第8話 再会と出会い
ガタガタと馬車に何時間も揺られながら首都エステリアへ向かう私と
メイドのアナ。
私は学校に入学するためにまずは試験を受けに、アナはその付き添いと言う感じだ。
試験と言っても何が来ても合格するつもりでいる。それなりに魔法も剣術も自信がある。
そんな私は今、ピンチに陥っていた。
「うぷぅっ……」
「お、お嬢様……もう少しで着きますから頑張ってください!」
「あわってるあよ(わかってるわよ)!」
どうやらこの身体は車酔い……というか馬車酔いするらしい。
と言っても少しの時間なら大丈夫だけど長時間にわたって乗り続けるのはダメだ。
フーリアと関わりがなくなってからは外に出る機会もなくなり、まさかこんな弱点があるなんて今まで気づかなかった。
そんな私の様子を見ていたメイドのアナは何故か笑っていた。
「お嬢様にもこんな弱点があったんですね」
「煽っでゆ(あおってる)?」
「いえいえ、むしろ逆ですよ。お嬢様はその若さで隙が無い、なんというか見せないようにしているような……だから初めて知られてお嬢様もまだ子供なんだなと」
「乗り物酔いは大人でもするけどね」
「そうですね。後、無理して平静を装わなくていいですよ」
「なんのごお(なんのこと)?」
「うふふ、ちょっと面白いですがこの時間もそろそろ終わりです」
「ん?」
「着きましたよ王都」
使用人のアナにそう言われて外を見るとレートの街よりも遥かに大きな王都エステリアが見えてきた。
目の前に現れた巨大な街を見て少し吐き気が収まった。
そういえば乗り物に乗っていて気持ち悪くなったら遠くを見ろとか言うからね。
そんな知恵があっても前世では乗り物酔いをしたことがなかったから忘れていた。
街が近づいてくる私達の居た街より大きくそして美しいその街並みをずっと眺めている。
するとあまりの人の多さにまた吐き気がする。
「うぷっ」
「人で吐き気を覚えるのはまずいですよ」
「どお言ぐごと(どういうこと)?」
「王都エステリアは人口も多く、隣国との関わりも深い。王都はルエリアの中央にあるのに各国からエステリア学校へ入学する貴族たちが後を立たないとか」
「うへ……」
どうやら自国だけじゃなくて他の国からも来る生徒とこれから学校生活を共にしなければいけないらしい。
友達……友達かぁ……前世ではゲームをする友達が5人くらいだったか。
それ以外は居なかった。さらに5人と言っても他の4人とは頻繁にゲームをするわけではなかったため、実質一人と言える。
こんななのにさらにこのルークとしての人生では15年もの間1人で引きこもっていた。だからこそ友達ができるとは思えない。
早々にこの新たな人生の終わりを感じつつ、目的の学生寮に到着したので馬車を降りる。
その間にアナは手を差し伸べてくれた。こうやってずっと付いてきてくれた人が居てくれるのはせめてもの救いだった。
「王都に着いてお嬢様の嘔吐も尽きましたね」
「アナ……これから色々入り用になるだろうから、出需品を1人で買ってきなさい」
「あーあ無慈悲な主を持つと大変です」
「黙って行ってらっしゃい!」
「分かりました。お嬢様も受験を頑張ってください。終わる頃には馬車をここまで連れてくるのでその後は宿で結果待ちです」
「わかったわ。行ってきます」
「はい、行ってらっしゃいませ」
アナと一旦離れて本当に一人になった。
どこへ行けばいいのか分からないでいると、受験生らしい人達が同じ方向へ歩いて行く。その人ごみに紛れるようについていくと案内の看板があるのでその通りに進む。
最初に学生寮へ来たのは寮に入る予定の生徒にも説明があるから、まだ受かると決まったわけじゃないのに説明するのはこの学校の伝統になっているらしい。
あまりに受験する子が多いため長い寮の説明を朝早くに行ってから受験を受けさせる。
そうすることによって受かった生徒への説明も省ける。それに遠くから来ている一部の子には結果が決まるまでは寮にいていいということになっている。
まあそれは優秀な生徒だったり各国の貴族だったりと本当に一部だけど……。
ちなみに私は貴族だけどそんなに地位が高いわけじゃないのでどれだけ魔法や剣に卓越した能力を持っていても寮の部屋は貸して貰えなかった。
だからこの説明会は実質各国の貴族や一部の優秀な生徒に向けたモノと考えていい。
まあいくら人数が多いとはいえせめて入学後にしてもらいたかった。
ただ、この説明会にもメリットはある。それは寮に入る子達の顔を直接見える所
私はそれである1人の女の子を見つけていた。
「あれは……フーリア……?」
王都へ行けば会えるとは思っていたけど、彼女は前の席で説明を集中して聞いていた。
フーリアは今は王都生活のはずだけど……どうして寮に?しかもなんだか雰囲気が変わっているような……。幼い頃はタレ目で笑顔の似合う子だったのに目は吊り上がり、厳しい形相をしている。
まるで過酷な環境の中生きてきた歴戦の戦士のような風貌。
寮の説明会を終えて受験までまだ時間があるので私はフーリアを探した。
フーリアは受験会場の前の受付に居た。まだ受付は開始していない。
私はフーリアに声をかける。
「フーリア?フーリアだよね?」
「ん?へ?」
フーリアは振り返る瞬間すごい形相で睨んできたけど、私の顔を見ると驚きの表情へ変わる。
幼い頃に会えなくなったとはいえ9歳だったからさすがに忘れられていないかと心配だった。だけどその心配は要らなかったみたい。
あの頃のフーリアなら抱きついてきてもおかしくないのだけれど……(私はそれを予想して構えていた)
フーリアは抱きつく様子もなく淡々と話す。
「あなたは確か……ルーク?」
「確かってまるで誰からか聞いたみたいな言い方……」
「え……あ、ごめんなさい。まさか本物だと思わなくて」
「まあいいけど、フーリアもこの学校を受けるの?」
「ええ……じゃなきゃここに居ないでしょ?」
「た、確かに……」
なんだかきつい言い方だなぁ……。
あの頃の柔らかい表情はどこへ行ったのやら……それともただ単にストレスが溜まっているだけかもしれない。
受験勉強とかあるだろうし、ここはあえて機嫌が悪い事には触れずに久しぶりの再会を喜ぶべきだろう!
「あ、私はもう行くわね」
「え、受付はまだじゃない?朝食がまだなら――」
「必要ないわ。それじゃ」
「え、えぇ……」
ちょ、超冷たい!!
私はショックを受けた。
幼い頃はあんなにも仲が良かったのに再会してゆっくりお茶もしてくれない。それどころかまるで私から逃げていくようにまだ受付をしていない会場の奥へ行ってしまった。
フーリアはあの後どうするんだろう……?怒られなければいいけど、そんなことを考えながら私は少しだけ胃袋に何か入れておこうと適当なお店に入る。
適当なお店に入ったけどさすがに王都だけあってとても綺麗な内装に沢山の人に驚いてしまう。
席の空きが無く、2人分のテーブルとイスのある所に座って食事している一人の少女の下へ連れていかれる。
「ただいま席に空きが無く、この方と相席でもよろしいでしょうか?」
「え、おれ……私は大丈夫です」
「お食事中のお客様もご協力お願いいたします」
「ん?いいよー!!」
そんな陽気な返事を返してくれたのは黒髪の少女だった。
多分同年代だろうか……まさかエステリア学校への受験生……?テーブルに寄りかかるように剣が鞘に収まったまま縦にバランスよく置かれている。
剣士か……そんなことを考えながら相席をさせてもらう。
席に座ったはいいモノの少女の食いっぷりに呆気にとられる。
私が相席した時はまだ二品ほどしかなかったのに時間を追うごとに運ばれてくる料理が増えていく。
この子は一体何品頼んだんだ?満席なんだからもう少し控えるべきだろうに……。私はガツガツ食べる少女をずっと見つめていた。
するとその視線に気づいた少女はゴクンッと喉を鳴らす。
「どうしたの?というか料理頼まないの?お金ない?どれか食べる?」
「い、いえ……て、店員さんが急いで運んでくるので頼み辛くて……あ、後何を頼めばいいのかと」
やばい……ちょっとオドオドした話し方をしてしまったような。
知らない人と話すのは15歳になってこれが初めてだった。こういう時、前世の経験を活かしたいのに前世も似たようなものだったからどうしようもなかった。
そんな様子を見ていた少女は、
「じゃあ私が頼んであげるっ!ここのおススメ知ってるから」
「そ、それはありがとうございます。く、詳しいんですね……王都住みの方ですか?」
「ううん、今日王都に来たばかり」
「え……じゃあおススメを知ってるって……?」
「今全メニュー食べたから私が一番美味しかったものを頼べばいいよっ!」
「……」
マジかこの子……。
全部食べるってどれだけお腹空いてたの……。
ま、まあそれはいいわ……せっかく仲良くなれそうな人と相席ができたんだ!!フーリアだけじゃなくてこの事も仲良くなる!!!!
と息巻いたは良いもののその方法が分からず初日のチャンスを逃すかもしれない恐怖に怯えながら相席の少女が頼んでくれた料理を口元に持っていくのだった。