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第二十三話

 クララは殺風景な部屋の中で二日目の夜を迎えようとしていた。


 食事も、とても美味しいとは言い難いが、きちんと三度運ばれてきており、問題があるとすればシャワーを浴びられないことと、退屈なことくらいだった。


「お父さん、心配してるだろうな」

 窓の向こうの夕日を眺めながら、ひとりごちる。ボギーが『お前の親父には連絡した』と言っていたから、クララが誘拐されたことは承知しているはずである。


「入るぜ」

 と、扉の方から声。顔をだしたのはボギーではなく、チンピラのハルである。

「ハルさん」

 クララの顔がほころぶ。……おかしなものだが、クララはハルが嫌いではなかった。なんとかこの人の力になりたいと思っているほどだ。ハルもハルで、クララに対しての感情は、まるっきりのマイナスというわけではなかった。だからこんな風に、暇があると顔を出すようにしていた。


「ほれ、おやつだ」

 放り投げたのはりんごだった。クララは上手に空中で受け取り、手の平で包み込んだ。りんごを頬にあて匂いを嗅ぐと、甘い香り。

「わぁ、いい匂い」

 頬すり寄せ、目を細める。

 ……天使の微笑みである。


 ドキッ


 ハルの耳がほんのりリンゴ色に染まる。……ロリコンが今一人、誕生しつつあった。


「ボギーさんはお仕事ですか?」

 リンゴを手の平に包み込んだまま、尋ねる。「お仕事」などと悠長なことを言っている場合ではないのだが、クララはそのへん、あまりよくわかっていない。ハルもハルで、クララの笑顔に動揺したのか、天井を見上げたまま妙な返答を返した。

「兄貴はご多忙だそうだ」

「……そうですか」

「……ああ」


 ハルは遠い昔、初恋の相手を思い出していた。クララとはまるで似ていない。だが、あのときの甘酸っぱい思いと、どこか似たような気持ちがするのである。


「……私……いつまでここにいられるんでしょうか?」

 唐突にクララが本題を持ち出す。そう。それを忘れてはいけない。自分は誘拐されていて、父親は脅迫されているのだ。

「それは……」

 言い淀む、ハル。自分は悪党なんだから。小娘一人にデレデレしている場合ではない。

「私、もう少しハルさんと一緒にいたいな」

(そうしたらこの人を救う手掛かりが見つかるかもしれないもの)

「えっ?」

「……あ、すいません、変なこと言って」

「あ、いや」

(十年くらいなら待ってもいいかも……)

「……俺も、あんたがもう少し側にいたらと思うぜ」

「え?」

「あっ、いや、その……」


 なにか行き違った勘違まま、照れる二人であった。


*****


 妙な「間」が二人を取り巻くそのころ、()()()()では準備が着々と進んでいたのだった。


「総帥、こっちは用意出来ましたけど、仕掛ける場所とか決めてあるんですかぁ?」

 レイナが超弱力小型爆弾片手に問う。あ、違う、リンダか。


 廃ビルに着いたものの、サカキ……いや、ナイトキースはマクレ警察へのメッセージカードの作成にかかりきりなのだ。

 作っておいたカードに直筆のサイン。

 このサインがなかなかうまく書けない。


「大体ぃ、どうして昨日のうちにやらないのよ、そんなことぉ。もぉ、時間ロスし・ま・く・りっ。予定がどんどん狂うじゃなぁい」

 ラ・ドーン……ではなく、マドンナも呆れ顔である。


「仕方ないだろうっ! 昨日は時間がなかったんだ!」

「じゃあ今日の午前中はぁ?」


 ヴィグとの買い物の事を知っていて、わざと聞いて来るあたり、リンダの嫉妬心が現われているといわずにはおれまい。とにかく、自分にだけ優しくして欲しいというのが、彼女の欲望なのだ。例え相手が養子縁組みをしたばかりの、十一歳のガキだとしても、なのである。


「うっ、ええいっ! 今終わらせるからも少し待っとれっ」

「やっだぁ。総帥ぃ、男のヒステリーって最低よぉ?」


 気が散る。

 二人は単に面白がっているだけなのだが、サカキはこだわりにこだわり抜いたカードを作るのに、全集中の構えだ。


「よし、これでいいだろう。ふふふふ、これを見つけた時のカルロの顔を思い浮かべると笑いが止まらんな!」

 ぐふふ、うひひとおかしな笑いを携えカードを眺める。


 廃ビルはシンと静まり返っていた。当然だ。人がいるような場所で爆破などしたら危ないのだから。


「よし。じゃあ早速始めるとしよう。まずは手始めに、ここと、ここ。それからここだな」

 サカキは現場仕事で培った知識を降る活用し、『もっとも安全であろう場所』に爆弾を仕掛けることにした。


「ああ、思い出すわぁ。私が総帥と知り合ったのも、こんな廃ビルだったのよねぇ」

 ラ・ドーンが懐かしそうに言った。

「ああ、日雇いの現場だっけ?」

「そうよぉ。シールズを辞めて仕事がなかった私は、仕方なく力仕事を始めたの。そんなときよぉ」

「シールズ?」

 レイナが聞き返す。

「シールズ、ってあの、外国のやつ?」

 グリーンシールズといえば、言わずと知れた大国の特殊部隊である。


「嘘でしょ?」

 レイナが半笑いで突っ込む。が、ラ・ドーンとサカキは至極真面目な顔で、

「本当よぉ」

「嘘じゃないぞ」

 とハモる。


「えええっ!? ラン、そんなことしてたのっ? てか、シールズと悪の大結社って対峙しちゃわないっ? いいの、それ?」

「あらぁ、シールズ出の悪者って結構いるじゃない。闇を抱えて悪に転身って、なんかよくなぁい?」

 目をキラキラさせて言う。

「……いいけどさ、別に」


「さ、仕事に掛かるぞ」

 サカキの一言で、三人は各自、超弱力小型爆弾の設置へ向かったのだった。

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