表しようと思います。』

 

 そうして発売された本は様々な話題を呼んだ。今回の花姫選考会に、王太子の婚約者でハリー出版オーナーの私が出場するのは、ファンなら誰でも知っているため、オーナーVSリコリスだとか騒がれていた。

 ドロシーが新刊の巻末に『私の人生を変えてくれた相棒リコリスしか花姫にふさわしい人はいない』と書いたため、リコリス貴族令嬢説やドロシーとリコリスの禁断の愛説が囁かれた。ドロシーとオーナー不仲説も。なんて事してくれたんだドロシー。

 

 でもこれで花姫選考会はもっと盛り上がるだろう。王太子の婚約者である私がどうせ優勝するだろうと言われていて、盛り上がりに欠けるかもと思っていたのだ。

 

 

 

 恒例のオズワルド様とのお茶会で、オズワルド様が心配そうに聞いてきた。

「リコリスとして活動するのは辞めるのかい?」

 オズワルド様は私を抱き寄せてそのまま髪をすいてくる。

「はい、王太子妃になったらそのまま活動を続ける訳にはいかないでしょう?」

「僕は構わないよ。取れる時間は減るかもしれないが、メラニアには好きなことを諦めて欲しくない」

 オズワルド様は私の髪に口付けを落とすと、悲痛な声で言った。

「僕は自由な君を愛しているのだから、僕のせいでメラニアが何かを諦めるのは嫌だよ」

 そのセリフを聞いて涙が出そうになってしまった。

 本当はリコリスとしてずっとドロシーの作品を描いていたい。即売会だって行きたいし、出版社だって大きくしたい。

 でも私は何よりオズワルド様と居たいのだ。そのために今まで努力してきた。

「私はオズワルド様と居たいのです。王太子妃が平民のように自由に行動することはできません」

 そういうとオズワルド様がまた悲しそうな顔をした。そんな顔しないで欲しい。

「メラニア、きっと君がそう思っても、民が君を離してくれないよ。僕はそう思う」

「そうでしょうか?きっとすぐに忘れ去られてしまうと思います」

 オズワルド様は苦笑すると私のこめかみに口付けをした。

「民がそんなに薄情だと、僕は思いたくないね」

 そう言って彼は私の肩に頭を乗せて頬擦りしていた。なんだか慰めてくれているようで、私はまた泣きたくなった。

 

 

 

 本日私はカリア室長の所にお願いをしに来ていた。

 花姫選考会の時に必要なものを作ってもらえないかと思っているのだ。

「エアブラシですか?」

「はい、絵を描く時に使う極小の霧吹きを作っていただきたいのです」

 説明してもいまいちよく分からないようで、私はエアブラシの構造を紙に書いて説明することになった。

 エアブラシを用いた細密な絵は前世の私の得意分野だった。使い方によっては写真のような絵を書けるのだ。どれくらい細密な絵が描けるか知りたい人はエアブラシアートで画像検索してみて欲しい。

 私は花姫選考会の芸術の審査で、どうしてもエアブラシを使いたかった。

「無理そうでしょうか?」

 図面を見て唸るカリア室長に不安になってしまった。

「いえ、出来ると思います。問題は何処まで細くできるかですね。メラニア様が求める太さにするにはどうしたらいいのか悩んでいたのです」

「では太めのものから制作してみてくれますか。できる限りで構いませんので、細くできるだけ細くしてください」

 私はカリア室長にお願いすると、上機嫌で塔を出た。

 久しぶりにエアブラシで絵を描けるのが嬉しい。前世では気にいってそればかり使っていた時期があったものだった。

 これで花姫選考会も乗り越えられる。今までにない画風で審査員たちの度肝を抜いてやるのだ。

 

 

 

 それから私はドロシーの作品を漫画化するのに熱中した。もう描けなくなるかもしれないのだ。今のうちに描いておきたい。

 私はこれまでのドロシーの作品を全て漫画にしてハリーに渡した。

 あまりの作業量に正直死ぬかと思った。やつれている私を見てハリーが悲鳴をあげていた。

「選考会前に何やってるんですか!早く帰って休んでください!出版までの作業はこっちでやっておきますから」

 

 そうして無事出版された漫画はまたも大ヒットだったが、あまりの刊行ペースに花姫選考会は大丈夫なのかと心配されてしまった。

 大量の心配の手紙が出版社に届いたらしい。申し訳ない。

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