第72話 不気味な依頼
エキナの過去の話を聞いた後すぐにユウリが私達の下へ帰ってきた。
特訓は一旦終わったので4人で久しぶりに昼食を摂る。
当然だけど昼食中の話題は魔体症がどうなったのかについて。
「一応何とかなりそうだよ」
「それはよかったじゃない!だけどどんな方法で克服したの?」
「無意識に魔力を外に放出してたんだけど、それを抑える練習をしてなんとか魔力を身体に留めておくことができるようになったよ!」
「へぇ……じゃあこれからあまり食べなくていいの?」
「いいけど、食べておいた方がいいよね。魔力が切れた時に脂肪を魔力に変えられるし」
「それ普通の魔導士より魔力が多いってこと?」
「私の魔力を溜めて置ける器はそこまで大きくないんだよね……これも魔体症の影響かな」
魔力を溜める事が出来ずに常に放出していたら魔力の器を広げる事は出来ない。
魔力の器を拡張するには無理やり詰め込んで徐々に広げるしかない。
「え、じゃあ食費は浮かない……?」
「前ほど食べなくて済むというか……脂肪はある程度キープするくらいには食べるだけで、前より相当マシだと思うよ」
「「「おおおおおおおおお!!」」」
ギルドの中だというのに私達3人はその言葉に称賛の声を上げる。
もちろん魔体症が少し緩和されたのならユウリにとってもいいことだしね。それでもピンチの時に魔力へ変換する用に脂肪は減らさないみたいだけど、魔力の無意識の放出が無くなれば消費はかなり抑えられる。
「それはそうと、3人の特訓はどうなったの?」
「「「あぁ……」」」
ユウリとは違い、私達の成果はあまり芳しくない。
チームワークを良くしたいなら、お互いの事を良く知ることの大切さをアドバイスされた。
だけどその話はあんまり進んでいない。
お互いの事を知るにはまず、それを話す覚悟を決めなくちゃいけない。それをショナはなかなかできずにいる。
「え、ショナ……アレを話すの?」
「まあ……もう少し覚悟を決めたら……ね」
「そっか、まあその時が来たら私も手伝うよっ!」
「ありがとねユウリ」
その覚悟はまだ出来ていないけど、いつかは話してくれるという。
それならゆっくり待つしかない。
今はただ、ユウリの事を喜ぶべきね。
「ユウリの魔体症が少し楽になってよかったね!」
「そうね!これでようやく一緒に戦えるよ!!」
「じゃあ午後はエキナの特訓無いし、依頼でも受ける?!」
「いいけど、そんなにお金ないの?」
「ん~どちらかと言えば、確認かな!ユウリがどれだけ強くなったのか!!」
「強さは変わんなくて、持久力が前よりあがっただけだけどね」
それでもどれだけ戦えるのか確認は大事なので確認ついでに依頼もこなしてしまうという算段!!
ユウリの強さ自体が同じならある程度分かってる。持久力がどれほどなのか、そこが気になるところ。
私たちが受けられる依頼の中には結構大変なものがいくつかある。
その中でもクマを討伐する依頼があった。
剣と魔法の世界でもクマの脅威は変わらない。人里に降りてくる前に倒さないと!!
ショナは依頼の紙を手に取って受付へ持って行く。
私とフーリアはいつも通り受付を待っていたんだけど、ユウリはいつもとは違ってショナの付き添いをしていた。
久しぶりに一緒にいられて嬉しいのかもね。2人の笑顔が見える。
そんな素晴らしい友情の光景を目の当たりにしてつい頬が緩んでしまう。
そこへ依頼を受けてきたショナとユウリが戻ってくる。
「う、受けてきたよ」
「どうしたの?」
依頼は受けてきたものの、なんだか困惑している様子。
何があったのかと話を聞いてみる。
「実は……さっき受付の人にその依頼は少々危ない気がするんですよねぇ~って言われたんだよね」
「なんで?」
「んーっとね。依頼主が分からないからだってさ」
「依頼主の名前なしに依頼なんて貼っていいの?」
「匿名性はこのギルドはむしろ大事にしてるらしいよ。他にも色々あるし、私たちがこの街で受けてきた依頼にもいくつかそういうのはあったし」
「じゃあなんで今回に限って?」
「受付の人は今までたくさんの依頼を見てきたからこそ、なんらかの違和感を感じてるみたい。だけどこれはただの勘だから間違ってる可能性だってあるって」
今までのたくさんの依頼の中にはおそらく依頼主の名前なしで危険なものがいくつかあったんだろう。
多分実害が何件かあって受付の人はその空気感を感じ取っているのかもしれない。
受付の人はまだ若い女性だけど、その手慣れた仕草、そしてダクトが押し入ってきた時も冷静に対処していたから経験は豊富だと思う。
じゃあこの勘は信じてもいい。
ただ……。
「あっそ、まあでも受けたんでしょ?」
「まあね……街の近くだし、危なくなったら逃げればいいし」
「じゃあ行くしかないわ」
フーリアとショナはやる気十分。
この依頼を受ける時にユウリも居たので多分この子もやる気はあるんだろう。
ちょっと不安だし、危険なのは嫌なんだけど……仕方ない。
「分かったよ。だけど危険だと思ったら直ぐに逃げるよ!!」
「「「おおーっ!!」」」
なんというか好奇心旺盛ね。
……まさかこれが若さ……?いやいや私も身体は彼女たちと同じ若いはず。
しかし魂というか記憶と言うか、そこは2倍以上の差がある。
もうすっかり好奇心よりも安全を確保することに重視するようになっている。
私は自分の精神的な年齢と彼女たちとの差になんとも言えない気持ちになりながら、依頼のクマがいる近くの山へ向かうのだった……。




