第89話 復讐のリゼル
リゼルは捕えたのでギルド内を見てみると、星の欠片の冒険者のほとんどが魔法で動けないまま拘束されている。
2人ほど動けていたみたいだけどそれもリリィとユリカが無力化したという。
ユリカは小さい少女だと思っていたけれど、やっぱり冒険者をやっているから実力はあるみたい。
しかし……。
「あ、スイレンのお姉ちゃん達だ!無事だったんだねっ!!」
ユリカの敵を倒した後とは思えない無邪気な笑顔が逆に狂気を感じる。子供とは残酷な生き物だと言うが、それを一瞬垣間見えた気がした。
とりあえずギルド内部に侵入して来た敵は全員拘束した。これで一件落着――。
「何アレ!?」
突然、私達がギルドへ入ってきた方を指差しながらリリィが叫ぶ。
そのただならぬ雰囲気にふと後ろを振り返った時、私の横を黒い何かが通り過ぎた。ギリギリ当たらなかったけど……一体何が……。
「あれは!?」
その黒い塊が何か気づいたリリィはそれを両腕を広げて受け止める。
「マスター……!!」
飛んできていたのはこの花園のギルドマスター……ジャスミンだった。
敵は全員倒したはずじゃなかったの……?まさか援軍……?
だけどマスタージャスミンの魔法があったし、ここへ来るまで怪しい人影は見えなかった。
敵は大体がマスタージャスミンの魔法で動きを封じられていたし、じゃあ一体誰があのマスタージャスミンを吹き飛ばしたの……?
恐る恐るジャスミンが飛ばされた方へ視線を向けるとそこには――
「許さないぞ……お前達ぃぃぃぃ!!」
「この声は……リゼル!?」
まさかあの状態から抜け出したというの?というかストレとリチアは……?
……その答えは最悪な形で知ることになる。
ギルド内部に入ってきたリゼルは両手を天高く掲げて力なくぐったりしているストレとリチアの首を掴んでいた。
見せしめのつもりだろうか……一応生きているみたいだけど、あの状態のままが続けば危険だ!!
どうにか隙を見て助けないといけない。
「てか、なんか雰囲気変わってない?」
「え……?」
2人を助けようと飛び出そうとした時、フーリアがそんなことを言う。
言われてみればリゼルから妙な気配を感じる……?というかこれは、魔力か。
あれ……リゼルはエキナを相手に剣で圧倒できるほどに剣術が優れているはず。
それなら剣士だと思っていたんだけど……本当は魔導士?リゼルはストレとリチアを放り投げると、腰の鞘から剣を抜き放つ。
そしてその剣は黒い魔力に包まれる。剣に魔力を付与することは不可能……。この世界には魔導騎士という魔法と剣を両方使える人達は居るけど、本来はそんなことできない。
それは魔法と剣の相性が悪く、1つの身体には魔法か剣のどちらかしか使えなくなっているからだ。何故か魔導騎士だけは特別だけど、それ以外の例があるとすれば……私くらいだ。
「き、貴様……はぁはぁ……魔導騎士だったのか!!」
吹き飛ばされたものの、リリィに受け止めてもらったジャスミンは辛うじてまだ意識があった。しかし呼吸は荒く戦えそうにない。
魔力も時期に空になってしまう。そうなったら動きを止めている星の欠片の冒険者が一斉に動き出してしまう!!
「勘違いするなマスタージャスミン。俺様は剣士……だった」
「はぁ……?力を……手に入れて……はぁ……調子に乗ってるの?口調キモイわよ。それ、絶対あなたの本来の力じゃないでしょ……!!はぁはぁ……」
「あぁそうダァ!これは魔王教団の方から頂いた薬を使ったものダ!!」
「……どういう事?」
「気になるか?気になるよなァ!!」
リゼルはまるで変な薬でも飲んだかのようにテンションが上がっている。
私のリゼルへの印象は敵に回すと面倒な男、どんな状況下でも冷静で先回りするような思慮深さを持っている。
実際、私達がアルストロメリアへ応援を呼びに行くと予想して事前に自分の娘を待機させていたんだから。
あの時の闘技場での試合も私達の力を見定めて、アクアドル達で私達を倒せるか計っていたんだろう。
まあそれはエキナの特訓とルミナのおかげで通り抜けられたんだけど……。
……そういえばリゼルは娘とか言っていたっけ、まさか自分の娘がやられたと思って怒ってる?
だとしたら自業自得だけど、アクアドル達は生きている……というか逃げられた。その連絡が来ていないの?
とりあえずそれを伝えれば今の暴走は収まるんじゃ……。
「アクアドルなら逃げたわよ!カプリコーンと一緒に!」
「そんな言葉を信じると?」
「本当だってばっ!!」
ショナが必至で訴えるがそれを聞こうともしない。
乱心しているのか、薬でハイになっているのか……。今わかることは私達の言葉聞いてくれないということ。
どうしよ……。
魔法を常に放出していたとはいえマスタージャスミンを一発でノックアウトさせたんだから。
しかもリゼルのただならぬ雰囲気に正直怖気ついている自分がいる。
腐ってもギルドマスターの実力を持っているのにさらに魔法が扱えるようになってしまった。
「どうするのルーク!?」
「で、できれば逃げたいんだけど……」
私は正直に伝えた。
「何馬鹿な事、言ってるの!それじゃあギルドの仲間が!!」
「だけどそれだと、ショナ達も……」
「――ッ!!ルーク、私はね。同じチームのこの4人が一番大事。だけど、それと同じ位ここで仲良くなった人達の事も大事なの!!」
「うぅ……」
ショナも怖いはずなのに戦うと言っている。
気づけばフーリアっとユウリも構えている……。私だけ安全ばかりを考えていたみたい。
くそ……認めたくなかったけど、やっぱり長く生きているとこういう所で安全ばかり考えて逃げる事ばかりしてしまう。
この世界へ来て自分は若返ったみたいな感覚になっていたけど、全然そうじゃなかった。こんな奴を相手に戦うなんて馬鹿としか思えない。
だけど彼女達のその意志を無視したくない!
やってやる……!!
だけどそう決意していた時には遅く、リゼルは私の目と鼻の先まで跳んできていた。
「やば……!?」
「まずはお前から――」
リゼルの黒い禍々しい魔力を纏った大きな剣が振り下ろされる!!?




