第70話 過去
「失礼な事を言うね。君、それは魔導騎士を侮辱した……という事でいいか?」
「な、なんでそうなるんですか!」
「確かに彼女は魔導騎士の血を引いているが魔法は使えない。しかしそれでも魔導騎士なのに使えないの?というのは失礼だ」
「はぁ!?いや……そういう事を言ってるんじゃないんですが……」
この魔導騎士……名前はアークトゥルスという。
ダンはアークトゥルスに少し弱腰になってしまいました。そのせいでアークトゥルスは逆に態度を大きくし始めてしまう。
「ふん、まあいい。エキナを冒険者と言う小汚いモノから解放してくれるならな」
「それはエキナをパーティから抜けさせろと!?」
「そう言う事だ」
「それは……嫌です」
「は?どうして?」
「か、彼女は僕の……僕達にとって必要なので!!」
「君、名前は?」
「ダン……ダン=バイオレットです」
「そうか、僕はアークトゥルスだ」
「確か、エーテルナイトは家名を持たないんでしたか」
「そうだけど、魔導騎士様と敬称を付けて、君達ハーベスト人は僕達を舐め過ぎだ」
「……エーテルナイト様」
ダンに対して高圧的な態度を取り続けるアークトゥルス。
当然のごとくダンは怒っている様子だったが、それを表には出さない。
エキナ達のような仲のいいパーティメンバーだからこそ気づける些細な違い。
だとしても怒りなんて魔導騎士を相手に見せるわけにはいきませんが……。
ムカつきますが、この世界では神と認識され各国の王と同等かそれ以上の権力を持つ魔導騎士それに反抗するという事はもはやこの世界に逆らうのと同罪……。
そうならないためにダンはそんな怒りを抑えて冷静を取り繕います。
「さすがにパーティメンバーを何の理由もなく抜かれるというのは横暴じゃないですか?」
「なに?僕の言う事が聞けないのか?」
「そう……ですね。仲間を守るのがリーダーの役目なので」
「ふん……ではエキナ。お前はどうなんだ?」
このままでは埒が明かないと考えたのかアークトゥルスはエキナへ交渉の対象を変えます。交渉とは名ばかりですがね。
きっと今のエキナであればこの状況で引くことはしない。それどころか魔導騎士を相手でも剣を抜く覚悟を持っているでしょう。
だが、この時のエキナは普段の口調こそ男勝りなものの、性格は今ほど自信家ではないのです。
特にこのアークトゥルス相手だと昔の事を思い出し尻込みする。
「わ、私は……もう魔導騎士ではありませんので……」
「僕達は魔導騎士じゃない者と婚姻は結ばない。君はその力こそないが血は魔導騎士だから、大丈夫さ!」
「……それでも私は冒険者をしていたい……のです」
魔導騎士だった時に使っていた話し方を思い出しながら不愉快な気持ちにさせないようにエキナはそう応えました。
ダリア含めたパーティメンバーはそんないつもとは全然違う私を見て終始驚いていた。
「冒険者なんて大変なだけだよ。僕が君を魔導騎士に戻してあげるから」
「いや……私は冒険者が良いというか……」
「はぁ?」
「うっ……」
そんなだんだん反抗できなくなっていくエキナをパーティメンバーは助けようとしと勇気を振り絞ります。
「すみませんが!エキナは私達の仲間なので!!」
「そうです。彼女はボク達の仲間、いくら魔導騎士でもそこまでの勝手をすれば、家名が無いあなた自身の名に傷が付きますよ」
パーティメンバーの女性、シュウメイと眼鏡をかけた男性のギクがエキナを庇うように前へ出ます。
「2人の言う通りです。ここは引いてくれませんか?アークトゥルス様……俺達はドラゴンを退治したばかり、とっととそのドラゴンをギルドへ持ち帰りたいんです」
「は?君達は何を言ってるんだ?エキナは我々の仲間だ」
「だけどこの子は追放されたんだろ?じゃあ違うはずじゃないですか?」
「……だから僕が戻してあげると言っている!!」
「エキナはそっちへは行きたくないと言っている。そんな勝手はいくらエーテルナイトでも通用しない!!」
「黙れよ……!!」
アークトゥルスは怒鳴りながら腕を振る。その腕を振る動作は魔法を発動するためのもので、水の魔法が仲間のシュウメイを狙います。
シュウメイはまともに攻撃を受けて吹き飛ばされてしまい、その水の勢いは凄まじく、むき出しの岩盤を凹ませるほどだった。
「なっ!?何をするんですか!!」
「何って僕達に逆らう愚か者へのバツだよ」
「それでもエーテルナイトかよ?!」
「だから……様をつけろよぉ!!!!!!」
次は剣を構えてダンに襲い掛かる。
魔導騎士の特徴は魔法と剣を一緒に扱える特異体質ということ。一般人は魔法か剣のどちらかしか扱えないようにできているのに彼らはその枠組みから外れる。
だからこそ選ばれた人の神として君臨している。両方の戦闘技能を使えるのでこんな人間でも強いのです。
しかし、ダンはドラゴンを倒せるA級相当の剣士でいくら2つの戦闘技能を使えても剣術で負ける事はなかなかない。
ダンは攻撃を見極めつつ、でも相手を傷つけないように攻撃を避けたり受け止めたりするだけに留める。
ギクは吹き飛ばされたシュウメイの所へ駆け寄る。
「さすがにやりすぎですよ……。エーテルナイトでもこれを報告されればどうなるか……分かりますよね?」
「……ならお前達を殺せばいい。それで丸く収まる!!」
「身勝手すぎるし短絡的すぎる!」
「うるさいうるさい!どうして僕の攻撃が当たらないんだ!!」
「これ以上、やるならこっちも攻撃します」
「……クソ、めんどくさいなぁ!」
アークトゥルスが鬱陶しそうにする。しかしその次の瞬間、彼はニヤリと笑みをこぼす。
「もういいぞ出てこい、お前!!こいつを殺せ!!!!」
「え……?」
アークトゥルスの背後の物陰にずっと隠れていた護衛の女性が弓を構えて、矢をダンへ放つ――。
アークトゥルスはその矢を避けられないように剣を振って逃げられないようにする。
剣を受け止めて、無防備なダンの心臓を矢が捉える。
ザクッ――。
鈍い音が山に響く。




