10.念願の即売会
今日は念願の同人即売会の日である。
私たちはあの後早速即売会の開催を告知した。ドタキャンを防ぐため高めの場所代を前払いで払ってもらうようにしたのだが、かなりの参加申請があった。急遽会場を大きなものに変更したほどだ。
因みに会場は我が家の持っている大ホールである。即売会会場にしては天井が高すぎて、コミケを思い出した。開放感抜群である。
せっかくなので更衣室も用意してキャラクターのコスプレもアリにした。コスプレという概念がこの国には存在しないので、ちょっと説明が大変だった。
私は今日は過去ドロシー作品のアメリアという幼女キャラのコスプレをしている。ドロシーが私をモデルに作ったキャラクターなので、私と同じピンクブロンドの髪と緑の瞳をしている。つまり服を着替えるだけで完コスである。そのキャラもお嬢様で護衛を連れている設定なので、家の騎士の中からノリの良さそうなのを選んでコスプレで護衛させる事にした。そして腕にはオーナーと書かれたスタッフ腕章をつける。
実はハリー出版のオーナーが貴族令嬢(幼女)であるのは有名な話だ。うちの作家が小説のあとがきによく書くからである。オーナーが幼女で驚いたと。ドロシーに至ってはアメリアのモデルはオーナーであると公言している。社内ではなんだかマスコット扱いされている気がするのは気のせいではないだろう。
私は早速会場へと向かった。出品者は準備のために一時間前から会場入りできる。もうすぐその時間だ。会場前の門には既に出品者たちが集まっていた。その横を侯爵家の馬車で通り抜ける。窓から手を振りながら会場入りすると、歓声が上がった。アイドルになった気分だ。私の連れてきたコスプレ護衛さんが気を利かせて、お嬢様が通ります道をお空けくださいなんて言うものだから余計に周囲が騒がしくなった。護衛さんグッジョブ。特別ボーナスを増額しよう。
出品者さん達も続々会場入りして来て私はテンションが上がる。
準備している出品者さん達の横を巡回と称して回るのが楽しかった。素晴らしい作品を見つけては出品者さんに声をかけてゆく。勿論王妃教育で鍛えた優雅さは忘れない。コスプレしているとはいえ私は未来の王子妃なのである。周囲から本物のアメリアだというザワザワ声が聞こえる。
一般参加者が入場する少し前、私はステージに立って挨拶する。
するとまた歓声が上がった。
「出品者の皆様おはようございます。私はハリー出版オーナーのメラニア・ローズでございます。本日は私共の企画にご参加下さってありがとうございます。もうすぐ一般参加者の入場が始まりますので、ご準備のほどよろしくお願いいたします。節度を守り、楽しい時間を過ごしましょう」
私が渾身のカーテシーをすると会場が湧いた。
いよいよ即売会スタートである。
入場者の数は予想を遥かに上回っていた。入場は有料なのにも関わらずもの凄い人だ。私はステージ上の椅子に座って、みんなに優雅に手を振りながら会場を監視していた。トラブルがある度にその場所に警備員を派遣する。人波が落ち着いてきた頃、私はコスプレゾーンに顔を出すことにした。
かなりクオリティーの高いコスプレイヤー集団を見つけてしまったのである。しかも同じ作品なのにアメリアレイヤーは居ない。混ざるチャンスだ。私は護衛にカメラを持たせ、その場に移動した。因みにカメラは魔道具の中でもかなり高額である。高位貴族しか買えないだろう。
私はコスプレイヤーたちに近づいてゆく、その度にかなりの歓声が上がった。目当てのレイヤーさんに声をかけると、彼女達に大興奮で握手を求められた。一緒に写真に写ってくれませんかとお願いすると、快く承諾してくれた。私はここでもう一つお願いをする。撮影した写真をこの場で販売させてほしいとお願いしたのだ。彼女たちはそれも快諾してくれた。
私はそうして色々なレイヤーさんと写真を撮った。そしてその傍から写真を販売してゆく。被写体さんには決まった額を支払った。
最後にコスプレイヤーさん全員集合の写真を撮らせてもらって大満足である。
コスプレイヤーさんの頼みで私一人の写真も撮って販売したらものすごく売れた。まあ、私モデルのキャラだからほぼ本人だしね。
他にもクオリティーの高いレイヤーさんにソロ写真をお願いしてコスプレゾーンのお楽しみは終了である。
私がホクホク顔をしていると、なんとオズワルド様がこちらに手を振っていた。後ろには側近たちもいる。私は急いで彼らに駆け寄る。
「すごいねメラニア、こんなに混雑してるなんて思わなかったよ。頑張ったね」
オズワルド様が頭を撫でてくれる。私は満面の笑みでそれに応じた。
周囲がすごくざわついた気がするが、気にしない。
「アメリアのコスプレ似合ってるよ、僕も写真を買わせてもらうね」
「ありがとうございます。みなさんも来てくださって嬉しいですわ」
私たちはしばらく会話をすると別れた。
「あの、さっきの方々はお友達ですか?」
コスプレイヤーさんの一人が話しかけてくる。
「ええ、私の婚約者のオズワルド・メイプル王太子殿下と、その側近の方々ですわ」
そう言った瞬間の周りのざわめきは凄かった。私たちの婚約は貴族内でしか周知されていないから当然だろう。
「じゃあオーナーが次期王妃になるんですか!?」
「そうなりますわね」
周囲から謎の悲鳴が上がる。どちらかと言うと嬉しそうな感じなので良しとしよう。
これでお前なんか王妃にふさわしくないと言われたら泣くかもしれない。
私はコスプレイヤーゾーンから離れ、少し買い物をする事にした。午後からはドロシーとの対談がある予定なので、今のうちだ。
私が歩く度に道が割れてゆく、いきなり現れてごめんよ。でもお買い物したいんだ。私はイラストや漫画を扱っている人達の所へ行って買い物した。戦利品が大量でホクホクである。イラストや漫画を扱っている人で上手い人には出版社に勧誘することも忘れない。
服やカバン、アクセサリーなどを扱っている店では、結構な額を使ってしまった。アメリアイメージの作品は総じて可愛かったのだ。髪がピンクブロンドだからかピンクの作品が多かった。
最後に小説のコーナーに行くと、うちの専属小説家が書いたドロシーの小説同人誌が飛ぶように売れていた。バカみたいな冊数刷っておいて良かった。もしかしたら売り切れも有り得るかもしれない。
そしてドロシーとの対談の時間がやって来た。ステージで二人でこれまでの事を振り返る。私が出版社のオーナーになったのは五歳の時だと言ったら会場がどよめいた。
「娯楽的な小説が読みたかったので、今の婚約者に愚痴をこぼしたら、出版社を立ち上げたらどうかと言われましたの。それを父に相談したら、ちょうどハリー出版が資金繰りに困っているとの事だったので出資してオーナーになりました。今があるのは婚約者と私の提案を馬鹿にせずに聞いてくれたハリーのおかげですわね」
「最初にあった時は驚きました。五歳くらいの子供が当然のように出版業界の未来について語るんですから。ハリーさんがメラニア様は天才だとしきりに褒めるのが分かります。私もオトメンを書いて欲しいと言われた時は、メラニア様の未来構想に脱帽しました」
そんな話をして、対談から質問コーナーに移ることになった。
「あの、リコリス様は居ないんですか」
指名した子が緊張しながら質問する。
「リコリスなら朝からずっと会場にいますよ」
ドロシーの爆弾発言に会場がざわめく。みんな目をキョロキョロさせている。
「腕章をつけている中に居るので頑張って探してみて下さいね」
なんてこと言うんですかドロシーさん。うちのスタッフはみんな腕章をつけているから見つからないと思うけど、もし聞かれたらどう返せばいいんだ。というかうちのスタッフも困惑している。リコリスの正体をを知っているのはハリーとドロシーだけだ。彼らは臨時職員の中にリコリスがいると思うだろう。
「私はそろそろリコリスの正体を明かしていいと思うんです。メラニア様はどう思われますか?」
「いや……まだ早いかと」
私はそう返すしか無かった。
色々なイレギュラーはあったが、即売会は大成功に終わった。今後も、今度はほかの作家でも即売会を開催しようと思う。
楽しみすぎてどうにかなりそうだ。これから同人活動が流行ってほしい。
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