11.花の楽園
十二歳になって私はやっと妃教育の全過程を終了することが出来た。花姫選考会に間に合ってよかった。
しかし、そうなるとオズワルド様と会える日が減ってしまう。
十四歳になったオズワルド様は子供らしさが抜けて格好良くなってきていて、私の思いもつのるばかりだ。
私はしょんぼりとしながらオズワルド様に寂しいと訴えた。
「僕も寂しいよ、メラニア。週に一度は王宮にきて、一緒にお茶を飲んで欲しいな」
オズワルド様が寂しげに言う。私はそれに食いついた。
「もちろん、オズワルド様がそう思ってくださるなら、私はいつでも参りますわ!」
「良かった。では毎週末の午後は空けておくよ。気をつけておいで」
私は天にも昇る気持ちになった。毎週オズワルド様に会えるのだ。こんなに嬉しいことは無い。私はオズワルド様の作ってくれたお菓子を食べながら有頂天になった。
「出版社の方は順調かい?」
「ええ、今後妃教育も終わって時間もできますし、もっと色々なイベントを開催しようと思っていますの」
具体的には、作品を舞台にした体感型イベントを企画している。リアル脱出ゲームやミニゲームのあるスタンプラリーのようなものだ。
カフェとコラボしてキャラクターイメージの飲み物など扱うのもいいかなと思っている。
構想を話すと、それは楽しそうだねと笑ってくれた。
またオズワルド様に褒めて貰えるように頑張ろう。
出版社に行くと、ハリーが待ち構えていた。
「またオリジナル漫画を描くつもりは無いですか?」
「ありません!」
元気に返事をするとハリーさんが項垂れた。
「またリコリスのオリジナル漫画が読みたいと、問い合わせが殺到しているんですよ。何とかお願いできませんか?」
とは言っても、私はストーリーを考えるのが本気で苦手である。
仕方が無いので禁断のパクリをまたやることにした。
「分かりました、描きましょう!」
「ありがとうございます!」
ハリーさんは本当に嬉しそうだった。相当来てたのかな、嘆願書。
私は家に帰って思い出す。実は『花の楽園』はシリーズで三本出ている。一作目が『花の楽園』私が悪役令嬢の作品である。これは一番オーソドックスな展開で、高慢ちきな悪役令嬢が最後に断罪されて終わる。
二作目が『花の狂宴』で、悪役令嬢の居ないミステリー風味の作品だ。攻略対象者の秘密を解き明かしていくタイプの乙女ゲームである。
そして三作目が『花の黎明』で、なんの取り柄もないヒロインが、外ヅラの物凄くいいハイスペック悪役令嬢に勝とうと頑張る乙女ゲームだ。かなり攻略難易度の高いやり込み型で、前のシリーズと仕様が違いすぎると散々叩かれた作品である。
どれも花姫選考会を舞台にしている作品だ。
今回は二作目の花の狂宴を漫画化しようと思う。前回同様名前や設定は少しだけ変えて描いてゆく。ちょっとホラーチックな展開もあるので描いていて楽しかった。
書き上がった原稿をハリーに見てもらう。また花姫ですかと言われてしまった。前回と方向性が違うからいいじゃないか。
こうして花の狂宴は出版されることになった。リコリスの最新作ということで飛ぶように売れた。
内容が花姫だったからか、およそ二年後に行われる花姫選考会のことも話題になった。平民は選考会が終わるまで候補のことを知らされることはないので、選考会が終わって初めて花姫のことを知るのだ。
選考会を見てみたいという声が多数上がった。
「申し訳ありませんわ。私のせいで……」
私はオズワルド様に平謝りしていた。私の漫画のせいで花姫選考会の内容が見たいと嘆願書が殺到しているらしい。
「メラニアが悪いわけじゃないよ、民が何かを望むのは悪いことではないだろう?」
オズワルド様は優しい、今も落ち込む私の頭を撫でてくれる。私の隣に腰掛けた彼は私を優しく抱きしめてくれた。
そういえば何故か今日のお茶会から場所が庭園ではなくオズワルド様の私室になった。ロングソファに二人で腰かけるのもなかなか新鮮でいい。
おっとこんなことを考えている場合じゃない。私は何としてもこの問題を解決に導かなければならないのだ。
「流石に大衆の前で選考会をする訳には行かないからね。警備の問題がある。こればかりは無理と言うしかない」
ため息をつくオズワルド様を横目に、私は知恵を絞り出して考えた。
「オズワルド様、魔道具技師の方にお願いできないでしょうか?」
そうだ、この世界には魔道具技師が居る。カメラだってあるのだ。ビデオカメラを作ることも可能なのではないだろうか。
私は構想を話した。ビデオカメラとモニターを設置し、民には撮影後編集された映像を見てもらえば良いのではないか。大きな広場には
巨大モニターを、中規模な広場には相応の大きさのモニターを多数設置し、出店も許可して祭りのようにしてしまうのである。
初期費用はバカみたいにかかるだろうが、その分経済効果も大きいし、いくつかの大都市に設置することで王室が民にとってより身近なものになるであろう。
普段は民に役立つ情報や音楽などを流せばいいし、お金をとってCMのようなものを作って放映してもいい。
私は思いつく限りの構想を話した。オズワルド様はその話を真剣に聞いていた。
私たちはその日の内に城専属の魔道具技師に会いに行くことにした。構想が実現可能かどうか確かめるためだ。
魔道具技師が働いている塔に入ると、技術者たちが総出で出迎えてくれた。意外と沢山いるようで驚いてしまった。その中から赤毛の人物が顔を出す。彼はカリア室長というらしい。ここの総責任者だ。
なんと彼はカメラの発明者なのだそうだ。これは話し合いに期待ができそうだ。
彼に構想を話すと驚いたような顔をした。
訳を聞くと、映像を残す機能のある魔道具は既に完成間近だったらしい。彼が個人的に開発していたもので、完成したら方々に売り込む予定だったとか。渡りに船とはこの事である。
私は構想の中に実現不可能なことは無いか問いかけた。技術的には十分に再現可能で、花姫選考会に間に合わせることも可能だろうということだった。やったね。
「しかしこれをお二方が考えたのですか?素晴らしい発想力ですね」
「考えたのは我が婚約者だよ、僕は付き添いで来ただけだ」
そうですかと、カリア室長は目を輝かせて私を見る。
「我々はいつでも貴女を歓迎します。メラニア嬢」
なんだか認められたらしい。魔道具制作は楽しそうだし、また来られるのは嬉しいな。
オズワルド様はすぐ陛下に通して国家プロジェクトとして運営するべきだと言った。そして陛下に会いに行くことになったのだった。
久しぶりに会った陛下は相変わらず美しかった。オズワルド様も将来はこうなるのだろうかとワクワクする。
私たちのプレゼンテーションを聞いた陛下は面白そうな顔をする。
「なるほど、選考会だけでなく国の行事や、有事の際の情報拡散にも使えるわけだ。普段は企業に時間制で貸し出して金を得ることも出来ると。素晴らしい思いつきだな。流石今をときめくハリー出版の立役者だ」
陛下は拍手してくれた。玉座から立ち上がり下に降りてくる。
「ではこの件に関する細かな調整は王太子とその婚約者に任せるとしようか、頑張りなさい」
陛下は私たちの頭を撫でた。初めて王太子の婚約者として仕事を任された。決して失敗できない。
花姫選考会までにこの構想を確実に現実のものにしなくては。
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