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第三十八話

 走り去ったレイナはさておき、サカキたちはシュンの決意を確認し、その足でマクレ三番都市警察署へと向かうこととなった。

 クララの証言もあり、自主的に出頭してきたのだ。酷い仕打ちを受けることはないだろうと思いたかった。

 前科に関しては、また別だが。


 警察署に着くと、サカキは近くの警官に声を掛けた。

「すまないがカルロ・ベルを呼んでくれないか?」

「カルロさんですか。今は立て込んでるんじゃないかなぁ?」

 上の階を見ながら、呟く。

「何かあったのぉ?」

 ラ・ドーンがサカキの後ろからにゅっと顔を出す。

「いや、まぁ、ちょっと大変なことに、ええ」

 モゴモゴと言葉を濁す。


「ええい、埒が明かんな。仕方ない、ちょっと行ってくる。ラ・ドーンはクララとヴィグを連れて、食堂で待っててくれ。シュンは一緒に来い」

 サカキがシュンだけを連れ、勝手知ったる署内の二階へと案内する。

「シュンさん、行ってらっしゃい」

 クララがシュンに向かって声を掛ける。シュンは、はにかみながら黙って頷いた。


(チッ、デレデレしやがってっ)


 とにかく心が狭いサカキである。

「ほれ、行くぞっ」

 シュンの腕を引っ張り、階段を上がる。二階はガラス張りの刑事課エリア。捜査第一課は何故かガランとしている。全員総出でボギーの取り調べでもやっているというのか?

「どこにいるんだ、あいつは」


*****


 被疑者死亡の一報を聞き、二人はすぐに確認に向かった。監察医がファイルを片手にこちらを見た。


「で?」

 カルロが促す。

 ベテランの監察医であるマキオ・スミダが首を振る。

「今のところなにも。ただ、心臓が止まった、ってことしかわからんな」

「そうか」

 カルロが深く息を吐き出す。


「なぁ、確かめてもいいか?」

 隣のデルディオがボギーを指し、言った。

「私を疑うとは、随分偉くなったもんだな、デルディオ」

 あからさまに嫌そうな顔で、マキオ。

「いや、だって、」

「まぁ、気持ちはわかるさ。せっかく逮捕した大物があっけなくホトケになっちまったら、そりゃショックだろうよ。好きなだけ確認してくれ」

 手をピラピラ振りながら、マキオはデスクへと向かった。


 デルディオはチラ、とカルロの顔を見ると、ボギーの手を取った。脈を診る。なるほど、完全に事切れているようだ。


「マジかよ……」

 はぁ、と息を吐くデルディオ。


「蘇生は?」

 カルロがマキオの背に向かって言った。

「勿論、やったさ。無駄だったがね」

「そうか……」

 逮捕をきっかけに心臓発作、というのは、ない話ではない。いわゆるショック死に似たやつだ。


「検死は?」

「書類が通り次第、すぐだ」

 お役所仕事、とはよく言うが、勝手に被疑者を切り裂くことは出来ない。とはいえ、最速で手続しているだろうから、今日中には何らかの答えが出るはずである。


「邪魔したな、マキオ」

 カルロは片手を上げると、デルディオを促して霊安室を出た。やはりパッと見に外傷はない。検視結果を待たなければ死因の特定は無理だろう。ボギーから話が聞けなくなるのは痛いが、被疑者死亡での書類送検は致し方ないことだ。


「あ、カルロさん!」

 息を切らしやってきたのは若いミハラという刑事。

「お客さん、来てますよ」

「客?」

「サカキさんです」

「ああ」

 ちょうどよかった。確認したいこともあったのだ。

「どこに?」

「オフィスにいます」

「わかった」

 カルロは急ぎ足でオフィスへと向かった。


 その後ろ姿を見送り、

「で、どうでした?」

 ミハラが興味津々といった顔でデルディオに訊ねる。

「やっぱ死んでた」

「うわぁ、そうなんですかぁ……」

 がっかりした声で、ミハラ。彼の反応は署員の総意だ。ボギーは未解決事件を多数抱えていた。奴の逮捕でどれだけの情報が得られるかを考えたら、今回の損失は途方もないものとなるだろう。


「お前も確かめて来いよ」

「え? いいんですかっ?」

 霊安室に足を踏み入れる機会などあまりない。ましてや凶悪犯の最期を見届けることなど、もっと稀なことだ。

「ちょっとだけ、見てこようかな……」

「ああ、社会勉強だ。行ってこい」

 ハハ、とデルディオが笑って肩を叩いた。


「俺は上に戻る」

「はいっ!」

 ミハラは大きく頷くと、デルディオを見送り、霊安室の扉を叩いた。

「失礼します! お忙しい中すみませんっ」

 元気いっぱいに挨拶をし、中へ。

 薄暗い部屋に似つかわしくない、軽い足取りで、奥へ。


 ベテラン監察医、マキオ・スミダは若手に厳しいことでも有名だった。緊張気味に声を掛ける。

「あのぅ、ミハラですが、ちょっとだけ、よろしいでしょうか」

 そーっと奥の部屋を覗く。マキオはこちらに背を向ける形で座っていた。よく見ると、小刻みに肩が震えているのがわかる。

 確かにここは他の部屋より寒い。だが、震えるほど寒くはないと思うのだが……。


「デルディオさんに許可は取ったのですが、ホトケさんの確認をさせていただきたくて、ですね……」

 マキオは一向に振り向こうともしない。さすがになにかおかしいと感じたミハラが、ゆっくりと懐の銃に手を伸ばした。

 その微妙な「間」に気付いたのか、マキオがパッと振り返る。

「いかん!」

 手を伸ばし、なにかを制止する仕草を取る。


 ガンッ


 頭に一発の衝撃。


 何が起きたか確認することも出来ず、ミハラはそこで意識を手放したのだった。

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