第90話 全力の炎
戦闘中に他の事を考えるという愚かな事をしていまい、すぐにピンチを迎えてしまう。リゼルの黒い魔力を纏った剣が私に触れる寸前――その間にユリカが飛び出してくる。
「お姉ちゃん危ない!!聖魔法!白百合の盾!!」
私とリゼルの間に魔法で作られた巨大な白い百合の花が現れる。
突然目の前に現れたそれにマスターリゼルは躊躇なく斬りかかる……が、その花を完全に切り伏せる事ができなかった。
無表情だけどおそらく困惑しているリゼルへ間髪入れずにリリィは炎の魔法が放つ。
それを見たリゼルは回避するため後ろへ飛ぶ、片足でギルドの床を蹴っただけで数十メートルも離れた。
リゼルは魔王教団から貰ったという薬を使って、この力を得た。何故か魔法まで使えるようになったみたいだし……。
しかもマスタージャスミンとエキナとの戦いで体力を消耗しているはずなのに圧倒的な速度で私の方へ距離を詰めてきた。
ユリカが居なければどうなっていた事か……。小さいからと甘く見ていたけれど、やっぱりギルドの冒険者なだけあって強いんだね。
「ユ、ユリカ……さんありがとう」
「どおいたしまして!後ユリカでいいよ!」
そんな強化されたリゼルの攻撃を簡単に防ぐユリカの防御魔法……。
やっぱりこの子は只者じゃなかったみたい。リリィの炎の魔法はあくまでけん制のため、あえて避けさせる事で距離を無理やり取らせた。
それなら――。
「実力は相当……リリィさんは戦えますか?」
「え、えぇ……というかギルドの戦える子達でやります」
「リリィさんは今ギルドで戦える冒険者で一番強い?」
「そうね、エキナさんの次には実力はあると思います」
「なるほど……」
さすがにマスタージャスミンが不在の時はサブマスターとして約目をこなしているだけある。エキナには及ばなくてもその次に強いならやれる。
私にはリゼル攻略の作戦があるからそれを伝えるためにリリィに近づく。
「それじゃあリリィさんはサポートをお願いしてもいいですか?」
「え、いや私が重役を担いますよ?こう言ってはなんですが、あなたでは今のマスターリゼルを相手にしても瞬殺です」
「はい、今の私なら確かにそうなります……だけど……ルミナ!!」
私の服の中に隠れていたルミナが姿を現す。
……私の着ている服はそこまで大きくなく、小動物を胸に隠せるほど大きくないんだけど……この子は一体どうなってるんだ。
ま、まあ……今はそんなことよりあの力をまたルミナに使ってもらう。
「ルミナ、あれ行ける?」
「きゅうぅん!!」
ルミナの身体が眩い光を放つ。そしてルミナは私の身体へ流れる。ほんと、どういう仕組みなのか分からないけれど……今はこれしか無い。
ルミナが身体の中に入ると同時に、身体の奥からまるで炎が溢れてくるかのように熱くなる。
と、思ったら私の頭に炎の狐の耳と尻尾が生えてきた。
最後の手段に置いておいても良かったんだけど隠す物でもないと思うし、何よりもう一度使えるか不安だったから。
失敗するかもという不安はあったけど、上手くいってよかった。
「何それ!?亜人だったのですか!?」
「新しく得た力……?だと思います」
「それでなんとかなるの?」
「自身はあります。アルストロメリアへ向かう際に――」
カプリコーンとの戦いの話をリリィにしようと思ったんだけど、そこへリゼルが突っ込んでくる。
話が長くて待っていられなくなったのか……まあこっちに作戦会議をさせる必要は向こうにはない。
「死ね!」
「縛り火っ!」
ルミナが混ざったこの身体だと別の新しい魔法が沢山使えるようになった。
元が回復か攻撃の種類を選べる炎の魔法しか使えなかったのに対して、相手を惑わす炎、そして今使っている縛る炎などが扱える。
炎に触れたリゼルの剣はその場で止まり、その「縛り火」に触れている細い剣に触れているリゼルの動きも封じる。
まだまだいける……!!
「焔纏い!!」
炎の身体強化魔法を使って、身体の強化と打撃への炎属性を追加する。それをリゼルのお腹へ向かって放つ。
「〜〜〜〜〜〜〜ッ!?」
リゼルの声にならない声がギルド内に響く、と同時にリゼルの身体をギルドの外へ追いやった。
凄い……これがルミナの力なの?
ずっと安全な所に置いておかないと……って冒険をする際には連れていかなかったんだけど……今後、その心配はないかもしれない。
「……まさか、リゼルを簡単に吹き飛ばすなんて」
「あ、はい……!どうですか、私がメインで攻撃を受け持つので、リリィさんやフーリア達はサポートをお願いしたいんです」
「ルークさんのその力は強力ですが、リゼルは仮にもギルドマスター……あの程度では……しかし私よりは可能性がある……か。……分かりました。新入りの子に負担は掛けられませんが、あなたはここに居る花園の冒険者の誰よりも強い……お願いします!」
どうやら信じてくれたみたい……ルミナの力がありきなのであまり嬉しくはないけれど、今はそう言う事を言っている場合じゃないからね!
重要な役割はちょっと胃が重たくなるけど、自分から言ったことなんだからやってやる!
たまにはフーリア達にいい所を見せないとね!!
「それじゃあ皆、付いてきて!!」
ギルドの外へ吹き飛んだリゼルを追って床を蹴り上げる。
さすがに身体強化もあってたったの一蹴りで凄まじいほど跳べる。あっという間にリゼルの所までたどり着く。
この力のコントロールが若干難しい……。
「貴様……その力はなんだ!?」
「私もよく分からない……」
「手札は明かさないという事か、まあいい。そんな力があっても俺には勝てないんだからなァ!!」
なんだか少しリゼルの様子がおかしい……さっきから最初会った時と大分口調が違うような……?
もう少し知的な話し方をしていたはずだけど、今のリゼルは暴力的な威圧感がある荒くれ冒険者みたい。私はこの違和感を知っている。
それは紛れもない私の師匠と同じ、魔導士と剣士の人格の入れ替わり。
師匠は魔法と剣を両方使えるんだけど、それは人格を変えるという特異体質で成し遂げている。
リゼルからはそれに似た雰囲気を感じる。
だけど私は臆さない……ここで必ず……!!
「私があなたを倒す!」
「できるものならやってみろ!!」
綺麗な街はボロボロでマスタージャスミンの魔法の効果も切れたせいで周りには花園の冒険者以外に星の欠片の冒険者も居た。
だけど、そう……きっと彼らはここにいてもほとんど無意味だろう。
この戦いに参加できる冒険者はいない……他は任せて、ここは私がなんとかしてやるんだから!!