第80話 迫る暴動
突然ギルドの扉が爆発したかと思ったらそこからドタドタと軽装備の冒険者集団が入ってきた。
彼らにはそれぞれ身体の異なる所に星を象った紋章を宿していた。武器にその紋章が刻まれていたり、仲には顔に刻んでいるゴツい人も居た。
それに星と言っても可愛いものじゃなくて、星の真っ黒で赤い目?のようなものが描かれていて、睨まれているように見える。さらに星が欠けていて、それも不気味な雰囲気を感じさせる。
どうやら様子を見る限り私達が捕まえたダクトとその仲間を取り返しに来たみたい。
「これはこれは星の欠片の諸君、今日は一体どのような御用で?」
マスタージャスミンが自ら前へ出てこの場を収めようと出る。
しかし、星の欠片の人達の様子を見る限り平和的解決は出来そうにない。血の気の荒い連中はマスタージャスミンの問いを無視してギルド内で暴れまわる。
「ヒャッハー」とか「うろあぁ!!」とか荒っぽい声ばかりがギルドの中に響き渡っていた。
当然それに襲われたギルドの仲間達の悲鳴も合わさって建物の中はパニック状態。
「話を聞きなさいな」
「要件は分かってんだろ?ウチの仲間を返してもらうぜ」
「仲間?君達が仲間想いだとは驚きました」
「ああ、仲間想いだぜ?変な情報を吐かれる前に殺してやるくらいにはなァ!!」
「……」
仲間を取り返しに来たというよりは情報を吐かれる前に殺そうという考えだったか……。
何とも醜い……仲間という言葉だ。
人が変わるだけで仲間という言葉がこんなにも酷いように聞こえるとは……。
すると暴れていあ星の欠片の冒険者の一人が私達の方へ向かって来ている、だけど扉が爆発した時点でフーリア達は戦闘態勢に入っていて、いつでも戦える状態だった。
「皆行くよ!!」
「「「おーっ!!」」」
3人が私の言葉に反応してくれる。それだけ皆のやる気を感じた。
というか1回こういうのやってみたかったんだよね!なんか……かっこいいから!!
しかし意気揚々と迎え撃とうとするがそれをマスタージャスミンは手で制す。動くなという合図……だけどこのままだと星の欠片にやられる!!
「止まりなさい……」
マスタージャスミンはまだ対話をしようとしていた。
仲間を助けるどころか殺そうとしている相手を言葉だけで止めるのは無理だ。そのまま襲い掛かってくる相手が聞く耳を持つわけがない。
……そう普通なら考えを持つわけないんだけど……。
「な、なんだ……!?身体が動かない!!」
「畜生どうなってやがる!!」
これは……まさかマスタージャスミンの魔法……!?
彼女の身体から魔法が発動しているのが分かった、本当に微量の魔力がちょっとずつ消費されている。
「マスター……これは?」
「あなたは確か……ショナさんね。挨拶が遅れてごめんなさいね。これでも忙しい身なので」
「い、いえ……それより何をしたんですか?」
「これは私の幻惑の魔法よ」
「幻惑……?幻を見せる魔法ですか」
「そこまで高度な魔法を使わなくても、私なら人を言葉だけで操れるのよ」
「……恐ろしいですね」
「あら、怖がらなくていいのよ!私は大切なギルドの子らにこの魔法は絶対に使わないわ。仲間とは操って作るものではないのだから」
正直、彼女の見た目は良くない言い方をすると男遊びをしまくっているような感じであんまりフーリア達に見せたくないって言うのが最初の印象だった。
だけど仲間想いで慈愛に溢れた人なのかもね。
まあ使う魔法は結構恐ろしいけど……。
「そう、仲間を簡単に切り捨て、道具のように見ているあなた達は正直嫌いなの」
「……だからなんだよ。畜生ッ!!放せッ!!!!」
「一応言っておくと、あなた達の仲間から情報を聞いたから、星の欠片の皆様方……どうかお覚悟を」
「ひぃ……!?」
そんな見た目は遊び人に見えるマスタージャスミンだけど、その眼力はなかなかのもので荒くれの血に飢えた冒険者を黙らせるほどだった。
それは隣に立っている私も寒気を感じるほど……これはただ眼力が強いからじゃない。彼女の身体に宿る膨大な魔力も影響している。
「ダクトが吐いたのか!?」
「魔王教なる組織と手を組んでいることでしょう?」
「あいつ……捕まってまだ半日も経ってないだろうが……!!」
「私を前に口を紡ぐことは許されないのよ」
「ちっ……クソババアが!!」
「あぁん?」
「ひぃぃぃぃぃ!?」
なんだか地雷を踏んだみたいね。
ちなみにこの場に居るほとんどの星の欠片の冒険者はマスタージャスミンの魔法で動きを封じられている。
ギルド全体のそれも特定の人間だけに幻惑の魔法を使っているみたい。
さすがに……ギルドマスターか。
動きを封じられた星の欠片の冒険者は花園の冒険者の人達に拘束されていく。
エキナの話だと魔導騎士を相手に交渉することができるみたいだけど……なんとなくその実力が垣間見えた。
突然ギルドを襲ってきたことによって、もはや言い逃れはできない状況になったのでマスタージャスミンは今度こそギルドの外へ出ようとする。
星の欠片の所業を報告しに行くつもりだろう。
それができれば私達の勝ち……!!
ギルド内部はとりあえず大丈夫だろうし、私達はマスタージャスミンについていく。要らないと思うけど一応護衛のつもりだ。
だけど壊された扉の外へ出てみると、ギルドの前でマスタージャスミンは立ち止まっていた。
「参ったわね……これは……」
外の光景は星の欠片の人達による暴動が起きていて綺麗な街並みは大荒れだった。
マスタージャスミンは怒りに似た、悲しい表情をしていて少し切なく見える。
一体誰がこんなことを……!!




