第79話 襲撃
あの戦いの後、ギルドは魔王教団に協力していた4人の事情聴取をしている。
私達はその場に同行させてもらえず、ギルドの奥でエキナが事情聴取に立ち会って何があったのか説明してくれるのを待っていた。
聴取している間、暇なので受付に向かい、あの依頼について受付の人に話を聞く。
「あれね……多分ダクトくん達が出した依頼か、あなた達が戦った魔王教団?って人が依頼を出したんじゃないかなと思うのよ」
「なるほど、じゃあ最初のお姉さんの違和感は当たっていたんですね」
「ええ……でも確信が持てなくて、危険な目に合わせてごめんなさい」
「いえいえ!私達もようやくチームワークが良くなってきたので、結果オーライですっ!」
ショナと受付の人はとっても仲がいい。毎回依頼を受ける際は私とフーリアとユウリは受付に依頼を持っていくショナを少し離れたテーブルに座って待っている。
その間はショナが依頼を受けてくれるんだけど、その過程で凄く仲が良くなったみたい。
もともと陽キャ寄りだからねショナ。
すぐ人と仲良くなれる……というのはショナのちょっとした才能、人と打ち解けられる才能はどの世界でも便利なものね。
どうして私は2回目の人生なのに人と打ち解けられないんだろう……。
そんな虚しい誰にも打ち明けられない悩みを思って、心の中で涙を流す。
「魔王教団のことをあまり知らないの?」
そんないつも受付の依頼を任せて話をしないフーリアが珍しく声をかけている。
そういえば魔王教団の名前を出した時、受付の人は首を傾げていた。
「はい……魔王教団なる団体はここジャスミンの街では聞いたことがありませんでした」
「え……ま、魔王教はハーベストにないの?」
「ええ、あ……でも確か私達のギルドマスターとそちらのギルドマスターが魔王教団の名前を出してたような……?」
「マスター?……そういえば会ったことないんですよね」
「忙しいですからね。今は彼らの尋問で珍しくギルドに顔を出していますが……新規のギルド団員なんかは幹部の人達に任せてますから」
「わ、私達もそれでギルドに入れたんですね」
「いえ?手紙をリリィさんが読んで、あなた達をギルドで働かせるよう言われたんです」
「な、なるほど……ところで聴取はマスターさんとリリィさんは上手くいっているんですかね?」
事情聴取にはリリィにも立ち会っているらしい。
今回の問題はギルド間の関係をさらに悪化させるような案件……。
マスターと一緒に話を聞いているリリィはこのギルドの副リーダー的なポジションなので聴取に立ち会っている。
「呼んだか?」
ギルドの関係者の中でもさらに主要な人物しか入れない特別な部屋から3人の女性が出てくる。
一人はリリィ、2人目はエキナ。
そしてもう一人はとてつもなく色気を放つ太ももまで伸びた黒く長い髪を伸ばした女性。
その人の纏う雰囲気は独特でどこか惹かれるようなものがある……これがカリスマ性というものかもしれない。
この人についていきたくなるような圧倒的な空間をその存在は放つ。
「あら?あなた達が今回、星の欠片の騒動に巻き込まれたルエリアの子達?」
「は、はい!!その……」
「自己紹介がまだだったわね。私はここのギルドマスター……ジャスミンよ」
「お、お初にお目にかかります!!」
私は自分でも嫌になるくらいタジタジになりながらギルドマスターと対話する。
マスタージャスミンはこの街と同じ名前で一応この街の領主でもある。
この国のギルドの冒険者の立場が強いの理由はハーベスト帝国のそれぞれの街にある。
それはギルド花園の支部にはそれぞれ領主が担当しているという分かりやすい理由だ。
街の案件で忙しい時は副リーダーがマスターの代わりをしているみたい。
領主なのでだいたい忙しいから副リーダーが実質ギルドマスターみたいな認識でも間違えじゃないという。
「そ、それで……あの人たちは?」
「話はだいたい聞けた」
「あっさり口を割ったんですね」
「結構口は硬い方だったけれど……まあ私の力にかかればこれくらい余裕よ」
マスタージャスミンは唇に手を当てて色っぽいポーズを取る。
い、一体どんな尋問をしたんだろう……。
正直少し気になるんけど!!…… これは多分アレだ。私の前世の魂の叫び声。
どうやって事情聴取したかはフーリア達の前では絶対に聞いちゃだめ!!教育に良くないからねっ!!
私は自分でも理解しているけど結構呑気なことを考えていた、だけど状況はそう平和じゃなかった。
「この件を使って我々は星の欠片を摘発する」
「摘発!?」
「元々この街は2つに別れていなかった。だけど星の欠片が突然出来て何故か力を持つようになって……街を半分取られているような状態だったの」
確かにこの街の領主で花園のギルドマスターである彼女なら街をこんなにはしないだろう。
半分は綺麗な街並みなのに、もう半分はほぼスラム街。
花園の周辺はきちんと整えられていることから、きっとここのマスターは真面目な人だと思っていた。
ちょっと教育に悪そうな見た目をしているけれど、この街の半分を作ったのがこの人ならきっといい人だ。領主の人柄は街の雰囲気に起因する。
実質支配しているのが街の花園側だけだとしても活気が良く、市民の表情もとても華やかだ。
じゃあどうして半分を星の欠片の自由にさせているのか謎だけど……。
その謎についてはエキナが説明してくれる。
「もう半分の街は同じ冒険者ギルドなのに権力に差があるのはおかしいと言われてな……」
「そんなのを市民が言っていたんですか?」
「そうだな……元々居たジャスミンの街の人たち3分の1はそういう意見だった。そしてそこへ星の欠片の息のかかった一般市民が街に入ってきて、数に押されてしまった」
何というパワー技だろう……たくさん人が居ないとできない堂々とした手段……。
しかし街を分割するなんて愚かでしかない。
街の中でいずれ対立できていずれ潰し合うことになるのは目に見えていた。
それはマスタージャスミンも一緒みたいだけど、今日まで動くことが出来なかったみたい。
だけど……友好国のルエリアで危険視され排除の対象になっている魔王教団と星の欠片が手を組んでいるなら別。
じゃあ事情聴取の内容は十中八九、魔王教と星の欠片の繋がりを確信に変えるものだったはず。
「リリィ、ユリカと一緒にギルドで待機していてくれエキナは私と共に来なさい」
「マスターは?」
「私は星の欠片に話を付けに行く、奴らがやろうとしている事は――」
バーンッ!!
マスタージャスミンが何か言おうとしたその時、ギルドの大きな扉が爆発した。
ギルドの中が黒い砂煙に満たされて視界が悪くなる。さらに私を含めてギルド団員達は煙を吸ってしまい咳き込む。
そんな私たちを意に介さず、扉を爆発させた者が叫ぶ。
「おーい!俺たちのギルドの仲間を取り返しに来たぜぇ~!!」




