「第三話」初配信スタート
どれくらい走っただろうか、町の中を夢中で走っている内に、ボクは目的地の近くにまで来てしまっていた。
「はぁ、はぁ。……くそっ」
拒絶されて、改めて胸がキュッと締め付けられるような感じに襲われた。認めてほしかったのに、頑張ってって背中を押してほしかったのに。でも考えてみればそれは当然で、ボクのほうが間違っているということは誰から見ても明確であった。
──それでも、夢を追いたい。お母さんの拒絶と叫びは、寧ろボクの決意をより一層固く、それでいてすべてを貫く槍の如き一刀の如く仕上がった。故にボクが取る行動は一つである、家出だ。
(手元にあるのが諭吉7枚、野口が9枚……500円玉は4枚、か)
小遣いをかき集めて財布に詰め込みはしたが、それでも全然足りない。マトモな宿を取るのであれば一週間も持たないであろう……それを打開するためには、方法は一つしか無い。
ダンジョン配信者としての夢を、掴み取るんだ。
「あっ、あの……すみません!」
ボクは取り立てほやほやの免許証を見せ、ダンジョンの入口の前に立つ警備員に言った。
「ダンジョン配信者、雨宮蒼井です!」
やけに畏まった覇気に気圧され、警備員は慌てて入り口から退いた。ダンジョンの奥は松明が等間隔に置かれてはいるものの、その奥は薄暗く恐ろしかった。
(……お父さん、今行くからね)
ボクがドローンカメラの電源を入れると、それはふわりふわりと宙に浮き、ボクを撮影し始めた。深呼吸、更に深呼吸……意を決して、笑顔!
「皆さん初めまして! ボクはアオイって言います! 早速ですが……今日は初っ端からダンジョン配信です! 対よろ!」
こうして、ボクのダンジョン配信者としての初配信が始まった。