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第82話 時間稼ぎ


 いつも狐の魔物ルミナをショナのお家に置いて依頼を受けたりしているので久しぶりに一緒に行動できるのが嬉しいのか私の腕の中できゅんきゅん鳴きながら顎にスリスリしてくる。

 可愛いけど急いでアルストロメリアへ向かわないといけないこの状況はあまりよろしくない。さらに全力ダッシュで向かっているのでルミナをなるべく揺らさないようにするので大変だった。


「ねぇ、その獣……ほっといたら?」

「いやいやそれは出来ないよ……揺らし過ぎると可哀そうだし……」

「ちっ……過保護ね」

「なんで舌打ちしたの!?」


 怒られるようなことはしていないはず……確かに走るのは大変だけど、皆の迷惑になっていない。

 だから怒られる心配は無いと思うんだけどなぁ。


「まあルークは過保護よね。ルミナ叱り、私達叱り」

「全くね……私達はあなたの子供じゃないんだけど?」

「だけどそっか!ルークは面倒見良さそうだし子供とかできたらちゃんとお世話しそうだねッ!」

「は?ルークが男を作るわけないでしょ」

「え……ごめん……」

 

 本当に今まで見たことも無い怖い瞳でショナの事を睨むフーリア。

 まあ前世の記憶があるので男を作るというのは嫌すぎるので、フーリアの言っている事は間違えじゃない。

 だけどそんなことは知らないフーリアがそう言うという事は……私はモテないと言っているようなモノよね。


 フーリアがここまで怒ったのは多分だけど、私がモテて先を越されるみたいなことを考えてるんじゃないかな?

 本当にその心配だけは無いんだけどね。

 まあ前世は男だったとは口が裂けても言えないので黙っておく。

 

 アルストロメリアへ向かう道中、ずっとルミナにスリスリされて続けて、それをずっと走りながら見てくるフーリアを気づいていないふりをしてやり過ごす。

 魔法と幼い頃から鍛えた身体のおかげで全力ダッシュを1時間半くらいぶっ通しでできる。

 そのおかげもあって2時間以内に隣街が見えてきた。徒歩5時間を考えると相当早い。

 アルストロメリアの街は赤と桃色を基調とした何とも可愛らしい街だ。


「めちゃくちゃ早く着いたねっ!」

「う、うん……もう少し掛かると思ってたんだけど……」


 車で移動したら20分くらいの距離、馬車だと1時間くらい。それをダッシュで1時間半で着くんだから結構早い。

 これもエキナの特訓の成果かもね。

 唯一身体を鍛えていないユウリも身体の脂肪を魔力に変えて体重を軽くして、魔法で身体強化をすることで付いて来れている。

 

 それでも少しだけ遅れていた。


「はぁ……はぁ……追いついた……」

「ユウリは魔力を身体に溜める事を覚えたんだよね?どうして脂肪を魔力に変えちゃったの?」


 魔力は自然に回復するけど、脂肪は何か食べないと増えない。

 何かあった時のために脂肪は残しておいた方が良いんだけど……。


「それだともっと遅れてるわよ……。剣士と剣士並みに鍛えてた子について行っているだけでも褒めてよ!!」

「そ、そうだね!よく頑張ってね!これが終わったら一杯食べて可愛いお腹見せてねっ!」

「もちろんよ!」


 冗談だと思ってたけど、ショナの行動を今まで見ている限り本当にユウリのぽっちゃりしたお腹が好きみたいなんだよね……。

 私は正直言うと細い美人のユウリが好きなんだけどね。


 痩せたユウリを待ってアルストロメリアの街へ向かう。

 話……聞いてくれると良いんだけど……。


 ――

 その頃、ジャスミンの街のギルド花園の前~


「さすがはマスタージャスミン殿……元ハーベスト帝国、四天種(してんしゅ)の1人か」

「その名前は娘に渡した。もう私は四天種ではないわ」

「謙遜を……たった一人でこの街一帯を魔法で覆えるなんて、なかなかできる人は居ない」


 未だ、ジャスミンとリゼルの戦いは続いています。

 エキナも何とかしてリゼルを倒そうと奮闘するものの、若干押されていました。

 肩で息をするエキナはゆっくりと息を整えながら、なおも剣は手から放さない。


「エキナ、休んでいいわ」

「はぁ……はぁ……確かにマスターの手助けなんて必要ないかもしれませんが……」

「いや、助かってるよ。ただ……少し妙だな」

「妙……ですか?」


 ジャスミンはリゼルのただならぬ雰囲気に気づいていた。

 星の欠片は団員の数こそ多いものの、ジャスミンの魔法に大半の人達が掛かって動けないでいます。

 多少動ける人間が居てもそれは30人程度です。

 もちろんジャスミンの魔法を逃れられるものは相当な実力が無ければ無理なので、その30人は星の欠片の中でも実力者と言っていいでしょう。


 それでも花園の支部リリィの団員は100人を超えています。

 全員が揃っているわけではありませんが、それでも今のところは数で(まさ)っているのが花園側です。

 劣勢の状況下の中でリゼルは余裕の笑みを浮かべている事にジャスミンは気づいていました。


 そしてリゼルはジャスミンにその理由を話しました。


「僕の部下があの4人の少女たちを追っている。と言ったらどうしますか?」

「……なんだと?」

「分かっているんですよマスタージャスミン殿。あなたは時間稼ぎをしている。隣街のアルストロメリアには星の欠片の支部が無い。すぐに助けを要請すれば駆けつけてくれますが、それは助けの声が届けばです」

「それじゃあこのままお前を殺してしまえばいい」

「できないじゃないですか。あなたの魔法は強力だけど当たらなければどうという事は無い。僕達の勝利条件はあなたの魔力切れによる星の欠片の団員解放です」

「……そう言う事か……」

「時間稼ぎをしているようですが、時間を稼がれているのはあなた達だという事です!!」


 リゼルはジャスミンの魔力を削るために魔法を使わせようと、攻撃を加えます。エキナがそれを防ごうとするものの、全く歯が立たず突破されてしまいました。

 リゼルの細い剣がジャスミンを襲います。

 ジャスミンはそこへ見るモノによっては綺麗で美しい黄金色にも真っ黒で怪しい黒い何かにも見える魔法を放ち、リゼルの動きを封じました。

 

 彼女の魔法には触れただけで負けが確定する、それをリゼルは分かっていて、近づいてギリギリで避けられる距離まで近づいく。

 そして魔法が来ればそのまま逃げて退避します。

 そうすることで着実にジャスミンの魔力を削っていく。


「くっ……」

「危ない危ない……それにしても美しい色の魔法ですね」

「……お前にはそう見えているのね」

「えぇ?見えたモノをそのまま伝えていますよ」

「そ、気持ち悪いッ!!」


 魔力の出し惜しみをせずにジャスミンは魔法を放ち、リゼルに当てようとする。

 当たれば勝ちなのにリゼルの素早い動きに魔法が付いて行かない。

 このままではいずれジャスミンの魔力が切れて動けない星の欠片の団員が数百人押し寄せてくる。


 そうなるとさすがの花園もただでは済まない。

 ジャスミンは苦虫を嚙み潰したような表情をしながら空を見上げる。


「早く戻ってきてください」

 

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