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第69話 エキナ


 ユウリとアザミが魔体症の克服のために何らかの特訓をしている間、私達はユウリ抜きでエキナの特訓に参加していた。

 ユウリがチームを抜けて1週間が経過した頃、ショナは闘技場へ向かう度、この世の終わりのような顔をしている。

 一週間もユウリと一緒に行動できない時が続いて精神的に参っている様子。


 そんなショナの様子を見て呆れているのが私たちに戦い方を教えてくれているエキナだった。


「ショナ、時には仲間と離れて行動する場合もある。こういうのは慣れておいた方がいいぞ」

「わ、分かってますけど……」

「……なにか昔、あったのか?」

「え?」

「仲間だからと自分の心の奥底へ入ってきて欲しくない気持ちは分かる。だが、それが自分にとって重要なことであればあるほど、これからずっと一緒にいるはずの仲間を苦しめることになる……かもしれん」


 その言葉には何か重みを感じた。

 珍しく自信たっぷりのエキナが暗い表情をしている。

 しかしそれでも話す気がないのかショナは俯いていた。そんなショナの表情を覗いてみると少し怒っているような悲しんでいるような複雑な表情を読み取る。


「じゃ、じゃあエキナさんのその苦しかったことを教えてくれませんか?」

「なんだと……?」

「私たちは仲間なんですよね?さらに言えばエキナさんのその苦しかったことが仲間を苦しめる要因になっているのなら、教えてくれますよね?」


 おそらくショナは意地でも言いたくないんだろう。

 だからってエキナの傷口をエグるような事を言っていいはずはない。エキナの暗い表情からもショナと同じくらい言いたくないことなんだろうし、相当苦しい選択を迫っているのかもしれない。

 エキナは相当悩んだ末に諦めてショナに話させることはやめる……と思っていたんだけど、彼女は覚悟を決めた顔をしていた。


「私はお前達に戦いを教えると決めたからな。それは長く冒険者を続けて欲しい。そのためなら……同じ過ちを繰り返さないように」

「……話すんですか?」

「必要そうだからな」

「……」


 ――


 2年ほど前のお話です。エキナと同じ当時Aクラスの冒険者が他に3人居ました。

 エキナとその3人は7年前にギルド花園へ同時に加入した同期としてチームを組んで依頼をこなす。

 

 2年前でAランクの冒険者の頃。


 たった5年でAまで上がれるのは才能と言えるが実力のあるメンバーが揃っていればそれは不可能というわけではありません。

 それでも相当な努力が必要ですが……。


 メンバーは男2人女2人で構成されていて、エキナはその一人の事を想っていました。

 冒険者としての旅は充実していて遂にS級冒険者になれる所まで到達します。S級になるには試験が必要でその日はまさに試験の日だった。

 それはハーベスト帝国の末端にある山岳に住むドラゴンの討伐。

 

 エキナ達は苦戦を強いられたもののなんとかそれを打ち倒すことに成功した。

 ドラゴンの骸を前に雄叫びを上げる私達4人パーティ……しかし、そこへ予想だにしない人物が声を掛けてきます。


「このドラゴンを倒すとは……やりますね」

「ありがとう!!!!えっと失礼ですがあなたは一体?」

「ああ……僕は世界最強の剣士にして魔導士……魔導騎士(エーテルナイト)さ」

「……な、なるほどそれでそのエーテルナイト様が一体どうしてこんな所へ?」

「いや何、久しぶりに気になる気配を感じて来てみたんだが……まさかお前が冒険者をやっているとはな」


 その魔導騎士(エーテルナイト)を名乗る男の目に捉えられていたのはエキナでした。

 

 過去の事を思い出し居心地の悪い気分を覚えていたエキナ、しかしそれを悟られないように作り笑顔を見せます。


「あ、あらどうも……お久しぶりですわ」


 今のエキナでは考えられない程お淑やかで礼儀正しい口調……声色も少し高い。そんな突然のお嬢様言葉にその場に居たチームメイト達は驚いていた。


 しかしエキナのパーティメンバーとは違い、その魔導騎士(エーテルナイト)は驚く素振りすら見せない。


「そうだな。お前が追放されてから10年以上立つ……まさかこんな所で冒険者をやっているとはな」

「追放……?」


 パーティメンバーは当然その言葉に疑問を感じずにはいられないでしょう。

 このまま隠し通すのは不可能、そう確信してしまったエキナは自分の正体を明かした。


 ……この人の口から明かされるのは嫌だったからでしょうね。


「私は……魔導騎士(エーテルナイト)の血筋なの……」

 

「「「えっ!?」」」


 3人の驚きの声がドラゴンを倒した山に響きます。

 エキナはそんな3人の中に居る想い人の男性の様子を窺っています。自分が魔導騎士(エーテルナイト)の家系と知って彼はどう思うのか。魔導騎士(エーテルナイト)はこの国じゃ嫌われている。


 だから嫌われるんじゃないかと不安だった……。

 

 いやむしろ……これで突き放されていればあんな事にはならなかったのかもしれないんですが……ね。

 

 この時のエキナは彼に嫌われないために全力で弁解した。

 

「で、でも私は剣しか使えないの!!」

「そ、そうなのか?魔導騎士(エーテルナイト)なのに?」


 エキナは確かに魔導騎士(エーテルナイト)の血を引いているけど魔法は使えない、それ故に魔導騎士(エーテルナイト)を追放された。

 

 目の前に突然現れたその男性は私の幼い頃を知る者。

 そしてその突然現れた魔導騎士(エーテルナイト)の男はエキナの事を……そう、とてもとても卑しい目で見ていました。

 

 それがパーティを壊すきっかけになるとはこの時は誰も想像できなかった。


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