第84話 炎の狐
「私達だってそれを取り返すんだから!!」
「であれば是非やってみてください」
2体4と人数差では有利だ……けれどアクアドルはそんな状況下でも冷静でいる。
ここへやってきた理由がリゼルの命令だとしたら私達が外へ出る事を知ってたか予想していたってことだよね。私達を止めないとアルストロメリアから応援が来るのは分かっているはずだから全力で止めに来るはず。
なのに4人に対してたったの2人だけで阻止しに来た。
この2人で私達に勝てる自信があるのか、それとも他に戦力を割いているのでこの2人しか出せなかったのか。
まあそれも戦ってみれば分かる!!
「フーリア、ショナ……いつも通りお願い」
「分かった」
「は~い!小さい子でも容赦しないよっ!」
小さい子と言われてアクアドルの頬が少し膨らんだ。やっぱり禁句みたい。
自分の気にしている事を何度も指摘されればムカつくのも無理はない。ショナも悪気があって言っているわけじゃないんだけど……。
そんな小さなアクアドルは一歩、二歩、三歩と後ろに下がってカプリコーンの後ろに付く。
そして白い手提げ鞄から短剣を取り出す。塚の部分にリボンが付けていて何とも可愛らしい。
剣を使うという事は剣士だよね……?なんで後ろに下がったのか分からないけれど、ここは人数差を活かすチャンス!!
フーリアとショナは1人になったカプリコーンへ容赦なく襲い掛かる。
ちょっとずるいかもしれないけど、こっちだって急いでいるんだ。そんなことを言っている暇はない!!
フーリアとショナが同時にカプリコーンへ剣を振り下ろす。
ただの様子見の攻撃なら簡単に避けられるのかカプリコーンは横にスッと移動した。2人の剣は地面へぶつかる前に一度、宙で止めてる。そして近距離でカプリコーンの動きを観察する。
カプリコーンは腕に魔力を集中させて、纏わせている。
魔力を纏った拳を一番近くに居たフーリアへぶつけようとする。
咄嗟にフーリアは剣で拳を受けた。剣と拳、ぶつかればどちらが勝つのかは火を見るよりも明らか。
なのに次の瞬間、フーリアは私とユウリの居る後方まで飛ばされる。
「うっ……どんな馬鹿力よ……!!」
「フーリア大丈夫?」
突然隣に居たはずのフーリアが後方まで飛ばされて心配するショナ。
フーリアはあまり焦っている様子はなく、怪我も無い。ただ力任せに後方まで飛ばされた。
だけど魔導士でこんなに高い身体能力を発揮できるなんて……。身体強化があってもフーリアと純粋な力比べで簡単に押しのける事ができる人はそんなにいない。
そしてフーリアを心配して後方へ視線を向けていたショナの隙をカプリコーンは見逃さなかった。右手を手刀の形で魔力を込めてショナの首筋を狙う。
「ショナ後ろ!!」
私は咄嗟に叫んだ。
この世界へ来て2~3番目くらいに大きな声だったと思う。
ショナは私のそんな声に驚いたものの、すぐに正面へ向き直って剣を相手の手刀に合わせる。
間一髪の所でカプリコーンの攻撃は防げた。
しかし安堵しているのも束の間、カプリコーンの背後に隠れていたアクアドルが小さな短剣をショナの方へ向ける。
「アクエリア!」
アクアドルは剣を通じて、水の魔法を放つ。
それは当然ショナを狙ったモノ。剣を持っているのに魔法を使えるなんて……まさかこいつも魔導騎士……?
いやそれよりも今はショナを助けないと!!
魔法の大まかな火力調整は一旦無視、ショナ、アクアドル、カプリコーンを包み込むバレンタインの炎の魔法を使う。
「不死鳥の炎!!」
当然ショナは回復するように指定することで彼女を焼き殺してしまう心配を無くす。
結果、私の炎を避けるためにカプリコーンは退いてショナは私の炎を浴びる。当然ショナへのダメージはない。
そして炎はアクアドルの放った水と衝突する。
「あら?やりますねぇ~」
「そっちこそ……まさか魔導騎士だったとは」
「……私はただの魔導士ですよ。アレと一緒にするのはやめてください……!!」
「うっ……!?」
突然アクアドルの放つ水の魔法の威力が上がった。どうやら他にも言われたくない事があったみたい……。
私の炎が少しずつ押され始める。なんて魔法の出力……エキナに特訓してもらったのにまだまだ敵わない人が居るんだ……。
このままじゃ多分押し切られる……魔法の属性の相性も悪いし、純粋な魔力の出力でも負けている。
するとそんな時、私の胸と服の間に隠れていたルミナが顔を出す。
この子、どこに入ってたの……ルミナはスルッと私の胸から出ると私の右肩に乗る。
「きゅうぅぅん!!」
突然泣き叫んだルミナの身体は赤い光を放つ、するとみるみる私の中の力が湧いてくるのを感じた。
ルミナが私の魔力の出力を手伝ってくれている。これならより強力な魔法が使える!!
「ショナ!炎の中から出て!!」
「え……これ大丈夫な炎だよね?この炎の中、気持ちいんだけど……」
「ここから熱々で痛い炎に変わるよ!」
「げっ!?退きます!てかなんかイメチェンした??」
何を言っているか分からないけれど、ショナはまるで犬のような耳を両手で表現しながら慌てて私の炎の中から出てくれた。
ルミナが私の身体に流してくれている力、これをうまく自分の身体に馴染ませて魔力に変換する!!
「焔尾ッ!!」
炎の魔法「不死鳥の炎」から新しい炎の魔法「焔尾」に切り替える。
血のような赤い黒い炎は真紅に輝き、威力も何倍にも膨れ上がる。
「――ッ!!」
そのままアクアドルを炎で包み込む――。
その瞬間、カプリコーンが間からアクアドルを救出して炎に包まれる前に脱出した。あの中に飛び込んで行く勇気……信頼関係がないとできない行動だ。
星の欠片には珍しく仲間想いな子達なのかもね。
「危なかったなアクア」
「ありがとうございますカプリン。でも私の事は名前で呼んでくださいね」
「お前だって人前で俺の事を名前で呼ばないからお相子だ」
「……まあいいでしょう。それより、どうやら予想以上ですね」
「そうだな。マスターから聞いていたのと大分違う……こんなの見たことが無い」
「ふふ、そうですね。何と可愛らしい炎のお狐なのかしら」
炎の狐……?アクアドルが何を言っているのかさっぱり分からない。
まさか私の身体が狐になってるとか……?嫌でも手足は人間だよ……?
不思議に思いながら自分の頭を触るとなんだか妙なモノに触れているのが分かる。
なんと私の頭、それだけじゃなくて腰の所から炎の狐の耳と尻尾が生えていた。
「え……!?」




