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第四十一話

 ボギーは片手でレイナの首を抱え込むと、もう片方の手でレイナの頭に銃を押し付けた。辺りから悲鳴が上がり、イートインコーナーは大騒ぎになる。その場にいた数人の警官が銃を抜き、ボギーに向ける。

 その瞬間、パンパン、という乾いた音が数発。


「きゃ~!」

 あちこちから悲鳴が上がった。

 銃を撃ったのはボギー。

 見ると、警官たちが撃たれて血を流している。一瞬の出来事だ。そしてその銃口は、すぐにレイナに戻された。


「レイナさん!」

「レイナ!」

 クララとラ・ドーンが叫ぶが、一般人の悲鳴でかき消されてしまう。ボギーが立っているのはイートインコーナーの入り口付近。カフェ内にいる人間は、外に出たくても出られない状態だった。

 と、そこに二階からサカキとカルロが走ってくるのが見える。目に映る光景に、信じられない思いを持ちながら、カルロが銃を取り出した。

「本当に生きてやがる」

 つい、口をついて出る。


「ボギー! どういうトリックを使って生き返ったかは知らんが、今、お前は完全に包囲されている! 今すぐ銃を置き、その子を放すんだ!」

 カルロが大きな声で言う。

 ボギーはフッと笑みを浮かべると、レイナを連れたまま警察署の正面玄関に向かって歩き始める。

 受付にいた警官も、上の階から降りてきた刑事たちも、一様に銃口をボギーに向けている。一触即発状態だ。だが、銃口を向けられているボギーは、落ち着き払った態度である。


「おいおい、まさか人質もろともハチの巣にする気じゃないだろうな? ハッ、そんなこと出来やしないよなぁ?」

 余裕綽々である。

「俺は外に出るぜ。いいか、お前たちが一歩でも動けば、この嬢ちゃんの頭に一発撃ちこむぞ」

 グリ、と銃口を押し付ける。


 脅しではないと、この場にいる全員が分かっている。相手は伝説の殺し屋なのだ。今更人質の一人や二人殺そうと、何とも思うまい。


「くそっ」

 カルロが小さな声で言い、唇をかみしめた。

「全員そこを動くなよ! いいなっ?」

 ボギーが自信満々に言い放ち、レイナを引きずるようにして、出口に向かう。警官も、刑事も、どう対処していいかわからずお互いの顔を見遣っていた。下手に動けば人質の命が危ないのだ。


 レイナはカルロに羽交い絞めにされながら、さしたる抵抗もせず大人しくしていた。騒いで暴れれば撃たれるとわかっていたし、なにより……


「おい、どうなってるんだ」

 カルロの背後ろから、声。デルディオが騒ぎを聞きつけ、取調室から降りてきたのだ。

「見ての通りだ。手も足も出せん」

 前を向いたまま、答える。

「は? どういうことだよこれはっ?」

「俺にもわからん。サカキと話してたらミハラが来て、ボギーにやられた、と」

「はぁ? んで、サカキさんは?」

 デルディオの言葉に、思わず肩を揺らす。サカキ? さっきまでそこにいた。一緒に階段を下りてきたのだから。


「……そこにいない……のか?」

 いつの間にいなくなっていたのか、全く気付かなかった。というか、嫌な予感しかしないのだが。


「お前ら、手にしてる銃から弾抜いて床に落とせ! 今すぐだ!」

 ボギーが警官たちを促す。その場にいる警察関係者が一斉にカルロを見た。カルロは大きく頷くと、言われた通りに手にしていた銃から弾を抜き、床に落としてみせた。

「おい、カルロッ」

 後ろでデルディオが囁くが、

「ダメだ。人質の命が優先だ」

 と答える。


 カルロに(なら)って他の警官や刑事たちも同じように銃を床に落とす。


「ボギーはどうせ人質を助ける気なんか」

「いいから従え」

 有無を言わせぬカルロの言葉に、デルディオも従う。

「よぉし、いい子だ。そのまま動くなよ?」

 ボギーはニヤリと笑うと、レイナを連れたまま外へ向かう。正面玄関には数台の警察車両が停まっていたが、車のタイヤを順番に撃ち抜いていく。残った一台にレイナを押し込むと、

「車を出せ」

 と、銃を突きつけた。

「はーい」

 伝説の殺し屋相手に間の抜けた返事だが、今は言う通りに動くしかない。大丈夫、きっともうすぐだ。


 レイナはふぅ、と息を吐き出し、車を発進させる。バックミラーには、警察署から飛び出してきたカルロたちが見えた。が、残りの車はすべてタイヤを撃ち抜かれていて、すぐには動けないだろう。

 慌てずに前を向き、視線を移すと……いた!


「……なんだ?」

 道路の真ん中で仁王立ちをしているのはサカキ。

「社長!」

 レイナが声を上げる。

「チッ、邪魔だ!」

 ボギーが窓から身を乗り出しサカキに銃口を向ける。


 パン! という乾いた音の後に続く小さな呻き声。レイナがブレーキを踏む、キキーッという音と、軽くドリフトする車。


「……はぁ」

 ぎゅっと目を閉じていたレイナがゆっくりと目を開く。目の前には、サカキが立っている。轢いてない!

「社長~!」

 車から飛び出し、サカキに抱きつく。

「レイナ、無事かっ?」

「はいっ」


 本当は怖かった。銃口を向けられ、このまま死ぬかもしれないと。でもレイナは見ていた。二階から降りてきたサカキは、状況を一目見た後、その場を立ち去ったのだ。サカキだけではない。ラ・ドーンもまた、気付かれないよう騒ぎに紛れて厨房の奥へと入っていくのが見えた。


「レイナぁぁ! 大丈夫っ? 何処も痛くなぁいっ?」

 走り寄ってくるラ・ドーンの手には銃が握られている。イートインコーナーで撃たれた警官のものを、ちゃっかり拝借してきたのだ。

 そしてボギーは、

「くっ」

 肩を撃ち抜かれ血を流している。

 手にしていた銃は車外に放り出されていた。


「お前ら、なんなんだっ」

 突然現れたわけのわからない一団に、()()()()()()()()()()()ボギー。


「よくぞ聞いてくれました!」

 レイナが意気揚々に、声を上げる。


「我々は悪の大結社、デオドルラヴィーセウルコーポレーション! そして私は総帥、ナイトキース!」

 サカキが名乗る。


「私はマ・ド・ン・ナ♡」

 ラ・ドーンがポージングを決める。


「そして私はリンダ! 挑む相手が悪かったようね!」


 三人は予め決まっていたかのように、ボギーの前に立ちはだかる。

 サカキを中心にジャケ写ばりの決め顔を向け、親指を突き出した。

 最高にカッコよく決まった瞬間である。

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