第71話 大切なもう一人の仲間
「うぅ……だ、大丈夫?ダン……」
「エキナ!!!!」
ダリアへ向かった矢はエキナの肩を射抜きました。
血がジワァ……と服に滲んでいきます。
エキナはずっと突っ立ているだけだったけど、さすがに矢がダンを捉えているのを見て勝手に身体が動いたみたいですね。
「大丈夫かエキナ!!」
「え、ええ……剣を構えてれば弾けたんだけど……抜くのを忘れてた……へへ」
「……」
激痛を耐えて心配させないように振舞うエキナ。
冒険者として依頼を受ける際、エキナは常に周りに気を配る。例え茂みや木の中に隠れているモノだろうと少しの気配を感じ取れる。
ほんのちょっとのミスをしないように神経を張り巡らせているのはダン達は知っている。
だからこそエキナが戦闘中に剣を抜かないというのはダンからしてみたらあり得ないと思ったんだろう。
「お前……!エキナの事を想ってる風な口を聞いている割に、彼女に怪我をさせるのか!!」
「……それはエキナが勝手に受けただろ」
「ふざんけんなよ!お前ぇぇぇぇぇええええ!!」
「ただの人間如きがそんな口を聞いていいと思うなよ!!」
再び剣と剣を交える2人。実力は剣術だけならダンの方が上だけど魔法ありだと戦況がひっくり返ってしまいます。
しかし不安はそれだけではありません、矢を放った女性の事も見ておく必要がある。
「お前!もう一度、矢を放て!!」
「で、ですが……アークトゥルス様に当たってしまいます……」
「そんな矢ぁ!如きで僕が死ぬわけないだろ。いいからやれ!この者の動きを封じるだけでいい」
「は、はい……!」
弓の女性は怯えた様子で弓矢を構える。
怯えたその顔はこの時のエキナと似たようなものでした。
彼女は弓を放つ――。
エキナはその矢を落とすと弓の女性は再び矢を弓へ装填する。もちろんその隙に距離を詰める。
このまま弓の女性を気絶させてアークトゥルスをどうにかできれば勝利……きっとエキナの中にはそんな理想が見えていた。
だけど現実は非情――。
「ようやく離れたかエキナ……!!」
「何を言って……」
魔導騎士には魔力を剣に込める事で莫大な力を発揮できます。
魔剣や聖剣に元から備わった力に本来なら魔力は相性が悪いですが、それを組み合わせることができる。魔導騎士の中でもごく一部ができる芸当。
剣に魔力が加わることでただでさえ強力な魔剣や聖剣の一振りが絶大なモノになる。
この時のアークトゥルスはエキナを巻き込まないためにダンに対して手を抜いていた。アークトゥルスが剣を掲げてそのまま振り下ろす。
「輝く星々に裁かれろ!女神剣アークジャッジメント!!」
星のような輝きを放つ剣から光の斬撃が無慈悲にダン……そしてその射線上にいた2人の仲間を襲う。
ダンの剣はアークトゥルスの剣に触れた瞬間、まるでスライムに斬撃を浴びせるようにスッと抜けて、そのまま剣を持っていた腕ごと斬り落とす。
そしてこの斬撃は遠くへ飛ばせば飛ばす程、その威力と範囲が増大する。
そのため、傷を負って動けなかったシュウメイとギクはそのまま斬撃をもろに受けてしまいます。
その跡は人が居たとは思えない程、綺麗に抉れていました。
「うぐあああああああぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁっ!?」
「そんな……こんなのって……!?」
血がダラダラと流れる肩をダンは必死に抑え、そんな怪我をしているのを見たエキナは絶望した顔をしていた。
その表情には当然、死んでしまった仲間達を目の当たりにしてしまったのも含まれているでしょう……。
そんな苦痛の表情を浮かべるエキナとダリア2人に大してアークトゥルスは笑みを浮かべる。
「ククク……だから逆らわない方が良かったんだ。馬鹿な人間共がっ!!」
「……る……ぞ」
「あ?なんだエキナ、ようやく俺の言うことを聞く気になったか?」
「ゆる……許さん……ぞ!このクズがァァァァアアアアアア!!」
エキナは遅すぎた剣を抜き放ち、弓の女性を置いてアークトゥルスへ襲いかかる。その様子を当然面白くないと感じたアークトゥルスは攻撃を受け流しながら更に追い打ちをかける。
「いいのかそんなことをして、次はその男も殺すぞ?」
「……」
しかしその声は聞こえない……いや聞こえているけど聞いていないように無視しているエキナ。聞こえていても聞こえないフリをして剣を振り続ける。
ダンでも苦戦したアークトゥルスを相手に引かず、むしろ時間をかけるごとにエキナが有利になっていた。
「なんだこれ……剣に宿る精霊の力が増している?」
「この……この……死ね死ね死ね死ね!!」
「ぐぅ!?魔導騎士の力……ではないのか?なんだこれ!!おい、エキナ!!やめろ!!!!」
「あああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
私はその声に一切耳を傾けずアークトゥルスへとどめを刺そうとした。
その瞬間、エキナの持つ剣から桃色の妖精のようなモノがうっすらと現れます。
それを見てアークトゥルスは怯え、震えていた。
剣がアークトゥルスを真っ二つにしようという瞬間――。
エキナの首に強い衝撃が襲いました。
――
「その時、私を止めてくれたのがここのギルドマスターだ」
「どうしてギルマスがそこに?」
「私達の帰りが遅かったので見に来てくれたんだ。ドラゴンを相手にできるのは今でも私かマスタージャスミンくらいだからな」
「なるほど、過ちを犯す前に止めてくれたんですね」
「……私はアレを殺すことを過ちとは思っていないがな」
「……」
「まあ私が言いたいのは隠し事をするとロクなことがないということ、場合によるが私が魔導騎士の血筋だと仲間に伝えていれば、私をパーティに入れることは無かったからな……」
なぜそれがパーティに入れて貰えないのか理由は分からないけど、エキナは確信を持って行っているようだった。
私にとっては魔導騎士なんて関係ない。3人が剣と魔法を両方扱える私を拒絶しなかったように……。
男勝りなエキナには珍しく、暗く落ち込んでいる。
「何かあれば何でも仲間に伝えて欲しい。例えそれで仲間と一緒に居られなくても……」
「ダンさんはその後、どうなったんですか?」
「片腕を無くしたことで冒険者として生きて行けなくなったから田舎の村で過ごしている。私は彼の意志を忘れないようにバイオレットの名を貰った」
エキナがパーティでの行動をしないのはそんな過去があったからなのね。
マスタージャスミンによって、守られている彼女はアークトゥルスから距離を取る事ができて今に至るという。
そんな辛い話をしてくれたエキナは疲れたように今日の特訓はここまでと言って背を向ける。
「仲間が死んでからじゃ遅い。お前たちには仲間が居る。どうかそのために間違えないでくれ……くれぐれも私のような1人にならないようにな」
エキナがそう言って去っていった……その直前、エキナが出て行った所からふくよかな女の子が現れる。
それは魔体症を克服するためにパーティを離れていた大切な仲間、ユウリだった。