第93話 不穏な出来事
冒険者ギルド花園の支部リリィと星の欠片の支部アンタレスの抗争はリゼルの死によって収束していった。
ギルドマスターを失った星の欠片の一部の冒険者はほとんど捕らえる事に成功。
人数の多さもさることながらマスタージャスミンの魔法が解けてしまい、逃す要因になってしまった。
それでも星の欠片の支部アンタレスの上級冒険者をほとんど捕まえる事はできたし、リゼルが居なくなり、星の欠片の支部の1つが潰れた。
そして抗争の翌日、傷ついたジャスミンの街を復興させるために動ける花園の冒険者は瓦礫を移動させたり、一般人のメンタルケアなどそれぞれが得意な分野で頑張っている。
当然それには私達も含めれていて、そんな中……フーリアは瓦礫を移動させながらつぶやく。
「てかさ、私とルークはこの国の出身じゃないんだからこんなことをしなくても良くない?」
さすがに私は自分達だけ何もしないというのは気が引けるので復興の手伝いをするのは賛成だ。まあ私の場合はお茶を運んだり、水を温めたりするだけなんだけどね。
というのもあのルミナの力を使った後、手に力が入りにくくなって瓦礫を撤去する作業に参加ができない。
「フーリアはそんなこと言わないでよ!ルークだってなんかすごい疲れてるのに手伝ってくれてるんだから!」
「ふん……まあいいわ。ルークは大丈夫なの?」
珍しくフーリアが心配……してくれているわけじゃないか。
多分これは瓦礫撤去の作業を手伝えない理由を言えとかそう言うのだろう。
一応伝えたんだけどもう1回説明しておこう。
「ルミナの力を使った後、身体の感覚がなくなって最初は身動きすら取れなかった」
「アクアドルとの戦い後は大丈夫だったよね?」
「まあ……リゼルとの戦いでギリギリまで力を出し切ったからね……おかげで一日経ってようやく動けるようにはなったけど」
「ルミナ……の力だったんだよね?一体なんなのその子」
「あー」
女神様の贈り物だなんて言えないし、ここは知らないふりをしておこう……。実際この力が何なのかはそれ以上分からないわけだし。
「さぁ……?」
「そっかぁ~それって私もできるのかな!?」
「どうだろ……それはルミナに聞いて」
昨日の一件以来、私はルミナを連れ歩くようにした。
また同じような事があった時は力を使わせて欲しいし、何よりいつも私達が依頼で家を留守にするとき、ルミナは悲しい声で鳴いていた。
ルミナの力を知ったことでむしろ私達のすぐ近くに居る事の方が安全だろう。
この子はやっぱり魔物に見えるらしくて最初はギルドの人達も魔物だと驚いていた。
だけどルミナの可愛らしさにキャッキャッする女性陣が受け入れた事で今は誰も咎めたりしてこない。
ちなみにショナは力を使えないの?と聞いたんだけど、それに対してルミナは首を横に振った。
その様子を見たショナは肩を落としてガッカリしていた。
振っ協作業を見守っていると何に使うのか分からない大きくて綺麗な丸太を肩に乗せているエキナが通りかかる。
「確かにその狐は妙な力を持っている。敵に回せば恐ろしい……がお前達はもう我がギルドの仲間だ」
話を聞いていたみたい……。
「ということで私も撫でて良いだろうか」
「良いですけど……丸太を持ったままはちょっと」
「ふむ?危ないか……それもそうだな。まずは復興作業から、撫でるのはもうしばらく後にしよう。ルミナよ待って居てくれ!!」
「きゅぅぅ…………」
エキナの獲物を狩るような目にルミナは怖がっている。
そんな事にも気づかず、エキナは大きい丸太をギルドの扉のあった場所へ持っていく。
そっか大きな扉が壊れたからその材料かな?
それにしてもエキナの3倍くらい大きな丸太なんだけど……。
ジャスミンの街の復興作業は滞りなく進み、2週間近くかけて生活ができるくらいにはなった。
復興作業もほとんど終わり、後回しにしていた捕まえた星の欠片の冒険者から話を聞くため、私達は拘留所へやってきた。
エキナが拘留所の正面で腕を組みながら頭を押さえているマスタージャスミンへ声を掛ける。
「マスター尋問の件でやってきたのですが……」
「その予定だけど無くなりました」
「どういうことですか?」
「捕まえた者達の様子を見に来たら、彼らは死んでいた」
「……どうしてそんなことに?」
「それが良く分からないんです。毒を盛られた様子もなく、傷も無い。致命傷が一斉見当たらないのに心臓は動きを止めていた」
「毒でもないんですか……」
「えぇ……ただこの似たような症状を我々はこの目で見た事があります」
「というと……?」
「リゼルが亡くなった時と同じような状態だった……」
リゼルの遺体は誰も引き取る人が居ないのでギルドの医者が検視を行った。その結果、私の炎以外にも薬で身体に大きな負荷が掛かっていてほとんどそれが原因で最悪な結果を生んだという。
「もしかしたら彼らも薬を持っていたのかもしれない」
薬を持っていても拘留所へ入れられたらその時に回収されるはずだけど……口の中に入れていたら分からない。
もしそうだったら薬を飲んでここから出ようとしたけど魔法封じの鎖や剣を没収されているので力を振るう事ができず、薬の副作用で……。
どちらにしても何も聞くことができなかった。
「クソ……なんなんですか魔王教団とは!!」
「分かりませんが、ルエリアでは魔王教団が大暴れしたとか……」
「それはスイレンの子達に聞きました」
「ハーベスト帝国へ手を出し始めている……まあこの事はアルストロメリアを通じて国王に伝えているはずです」
私達にアルストロメリアへ行かせたのはそれが狙いだったのかもね。
「と、いうことで……あなた達にも少し手伝って欲しい」
「魔王教団の事ですか?」
「ええ……あの教団を放置できませんから」
「で、でも……私達は普通の冒険者なので」
「命を賭けろと言っているわけではないわ。ただ情報を得たら欲しいと言うだけ、その内容によってはこちらから報酬だって出します」
それならまあいいか……。
師匠の事も知りたいというのはあるし。そんな話の中にフーリアが入ってくる。
「それって……スイレンの実績にもなりますよね?」
「ああ……なるな」
「分かりました」
フーリアは乗り気なようだ。
まあ危険な事さえしなければそれでいい……ひとまずもう少しだけ戦いの疲れを癒しつつ、のんびりと冒険者をやっていこう。
2週間前の激戦なんて忘れてしまったかのように私達は平和な今を満喫するのだった。不穏な足音が聞こえて来るけれど……今はその緊張を解いてもいいよね。




