第98話 命の価値
階段から足音が聞こえてあたふたしていると牢屋の中の男が静かな声で言う。
「かく……れて……」
「で、でも……」
「大丈夫……だから……」
「わ、わかった……!!」
この人が何か酷い事をされないか少し不安だったけれど、ここで捕まってしまえばこの事を誰かに伝えることもできない。
ここは隠れてやり過ごす!!
先ほどルミナの目でこの場所に囚われている人達が何人いるのか、そしてどこの牢屋に人が入っていないのかもわかっている。
私は3人に空いている牢屋へ入るように言う。
「いやいや、これ向こうが灯り持ってたら見えるよ?」
「分かってる。ユウリ、水の魔法って使える?」
「え、うん?どうするの?」
炎と水の混合魔法に反射魔法というモノがある。
光の屈折を利用して魔法の膜で鏡が作れる。それを牢屋の格子とは対照の壁を背に内側の45度の鏡の魔法で覆う。
その中に入る事で向こうからはもう片方の牢屋内と同じ景色に見えるはず。
光を屈折させるから、むしろ灯りがあるからこそ使える手段だ。
「む、難しい……けどやってみる!」
「うん、できなかった時は4人で降りてきた奴を倒すよ」
「そっちの方が手っ取り早いけど……まあリゼルの時みたいに口の中に薬を仕込んでいたら面倒だしね……」
それに強さも分からない以上、できればここでやり過ごしたい。
ユウリの水魔法に合わせて炎魔法を使い、魔力を混合させる。人に魔力を合わせるのは大変だけど、それでもうまく魔力を感知できれば誰でもできる。
10秒程掛ったものの、魔法の展開に成功、これで向こうからは私達の姿は視えないはず。
「ホントにできた……?」
「できたよ……でも声は通るから喋らないで」
「……すご、反射魔法というかこれ、融合魔法だよね?高等技術も持ってるのね……」
「え……。う、うん……?」
ユウリも魔力を感知できるんだから凄く集中力を使えばできるはずだけど……。
もしかして私が想像している以上に難しいのかな?……今はこの魔法を維持することだけを考えよう。
階段を下りてきた何かが沢山牢屋のあるこの部屋に入る。
「誰だ!!上の魔法陣を解除した奴は!?」
あ、そういえば魔法陣を作った人なら解除されたり壊されたら気づくんだった……。
封印魔法なんて使わないから忘れていた。
ただ、ルミナの耳を使って分かっている事は、足音が1人分しかないという事。
つまり相手は1人……万が一の時は4人で戦う!!
「はぁ……なんで俺が1人で……」
魔法が解除されたのを知って1人で来たって所か……。
面倒くさそうにしているから、待って居ればすぐに帰ってくれるんじゃないかな?
そう考えていたんだけど、部屋に入ってきた人はすぐそこの牢屋の男に声を掛ける。それは先程私達が話していた人だった。
「おいお前、何か見たか?」
「い……いえ……」
「あ?聞こえねーよ!!」
部屋に入ってきた男が怒鳴るとビリビリと嫌な音が聞こえてくる。
私達は少し離れた牢屋に隠れているので様子を窺う事は出来ない……。
その音が聞こえた後、先ほどまで話していた男が一瞬だけ大きな声を上げた。
「~~~~~~ッ!!!!!!!!!!!」
一瞬の絶叫……断末魔が牢屋内に響き渡った。
「あ、やべ……死んだか?まあもうここは要らないらしいからどうでもいいが」
嘘……まさかそんな一瞬で殺すなんて……。
「あいつ……!!」
「黙ってショナ」
「フーリア……うっ……」
こんなに簡単に人の命を奪うなんて許せない。
ぶん殴ってやりたいけど……今ここを出るわけにはいかない……せめて次、この部屋に居る誰かに手を出しそうなときは出て行く!!
部屋に入ってきた怪しい男は私達の方へ近づいてきていた。
「うわ……臭いなぁ……とっととこんな施設焼いてしまえばいいのに……大体の研究は終わってるんだし」
研究……まあこんな所でやっている事なんてことなんてロクなモノじゃないのは分かる。
先ほど話していた男は剣士のような身体つきだったのに魔力を感じたし、もしかしたら……。
そんなことを考えていた時、部屋に入ってきた男が別の牢屋の囚人に話しかける。
「で、お前は何か見たか?」
「……」
「死にたいならすぐにでもさっきの奴と同じ目にあわせてやる」
「……せん」
「あ?」
「わかりま……せん」
「ふん……」
部屋に入ってきた怪しい男は冷淡な目でその囚人を見つめる。
イライラしているのがさっきから伝わってきて、今は別の牢屋の人へ怒りを向けている。
「あーあ!!なんでこの俺様がこんな場所で見張りなんてしなきゃいけねーんだよ!!!!次失態を犯したら殺すだと……?あの肌白ガリガリ男め……!!」
何の話をしているのかさっぱり分からないけど、その怒りのまま囚われている人を殺す勢いに見える。
止めないと……!!さすがに殺されると分かっていて放置はできない!!
しかし、飛び出す前に怪しい男は急に冷静になる。
「ま、いいや……むしろ殺した方がお前らからしたら楽だもんなぁ!!」
「……………………」
「睨むなよ。どうせもうすぐ終わる」
やっぱ何か企んでいるよね……?
囚人を殺す気が無いのならこのまま出て行く必要は無いように思える……だけど情報を聞き出すのは捕まえる方がいい。
悩ましい……そんなことを考えていたせいで怪しい男への警戒心を薄めていた。
その時――。
「で、どうしてそこの牢屋からすんごい殺意を感じるのかなぁ」
え……?
言われてみればなんだか凄く後ろがゾワゾワするような……?
後ろを振り返ると頑張って抑えていたんだろう……ショナが殺気を含んだ瞳で怪しい男を睨みつけ、剣を取り出して今にも斬りかかろうとしていた。
ショナのこんな顔を見たのは初めてだ……。
はっきり言ってフーリアよりも怖いかも!!
「出てこないならこの囚人を殺すぞ?」
止めないと……と判断した時には遅かった。
ショナは剣に雷を纏わせて反射魔法の膜を抜けてしまった!!
「やめろおおおおおおおおおおお!!」




